転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第22話一八二四年、事前準備

「中務大輔様、拝謁を御許し頂き、感謝の言葉もございません」

「気にするな。
それで、蝦夷樺太に渡って開拓がしたいという話であったな」

「はい、厚かましいお願いではありますが、どうか御聞き届け願います」

俺の前には、八王子千人同心頭の原半左衛門胤敦が土下座してる。
二十数年前に失敗した、蝦夷開発を再度挑戦したいのだと言う。
自分が失敗した蝦夷開発を、穢多非人が成功させかけているのが、旗本の誇りにかけて許せないのかもしれないな。

しかし、俺にとっても悪い話ではない。
蝦夷樺太に渡った開拓民は多いが、戦闘力を有している者は少ない。
非人の中には、捕り方を務める者もいるから、多少は訓練を受けているし、犯罪者を捕縛するという実戦を経験した者もいる。
だが武士のように、幼い頃から武芸の稽古をしているとかといえば、していない。
確実な戦力として計算できるかといえば、できないのだ。

まあ、その点は千人同心も大して変わらない。
現実問題として、千人同心は武士ではなく武家奉公人なのだ。
限りなく武士に近く、本人達は武士だと言いたいだろうが、武士ではないのだ。
彼らは当主以外が二本差しすることを許されていない。
当主も、役目中以外に二本差しすることは許されない。
日光勤番などの役目中や訓練中だけ武士待遇の、武家奉公人なのだ。

「話は分かったが、厳しい開拓になるぞ」

「覚悟はできております」

「幕府の千人頭や千人同心としてではなく、平民として開拓してもらう事になるぞ」

「そこをなにとぞ、同心としてお認め頂けないでしょうか」

「ふっふっふっふ。
それはなんの策謀だ。
千人同心は武家奉公人であって武士ではない。
それを千人同心と言うのではなく、単に同心としてくれというのは、武士と認めさせるための詐術か」

「それは、その、正式な武士になる事が、千人同心達の悲願でございまして」

「でははっきり申し聞かそう。
同心として開拓に従事するというのなら、今のように自由に産物を売買する事は許されないのだぞ。
開拓した土地は、役目として開拓したことになり、松前藩のものになる。
完全な武士になると、恐ろしく貧乏になるのは、旗本である半左衛門が身に染みて知っているのではないか。
それでもいいのなら、千人同心の子弟で、武芸試合で武勇を示した者を若党として召し抱え、蝦夷樺太開発の役目を与えてやろう。
だがそれでは暮らしていけないであろう。
借財の山を作り、結局千人同心株を売ることになるぞ。
それよりは、千人同心のままでいたらどうだ。
今迄通り、年貢を納める武家奉公人ではあるが、役目中だけ武士待遇でいいというのなら、開拓した土地は開拓した者の農地となり、四割の税を納めるだけで済む。
残りの六割は、今迄通り販売することができる。
半左衛門も、余が民に酒造りの方法を教え、異国に売る約束をしたのを知っているのであろう。
だからこそ、自費で開拓を申し込んでいたのであろう。
正直に申すがよい」

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