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克全

第202話:一八四二年・ロシア戦線紀州徳川家指揮官

「逸るな、功名を焦るな、生き延びることを一番に考えろ」

いかんな、勝ち戦なのに損害を出してはいかん。
彼らは生き延びさせてもっと上様のお役に立てるのだ。
上様の世界制覇の尖兵となるのが我らの役目だ。
その為に俺は紀州徳川家に派遣されているのだから。

もうロシア帝国は終わりだ。
上様の考えられた塹壕とドライゼ銃は無敵だ。
敵の放つ火縄銃など恐れるに足りん。
射程に入り前に皆殺しにしてくれる。
弾薬も食糧も有り余るほどある。
敵が音を上げるまでじっくりと構えればいい。
心配しなければいけない事といえば。

「お前達、足の点検はやったか。
少しでも浮腫みや違和感のある者は軍医に相談せい。
足が腐り果ててはこれから天下のためにお役に立てないのだぞ。
生きていればまた手柄を立てる機会などいくらでもある。
勝ち戦で手足を失い死ぬなど愚かな事ぞ」

塹壕足か。
上様が直接指示された戦病だ。
見過ごすようでは上様の想いを踏み躙る不忠となる。
後詰めの兵力に不安はない。
紀州家だけが手柄を立てては諸侯の嫉妬を買ってしまうからな。
ちゃんと全諸侯が手柄を誇れるようにしないといかん。

「陣代殿、補給部隊から糠漬けが届きました」

「そうか、交代で休憩せい」

毎日ちゃんと補給品が届く。
三度三度腹一杯の飯が食える。
仕官前の日々の食事にも困っていた頃が嘘のようだ。
玄米飯や麦飯を喰わなければいけないのだけが少々アレだが。
江戸病や戦病の予防に必要と言われれば文句も言えん。

もう一月もせずにロシア帝国は滅亡するだろう。
そうなれば今度はバルカン半島への侵攻か、ポーランド・リトアニアと同盟してオーストラリア帝国への侵攻だ。
いや、上様なら内政に力を入れられるかもしれない。
あまりにも広大な領地を手に入れたから、内政に力を入れて異民族を慰撫しないと敵に付け入るスキを与えることになる。

まあ、一諸侯の陣代が限られた情報で考えても仕方がないな。
俺達は俺達にできる事を確実にやる事だ。
まずは眼の前の敵、ロシア帝国を確実に滅ぼす。
次の戦線に送られるのならそこでも同じように精一杯戦う。
領地の統治を任されるのなら、領民を慰撫して反乱が起きないようにする。
荒れた農地を立て直して食糧生産を元通りにする。

上様が作らされたスコップというモノは塹壕を作るだけでなく農作業荷も役立つ。
上様の作られた農作業道具のお陰で米や麦の取れ高が格段に増えた。
開拓も格段に速くなった。
紀州徳川家は五十五万石から百五十万石も夢ではない。
下級藩士の生活は格段によくなる。
いや、よくするように上様に言われているのだ。
なんとしても成し遂げるのだ。

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