転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第103話一八三一年、祖父の役職

祖父の高須藩主松平義和が随分弱って来た。
前世の記憶が強い俺には、本当の祖父という感情はないが、転生してから陰に日向に助けてもらったのは間違いない。
史実では来年死ぬはずなのだが、俺と整三郎が死んでいない事から、寿命も覆すことができるかもしれないと、俺の知る限りの養生をしてもらっていた。

父で尾張藩主の徳川権大納言斉義が、祖父を老中にしたいと言い出した。
祖父の衰えを見た孝心からの言葉だが、完全に私利私欲による役職の与え方だ。
そんな事をすれば、天下の信頼を失って権力の座から引きずり降ろされる。
それでなくても俺と父は親子で大老参与を務めているのだ。
俺から利を得ている大名以外からは、特に親藩譜代からは、やっかみも含めて厳しい眼で見られているのだ。

そう率直に話したのだが、父もその話は理解してくれたのだが、それでも、どうしても、老中に就任させたいというのだ。
驕る平家は久しからずと言って説得を試みたのだが、聞き入れてくれない。
だから仕方なく一芝居うつことにした。
譜代親藩幕臣の批判をかわすため、父の徳川斉義が祖父の松平義和を老中に推薦し、俺が反対するという猿芝居だ。

幕閣で公平に厳しく討論審議したうえで、将軍徳川家慶に決めてもらうのだ。
俺は神託ではなく個人の考えとして、一家三代に渡る現役同時幕閣就任は、絶対に許されないとして反対した。
特に断固反対したのは、権力のある本丸老中に就任させる事だった。
これだけは絶対に譲れなかった。
明らかに衰えの見える祖父に実権を与えるなど狂気の沙汰で、功臣に対する褒美として老中にするのなら、大御所家斉を監視する二之丸老中か、将軍世子の徳川家祥を教育する西之丸老中にするように提案した。

その提案が逆に効果的だったのか、祖父の老中就任が真剣に検討されてしまった。
特に熱心だったのは意外にも将軍徳川家慶だった。
俺の神託で世子に選ばれた徳川家祥は、明らかに先天的な障害があり、父として将軍として、本当に家祥に将軍の大役が務まるのかと心から心配していたのだろう。
そういう意味では、父の徳川斉義を育て俺の後見役を務めた、祖父の松平義和に家祥を指導してもらいたい、後見してもらいたいと思ったのかもしれない。

結局それが幕閣に影響したのだと思うが、幕閣に就任するほど優秀な者達だから、俺と父の猿芝居も見抜いていただろう。
俺も建前が通るのなら、名誉職の老中なら祖父に与えてもいい。
いや、できれば与えたいと考えている事に、幕閣は忖度したのだ。
俺以外の幕閣が西之丸老中就任を賛成したことで、将軍徳川家慶の親裁を持って祖父は西之丸老中となった。

「現時点の幕閣と若年寄」
大老参与:徳川権大納言斉義
大老参与:松平権中納言斉恕
老中  :青山下野守忠裕
老中  :大久保加賀守忠真
老中  :松平和泉守乗寛
老中  :松平周防守康任
老中  :本庄伯耆守宗発
二之丸老中:牧野備前守忠精
西之丸老中:松平右兵衛督義和
若年寄 :森川内膳正俊知
若年寄 :増山弾正少輔正寧
若年寄 :林肥後守忠英
若年寄 :永井肥前守尚佐
若年寄 :堀大和守親寚
若年寄 :小笠原相模守長貴

京都所司代:太田備中守資始
大阪城代 :松平伊豆守信順



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