妹と幼馴染を寝取られた最弱の荷物運び、勇者の聖剣に貫かれたが目覚ますと最強になっていたので無双をします
第9話 「ホムンクルスの奪取」
——これは、エミリオが洞窟の最深部に潜んでいたエルダーオーガーを淘汰した翌日の話。
とある霧のかかった不穏な屋敷、その門の前には体格差のある二つの人影が佇んでいた。
高い身長、大柄の黒いフードを被った人影は門へと指をさし、魔術を発動する前兆である強力な魔力渦を周囲に漂わせる。
人影は小さく呟いた後、魔法を解き放った。
「……《ヘレス》」
指のさされた門は、まるで崖から投げ落とされた如くに大きく捻れながら、その原型を崩壊させた。
門は敷地内の噴水にめがけて吹っ飛び、衝突すると周辺に石床の欠片が舞う。
しかし、そんな事も気にせず通過可能となった屋敷を我が物顔で二つの影が足を踏み入れた。
大柄の人影は、腰辺りにしか満たない小柄な身長の人影へと命令を下す。
「……中の奴らを一人残らず排除しろ」
命令された方の人影は、なにも言い返すことなく小さな頭で頷く。
そのまま大柄な人影の隣から消え去るように、瞬時に屋敷へと走り抜けていってしまう。
大柄の人影は黒いローブを革の手袋で掴み、脱ぎ捨てた。
どこにでもいる、中年のような多少老けた容貌の男は時間を確認することができる物珍しい代物の『時の針』を取り出す。
ちょうど零時であることを確認すると、命令を下した人影を追うように小さな歩幅で屋敷へと向かった。
「………」
無残に切り刻まれた扉を男は目の当たりにして、複雑な心境に蝕まれると呆れたように溜息を吐き捨ててしまう。
そのまま内部へと侵入し、屋敷の裏へと出られる裏口を目指して歩く。
途中、男は鼻を刺激してしまう鉄の臭いに何度も遭遇する。
廊下を進んでいると、皮を剥がされたように容赦なく切り刻まれた死体が大量に転がっていた。
進めば進むほど、丁寧になっていく肉塊を眺めていると博物館を連想させられる。
「た……助けてくれ」
その中、死体に紛れて僅かに息のある者を発見する。
苦痛に顔を歪め、穴という穴から血に混ざるように液体を流す生存者の醜い有様を見下ろし、必死に生へとすがろうとする姿に男は堪えきれずに嘲笑う。
「どうか助けてください……お願いします……死にたくない……」
希望を抱く瞳に映り込んだ無慈悲な男は、なんの迷いもなく答えた。
「断る」
何も知らずに自分へと救いを求めるだなんて、愚かで甚だしい。
愉快そうに生存者へと近づき、男は素手で背中を貫きトドメを刺した。
男がこの屋敷に訪れたのには理由がある。
魔力を人族に与え、初代大賢者と謳われた『ミア』を教祖に信仰している『精霊教』の信徒を一人残らず殲滅するため。
なにより大賢者自身が自分をベースにして残した『ホムンクルス』の実体を回収する為に男は『精霊教』の拠点を襲撃していた。
この屋敷も狙いの拠点の一つだ。
だから生き残りを発見すれば、生かすことはない。
目撃されて逃げられれば、今まで外部にバレないよう隠していた素顔が明らかになってしまう。
「………ふむ」
広い屋敷の中を数十分間、人の肉塊を避けながら彷徨い続けていると男は裏口へと辿りついた。
沈黙しながら、扉を蹴り壊して屋敷の裏にある墓地へと出る。
蔓延する霧のせいで視界が多少ボヤけてしまっているが、裏口から真正面をひたすら進めば目的の場所へと到着できる筈だ。
男は地面を見下ろす。
人間でも引きずって行ってたのか、血の跡が前方の地面にまで長く伸びている。
混沌とした殺戮現場というべきか。
血の線に沿って進んでいると、男はふたたび複数もの鋭利な凶器によって切り刻まれた死体と何度か遭遇してしまう。
「あ! ご主人様、やっとの到着ですか〜?」
男は足を止め、プレート型の墓石を前にする。
血の付着したメスのよう小さな凶器を指で回転しながら、竿石の上に座り込む少女がいた。
肩まで伸びた艶かな桃色の髪、純朴な瞳。
いかにも影に潜みそうな黒と灰で統一したホットパンツ、貧相な胸を包んだチュープトップと短くてゴシックな雰囲気の上着。
かなり露出度の高いを服装を少女は着ていた。
使用した凶器が二本だけなのか、レッグホルスターに納められた刃物には返り血が付着していない。
暗闇の中、猫を彷彿とさせるぐらい月光に反射する瞳を男に向けながら嬉しそうに手をふった。
だが男は不機嫌そうに彼女へと近づき、頭を軽くコツンと叩く。
「いたっ!」
「連中を一人残らず排除しろと言ったはずだ。生き残りがまだチラホラ居たんだぞ」
「トドメは全員ちゃんと刺したつもりだったんだけどなぁ……なんて」
頭を押さえながら、少女はまるで反省していないかのような気の抜けた声で返答をする。
男は呆れたように肩を落とし、彼女をほっといて墓地の真ん中に佇む小屋へとむかう。
「え、ちょっ、ご主人様?」
「反省をしないのなら、ここに置いていくぞ」
「えぇ、そんな! ご主人様と離れるなんて嫌だよ! 反省するから可愛いジャスちゃんを置いていかないで〜!」
少女は驚いたように口を開きながら墓石から飛び降り、困った小動物のように男を追いかけた。
いま少女は自分のことを『ジャスちゃん』と呼んだのだが、単なるあだ名で実際の名前は『ジャスミン』。
男とは師弟関係にあり、ジャスミンは肉眼では見えない大気の魔力を物質化せずに直接操作する魔術を習っていた。
たとえば、敵が遠い距離にいる場合。
魔法を解き放つには、まずは魔力を変質して物質化させなければいけない。
単純に思えるような作業だが、必要分の魔力を体内へと吸収してから詠唱を行う。
魔法を構成するまでの段階がハッキリ言って手間なのだ。
そもそもジャスミンは魔術という分野自体が苦手なため、発動までに費やす時間が長い。
なので大気の魔力を操作することにだけ専念。
おかげか空中へと投げた刃物を大気の魔力で包み込み、応用することによってジャスミンは武器の遠隔操作を可能にしたのだ。
いまでは投げた刃物を途中で加速させたり、飛ぶ方向を曲げたりするのが彼女の得意魔術となっていた。
「わぁ、不気味な小屋〜」
「………」
不自然と墓地佇む小屋の内部へと侵入すると、そこには地下へと続く階段が続いていた。
まさか霊安室へと辿り着くのだろうか、ジャスミンのわざとっぽい演技を尻目にしながら男は静かに段差を踏みしめるのだった。
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