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克全

第130話:一八三五年、報復

俺は祖父と父の策謀を黙認した。
理想と欲望の狭間で決断ができず、卑怯にも運命に委ねることにした。
恐らく自分の欲望通りの結果になるだろうと予測しながらだ。
随分と卑怯な人間になったものだ。
自分のやった事に反吐がでるが、後悔はしない、断じてしない。
結果を出して償いとする、それだけを考えて全身全霊を込めて戦うだけだ。

「殿、将軍家がお認めになられたようでございます」

「そうか、反対されなかったか」

「老中若年寄、評定所に席を置く達の中に反対する方はいませんでした。
数寄の殿様が、旗本の一部の方々と語らって反対しておられます。
数寄の殿様は、家基様を謀殺した血筋も、紀州の分家筋である水戸の血筋も、将軍家には相応しくないと口にされておられるようでございます。
伊予西条藩九代藩主の松平頼学様こそ、将軍家に相応しい文武の才能の持ち主だそうでございます」

やれやれ、徳川治宝殿にも困ったものだ。
南蛮との戦いをしている最中に、後方で内乱を引き起こそうとするなど、恥さらしにもほどがある。
これがまだ紀州藩内だけの権力闘争なら見逃すことができたが、将軍家の継承争いに口だすなら粛清も仕方がない。

それに、正当に家督を継ぐべき者を謀殺した者に家督を継承資格がないというのなら、自らの血統こそ家督継承の資格がないだろう。
祖先である伊予西条藩二代藩主でのちに紀州藩六代藩主となった徳川宗直は、正室の子で兄である松平頼雄を押しのけて藩主についているのだ。
いや、それどころか、俺の生きていた世界では、徳川宗直が松平頼雄を九品寺におびき出して暗殺したという説が有力なのだ。

「徳川宗直が松平頼雄殿を九品寺で暗殺した件を調べ上げろ。
徳川治宝一派に分かるように、大っぴらに徹底的に調べるのだ。
その上で松平頼雄殿がされたように、徳川宗直直系の藩主と世継ぎは江戸下屋敷の一室に十年間押し込めにされ、最後には暗殺されるという噂を流せ。
それを防ぐには、徳川治宝に切腹させ当主に将軍家の子弟を当主に迎えるしかないという噂を流すのだ」

「承りました、ただ確認させてください、他家に養子に出た徳川宗直様の直系が家督を継いでいる家に関してはどういたしましょう」

「同じだ、同じように藩主と世継ぎは江戸下屋敷の一室に押し込めにされるという噂を流し、それを避けるには将軍家の子弟を当主に迎えるしかないと思わせるのだ」

「承りました」

まあ、実際には徳川治宝とその一派の切腹だけで終わるだろう。
中には将軍家の子弟を当主に迎える家もあるだろうが、俺自身はそこまでの事は望んでいないし、藩主と世継ぎを江戸下屋敷の一室に押し込めるなんてやり過ぎだ。
松平頼純や徳川宗直と同じ身勝手な愚行を行う気はない。
俺の征東大将軍就任の邪魔をして、内乱を勃発させようとするものを排除できれば、それで十分だ。

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