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克全

第177話:一八三九年、徳川秀之助改め徳川恕秀視点

ここで失敗するわけにはいかない。
ここで余が失敗したら、兄上、いえ、十三代様の面目を潰してしまう。
それに余が何かしなければいけない訳ではない。
全て十三代様が付けてくださった陣代に任せればいい。
最前線で鍛えられた彼らなら安心して采配を任せられる。

「かかれ、皆殺しだ、皆殺しにするのだ」

ただ彼らが一切の容赦をしない事には少々驚かされた。
最初は何かの間違いだと思って問いただしたくらいだ。
あのお優しい十三代様が敵が相手とはいえこのような事をさせる訳がない。
そう思ったのだが、理由を聞いてよく分かった。
肌の白い連中がこの大陸でどれほど悪逆非道の事をやって来たのかを。

話を聞けば仕方のない事だと分かった。
ここで見逃せばまた何処かで誰かの命と財産を奪うだろう。
十三代様が話して聞かせてくださった一向衆や法華経徒のように。
南都北嶺の僧兵どものように。
大将である余は、将兵を信じて黙って本陣で堂々としているのが仕事だ。

「若殿、侵攻は順調でございます。
マッケンジー川に陣地を築くのは諸藩の者達に任せて、我らは南進いたします」

本当に陣代達は優秀で、瞬く間に肌の白い連中を皆殺しにした。
それだけではなく我らと同じような肌をした者達と友好を築いている。
もう大身と言っていいほどの領地を得ているというのに、少しも奢る所がない。
これが敵地で安全な拠点を創る最良の方法だと十三代様からも教わって来た。

だというのに、何度言い聞かせても理解しない馬鹿どもがいる。
先祖の軍功を誇るだけの役立たず共。
役に立たないだけならともかく、友好的な現地の民に対して威丈高に振舞う。
それがどれほど我らを危険にさせるか何度言っても理解しない。
ここで尾張徳川家が負けるような事があれば、どれほど兄上に迷惑をかける事か。

「若殿、獅子身中の虫を始末したいと思うのですが、宜しいですか」

十三代様が、いや、兄上がつけてくれた陣代が決意の籠った眼で話しかけてきた。
連中を殺してくれるというのか。
だが大きな問題がある。

「余や父上に恨みが行くのなら構わない。
だが十三代様の評判に係ったり、恨みが向く事だけは許せんぞ」

「お任せください、若殿。
彼らが敵陣逃亡するように仕向けます。
ずっと見てきましたが、彼らに敵と戦うような度胸はありません。
敵を上手く誘えば、必ず逃げ出します。
下手に戦場で殺すと、討ち死にの功で加増しなければいけません。
だから彼らには無様に逃げてもらいます。
ただその代わり、若殿には負け戦の汚名を着ていただくことになります。
ただ直ぐに大勝の功を立てていただきますが」

「構わぬ、汚名くらい喜んで着る。
ただその汚名が十三代様汚名にならないように、くれぐれも注意せよ」

「御意」


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