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克全

第188話:一八四〇年、予言なし、思想と鉄道

今年の新年の予言はなしだ。
いや、なしというよりはイギリスとの戦争が予言になるだろう。
問題があるとしたら各方面への挨拶だった。
先例や儀式で縛られた朝廷への挨拶など絶対に嫌だ。
徳川幕府が定めた先例や儀式も嫌だ。

そんな心身を擦り減らして時間を浪費するのは無駄以外の何物でもない。
特に今のように世界中で戦っている状況では罪悪でしかない。
だから全部戦時の緊急事態という事でなしにした。
どうしてもやらなければいけない事は、父親に任した。
楽なのは先代将軍で大御所の家慶に全部任せる事なのだが、それでは将軍位を委譲させた意味がないので、趣味三昧の生活を楽しんでもらっている。

家慶は全ての責任や堅苦しい生活から解放されて喜んでいるようだった。
やはりまともな人間には将軍なんて苦役以外の何物でもない。
俺が改善したとはいえ脚気になるような冷たい食事は美味しくないだろう。
鷹狩だって何時でも好きにできる訳ではない。
釣りや貝拾いだって思いついて直ぐできる訳でもない。
今なら全部いつでも家族と一緒に楽しめるのだ。

今俺がそんな生活を羨んでも仕方がない。
適当な所で手を打って誰かに責任を背負わせる事もできたのだ。
誰も信じられずに自分でやると決めたのは俺だ、死ぬまでやるしかない。
表向き権力を移譲しても、継承者が道を踏み外さないか裏から見張って手を打たなければいけなきだろう。

そう考えたら、大嫌いだった徳川家康に同情してしまった。
決して好きにはなれないが、家康なりに天下人の責任を全うしたのだ。
先駆者である信長と秀吉の失敗を見て学べたという点は大きいが、見ても何も学ばず潰れていく者が多い中で、自分にできる限りの事をやったのだろう。
好きにはなれないが理解はできる。

さて、では俺も思考に逃げるのではなく現実を直視しよう。
開発生産に成功した蒸気機関車の鉄道網を広げていく。
欧米の知識を日本人が独自に工夫した部分に加え、アメリカ合衆国の技術者を捕虜にできた事も大きい。
友好国になったフランスやドイツから技術者を招聘できたのも大きい。

何より旧松前領と徳川幕府領は俺の好き勝手にできる。
食糧生産力は極力落とさないようにしながらも、最初から複線を前提に土地を買収したり接収したりすることができる。
河川の堤防や海岸線の防波堤を建築する前提で、堤防や防波堤の上に鉄道路線を敷くことができる。
だが特に大切にしたのは戦争による攻撃対策だ。

前世の知識があれば、敵海軍による艦砲射撃や航空攻撃が怖い事が分かる。
地震や津波の被害も考えておかなければいけない。
経済だけを考えれば人の多い平野部を中心に、平野部を繋げる路線だけでいい。
だがそれでは非常時に対応できない。
だから経済性を無視してでも、基幹鉄道は内陸部に敷かなければいけない。
沿岸鉄道路線を寸断されても最低限の輸送が確保出来るようにする。

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