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克全

第218話:一八四四年、ペルシア帝国侵攻

 当然だが徳川軍は十分な事前準備をしていた。
 表に見える兵数や装備、補給品の武器弾薬だけではなく、情報戦もだ。
 ペルシア帝国がグルジアなどカフカズ方面ではなく、トルクメン方面に攻め込んでくるように噂を流すだけでなく、賄賂を好む貴族連中を抱き込んであった。

 彼らにモハンマド・シャーや首脳部を誘導させた。
 徳川家とオスマン帝国を同時に敵に回すのは危険だと。
 特にウィーンを陥落寸前にまで追い込んでいるオスマン帝国を敵に回したら、バルカン半島軍をウィーン包囲に残して、主力軍をペルシア帝国侵攻に転戦させる危険性があると言わせた。

 それより今は徳川家だけを敵に絞るべきだと提案させた。
 同じ中東のペルシア帝国とオスマン帝国が手を結び、ペルシア帝国は元ロシア帝国を併合して東に向かい、オスマン帝国がオーストリア帝国を併合して西に向かう。
 世界をペルシア帝国とオスマン帝国で二分するのだと、モハンマド・シャーに痴人夢を見させるように仕掛けたのだ。

 ただ戦略的に全く間違っている訳ではない。
 心から信頼できる同盟国が隣国にいるのなら、背中を預けて反対方面に侵攻すべきなのは同然なのだ。
 無条件に信用するのは愚かだが、警戒しつつも利用し合うのが正解だ。
 最後はどうなるか分からないが、互いに利用価値があり、簡単に滅ぼせないだけの力を持っていれば、織田家と徳川家の同盟のように機能するだろう。

 だが今回の場合は徳川家の仕掛けた罠だ。
 徳川家もオスマン帝国も、ペルシア帝国にある程度領地内に侵攻させて大義名分を得てから、一気に逆撃してテヘランを落とす心算でいた。
 だからペルシア帝国がトルクメン方面に侵攻したと聞いた時は、躍り上がって喜びを表現したいくらいの気持ちになった。

 何故なら内心多少の危機感も持っていたからだ。
 モハンマド・シャーが慎重だったり賢明だったりした場合、事前に徳川家かオスマン帝国に秘密同盟を持ちかけてくる可能性があったのだ。
 徳川家と敵対するのなら、オスマン帝国に秘密同盟を持ちかけて背後の安全を確保した方がいいのだ。
 オスマン帝国と敵対するのなら、徳川家に秘密同盟を持ちかけて背後の安全を確保した方がいいのだ。

 今回はそのどちらもなかった。
 それだけの知恵が回らなかったのか、徳川家とオスマン帝国の同盟が強固で、事前に持ちかけても無理だと思ったのかもしれない。
 一度実戦で徳川家を破るという実績を作った後でなければ、オスマン帝国は味方にならないと思ったのかもしれない。

 徳川家とオスマン帝国の同盟が強固だと思うのなら、最初から欲をかかなければいのだが、愚か者というのは何でも自分の都合だけで考える。
 耳障りのよい大言壮語に引き寄せられるモノだ。
 だがそのお陰で、ペルシア帝国を滅ぼすための大義名分は整った。

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