転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第57話一八二七年、性の目覚め

「殿様、腹ごなしに踊りなど見物されてはいかがでしょうか。
非人や穢多の娘の踊りなど、殿様の眼を汚すことになってしまいますが、我らに出来る歓待など、この程度のことしかございません」

車善七が精一杯のもてなしをしてくれる。
自分達非人だけでは、優秀な踊り手や伴奏者を確保できないので、弾左衛門配下の乞胸のなかから、特に踊りと音曲の得意な者を借りてきてくれた。
元々傀儡子も歌舞伎役者も弾左衛門配下だったのだ。
今も弾左衛門の配下に残っている者の中にも、芸達者はいるだろう。

「いや、眼も耳も汚れはしないぞ。
そのように考えていたのなら、善七の屋敷で山鯨を食べたりはしない。
余には非人や穢多に含むところなどない。
蝦夷樺太を開拓してくれている大切な領民じゃ。
喜んで見物させてもらおう」

「有難き幸せでございます。
直ぐに始めますので、少々お待ちください。
殿様が御忙しい身なのは重々承知しております。
好みではない芸がございましたら、御教えください。
直ぐに次の者に代わらせていただきます」

有難い話だが、ちょっと困る。
色々忙しいのも確かだし、この身体がまだ子供なので、食べたら直ぐに眠くなる。
だから観る演目を絞りたいのだが、外された乞胸が面目を失い、今後の生活が成り立たなくなってしまっては、弱い俺の心にしこりが残ってしまう。

「悪いが善七、余は食べた後で直ぐに眠くなってしまうのだ。
余が寝たからといって、その時の芸が悪かったのではない事、事前に乞胸の者達に話して聞かせておいてくれ。
それと余は大老参与の役目を頂いており、松前藩の御政道も行わなければいかぬ。
短い演目をやらせてくれ」

「承りました」

期待通りの見事な芸だった。
竹に房をつけ見事に投げて取る綾取り。
顔を赤く染めて一人狂言をする猿若。
二人で三河万歳の真似をする江戸万歳。
手玉を使って隠し芸をする辻放下。
人形を操って見せる操り。
見事な節をつけて義太夫節や豊後節などを物語る浄瑠璃。
昔話に節をつける説教。
有名な歌舞伎役者の口上や鳥獣の鳴声をまねる物真似。
有名な能の演目を真似をする仕形能。
情感たっぷりに古戦物語の本などを読む物読み。
太平記などの古物語を語り講釈する講釈

多分だが、意識して若い娘ばかりを集めてくれたのだろう。
見た目も声も美しい者達が次々と芸を披露してくれた。
特に娘浄瑠璃が見事で、思わず性に目覚めてしまった。
俺が前世で性に目覚めたのは幼稚園の先生に出会った時だった。
その当時は何が起こったのか分からなかったが、中学生になって、それが何だったのか知ることになった。

今生でも似たようなものだな。
前世の知識も経験もあるから、もっと早く反応してもおかしくはなかったのだが、今日初めて反応した。
だが、色恋ではない。
相手の人格や性格を無視した、単なる性の目覚めだ。
それに、流石に松平家の当主が穢多の娘に手をつけたら、強制隠居は免れない。

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