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克全

第155話:一八三六年、仏国

一八三六年当時のフランスは、一八三〇年七月二九日の七月革命で王政復古した立憲君主制度の国家だ。
だが貴族制度や世襲制度は廃止されたものの、投票権がある人間はわずか〇・六パーセントしかいない、富裕層と労働者の貧富の差が激しい国だった。

一八三二年六月にはパリ市民が王政を打倒しようと暴動を起こして失敗している。
ルイ・フィリップが王位についているが、真の共和国を夢見るレプブリカンからも、ナポレオン帝国の喪失を嘆き帝国復活を望むボナパルティストからも、ブルボン朝の残影を懐かしむレジティミストからさえも支持されていない。

だから俺はパリに密偵を放って、フランスが東方問題から手を引くようにパリ市民に運動をし、三派閥が協力関係を結ぶようにした。
しかも三つの派閥が同床異夢になるように仕向けるようにした。
特に今の王政を作った元凶が、ナポレオン一世を破ったロシアだと囁いた。
ロシアの南下はフランスの滅亡を意味すると囁き、革命の機運を盛り上げた。
この時先頭に立って調略と謀略を行い、反ロシアにパリ市民の意識を向けてくれたのが、コーカサス方面に撤退したポーランド・リトアニア貴族だった。

俺が特に優先しろと命じたのはボナパルティストだった。
ナポレオン一世ことナポレオン・ボナパルトの子供、ナポレオン二世と呼ばれるナポレオン・フランソワ・シャルル・ジョゼフ・ボナパルトは死んでしまっていた。
こんな早期にヨーロッパに近づけるのなら、病気にならないようにするなり、将軍としてコーカサス方面に向かえるなりしていたのに、失敗だった。

だが失敗を嘆いていているばかりでは何にもならない。
これからのために失敗を反省検証して次につなげなければいけない。
少なくとも次善の策を打たなければいけない。
ナポレオン一世の弟ルイ・ボナパルトの三男で、同名のルイ・ナポレオンは不義の子という噂はあるが、正式に認知されている。
ストラスブールで一揆を起こす準備をしているが、それよりはパリで革命の盟主に祭り上げた方がいいだろう。

隠し玉としてナポレオン二世とゾフィー・フォン・バイエルンの不義の子という噂のある、フェルディナント・マクシミリアン・ヨーゼフ・マリア・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンを確保することにした。
知性と野心と強い意志のあるゾフィーに、機会があればフランス皇帝に擁立するので、その時にはナポレオン二世との不義の子として欲しいと密約を結ぼうとした。

成功するかどうかは分からないが、少なくともゾフィーの夫の実家である神聖ローマ皇帝(オーストリア帝国)と、ゾフィーの実家であるバイエルン王国を牽制することができる。

他にもナポレオン一世の庶子レオン伯シャルルとアレクサンドル・フロリアン・ジョゼフ・コロンナ=ヴァレフスキを確保した。

運がいいのか悪いのか、アレクサンドル・フロリアン・ジョゼフ・コロンナ=ヴァレフスキはポーランドの十一月蜂起に加わりコーカサス撤退に同行していた。
彼なら同盟者として最適なのだが、非嫡出子の継承権を認めないヨーロッパ習慣では非常に不利だ。
ナポレオン一世と不義をしたマリアの夫、ヴァレフスカ伯爵が正式に認知しているから、ポーランド・リトアニア貴族としては何の問題もないのだが……

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