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克全

第89話一八二九年、林則徐との密約

「清国で頑張っている密偵と連絡を取りたい。
絶対に話が漏れないようにして、林則徐と密約を結びたいのだ」

「承りました、万全の準備を致します」

俺は地獄に落ちる覚悟で謀略を仕掛けることにした。
林則徐を使って清国を倒して中国を支配しようとか、中国を騙して利を得ようとしているわけではなく、アヘンを手に入れるためだ。
林則徐とは、道光帝の命を受けて欽差大臣となり、アヘンで清国を蝕み莫大な利益を貪る英国と戦った、清国末期の忠臣だ。

前世で俺が知っている範囲では、あの当時、英国がアヘンを禁止している清国に密輸出していたアヘンの量は、一八〇〇年から一八〇一年までが約四五〇〇箱(一箱約六〇キロ)だった。
それが一八三〇年から一八三一年には五倍近い二万箱以上になり、アヘン戦争前の一八三八年から一八三九年には更に倍の四万箱以上になっている。

その悪影響はとても大きく、一八三〇年代の末には、清国の国家歳入の八割に相当する銀が、アヘンの代価として英国の手に渡っていた。
清国内では著しい銀不足となり、銀貨が高騰してしまった。
当時の清は銀本位制だったが、日本の三貨制とは違って、銀貨と銅銭の二貨制ともいえる状態だったので、その交換比率は相場と連動していた。
乾隆時代には銀一両(約三七グラム)が銅銭七〇〇から八〇〇文だったのが、一八三〇年には銀一両が一二〇〇文となり、一八三〇年代末期には銀一両が最高二〇〇〇文になってしまっていた。

農民が生活で手に入れることができるのは銅貨なのに、納税の時には銀貨に両替して国に納めなければいけない。
銀が高騰するという事は、乾隆時代に比べて最大三倍に税金があがったに等しい。
このような悪行を、英国は清国民に対して行っていた。
清国が禁止しているアヘンを国策として密輸出して、清国民をアヘン中毒にした悪行が最大の罪だが、それ以外のも大きな悪行をなしていたのだ。

だから俺は、目には目を歯には歯をの精神で、アヘンを欧米に売りつけ、欧米人にもアヘン中毒の苦しみを味合わせてやる。
なにも、俺自身がアヘンを栽培するとか買うとか言っているわけではない。
英国が作ったアヘンを欧米に返してやるだけだ。

林則徐は、アヘン戦争の時にイギリス商人が持っていたアヘンを没収している。
その総量は、驚くべきことに一四〇〇トンもあったのだ!
それを全て無料で譲ってもらい、欧米に持ち込んで売り払う。
いや、普通に売ってしまったら、回り回ってまた清国や日本に持ち込まれるかもしれないので、確実に欧米で消費させ、欧米人をアヘン中毒にしてやる。
これで俺は確実に地獄落ちだな、まあ、天国にいる祖母に会わなくてすむから、その方が気が楽だな。

問題は、林則徐に信用してもらう方法だ。
俺が林則徐なら、国を、いや、民を蝕むアヘンは確実に処分したいだろう。
手に入れた俺がまた清国に持ち込む可能性が少しでもあったら、絶対に譲ってはくれないだろう。
今から信用を築かなければならないな。

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