私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全

第1話:婚約解消

「ウィリアム王太子殿下、わたくしでは殿下の妃に相応しくありません。
私との婚約を解消していただきたいのです。
ただ王家とフレイザー公爵家の繋がりはとても大切です。
ですから妹のエレノアを新たな婚約者にしていただきたいのです。
天才と評判のエレノアでしたら、立派に殿下の妃が務まるでしょう。
王家とフレイザー公爵家の関係にも悪影響がでません。
伏してお願い申し上げます」

フレイザー公爵家の長女フローラの提案に、キャンベル王国の王太子ウィリアムは内心小躍りして喜んでいた。
だが実際に踊り出さない程度の自制心はあった。
その本心は幼馴染でもあるフローラに見抜かれてしまっていたが。
そもそもこんな事をフローラが口にしたのはウィリアム王太子の責任だった。
面と向かって直接フローラに言ったりはしないが事あるごとに側近に言っていた。

「何故王太子である私があのような出来損ないを妃に迎えなければいけないのだ。
全ての能力で妹のエレノアに劣り、容姿さえ妹の足元にも及ばない。
姉というだけのあのような出来損ないが将来の王妃となるのだぞ。
妹というだけで天才が貴族夫人だと、王家王国の損失ではないか。
フローラは分を弁えて婚約を辞退する事もできんのか」

小心で卑怯なウィリアム王太子は、気が強く乱暴な貴族には何も言えない。
暴発して襲い掛かって来そうな者には近づかない。
だが唯々諾々と言う事を聞く側近にはわがまま放題だった。
鬱憤を晴らすために打擲することすらあった。
フローラの悪口を社交界に広めさせる事など躊躇わずにやらせる性格だった。

フローラが認めなければ長幼の順位が変わる事など絶対にない。
もし能力で継承権が代わるのなら、ウィリアム王太子は即座に廃嫡される。
そんな事すらウィリアム王太子は理解していなかった。
だがフローラは自分から婚約解消を言いだした。
正確にはフローラとフレイザー公爵家の面目を保つために、病弱を理由とした婚約の辞退だった。

フローラは疲れ果てていたのだ。
寝る間も惜しんで努力を重ねても妹に負けてしまう。
どれほど努力を重ねても、もって生まれた魔力量の差を埋められない。
勉学に励んでも、賢者のスキルを使う妹にはかなわない。
血の滲むような修練を重ねて武芸を習得しても、身体強化した妹にはかなわない。

十六年間どれほど努力しても一度も妹に勝てなかった。
双子にも関わらず全く似ておらず、母親似の妹と比較され続けて傷ついていた。
正直もうキャンベル王国にいたくなかった。
病気の治療と言い訳してでも他の国に逃げたかったのだ。

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