転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第222話:一八四五年、大戦略再考

 じっくりと世界地図を眺めれば眺めるほどアラビア半島が欲しくなる。
 アラビア半島が油田地帯であるというのもあるが、それだけではない。
 スエズ運河を造るという大前提があるのだ。
 紅海を内海化したいと思うのは当然だろう。
 将来の石油戦略を考えれば、ペルシャ湾も徳川家の内海にしたいと思うのが、戦略的な考えができる者なら当然の帰結だと思う。

 それを平和裏にオスマン帝国に認めてもらうためならば、相当な代替地を割譲する覚悟をすべきだと思う。
 チェコ、スロバキア、ドイツに加えてウクライナやベルロシアを割譲しても構わないと思うのだが、これでオスマン帝国は領地交換を受けてくれるだろうか。
 それとも黒海沿岸部をオスマン帝国が内海化できる割譲案の方が、徳川家が総力をあげて開発した造船地帯があるから、利があると考えるだろうか。
 
 未来を知ってる俺だからこそ、アラビア半島がとても重要だと分かっているが、そうでなければ砂漠が広がる不毛の大地としか思わないかもしれない。
 それに、ボスボラス海峡とダーダネルス海峡をオスマン帝国に封鎖されている徳川家にとっては、黒海沿岸部に開発した造船所はそれほど重要ではない。
 オスマン帝国と開戦した時には黒海艦隊など何の役にも立たない。
 むしろ今が一番の売り時かもしれない。

 だが問題は今黒海沿岸部に領地を与えられている者達の処遇だ。
 まあ、幅の狭い沿岸部だけに限定するから数は少ないが、ちゃんと真心をもって対応しなければ徳川家の信用が地に落ちてしまう。
 幸いペルシア帝国という大領を得られたし、四十万近い将兵を殺している。
 移民を受け入れる余地は十分ある。
 海岸線を手に入れたから、黒海とペルシャ湾オマーン湾は違うだろうが、漁民として生きていきたい者にも海を与える事はできるだろう。

 それにしても、俺も落ちるところまで落ちたな。
 死者の数を数字でしか見れなくなっている。
 戦場から遠く離れた平和な日本で百万以上の人間を殺し合わせている。
 しかも前世の欧米列強が身勝手にアフリカやアメリカの国境を線引きしたように、俺も中東やアフリカの国境を線引きしようとしている。

 どう考えてもろくな死に方はしないな。
 今度死んだら転生する事無く地獄落ちだろうな。
 なんでこんなことになってしまったんだろう。
 最初は黒船の備えようと思っていただけなのにな。
 個人的に失敗だと思っている明治維新を正したかっただけなのに。
 明治維新で損籤を引かされた佐幕派の名誉挽回をしたかっただけなのにな。

 まあ、いい、ここまで来たらこのままやるしかない。
 毒を食らわば皿までだ。
 利を得ようと陰で小汚く動く公家を皆殺しにしてやる。
 今なら反対する大名も幕臣も日本にはいないからな。

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