妹と幼馴染を寝取られた最弱の荷物運び、勇者の聖剣に貫かれたが目覚ますと最強になっていたので無双をします

英雄譚

第4話 「運命のパーティ」

 

 食事を終えると僕は部屋に戻っていた。
 現在地を確認すべく宿屋の主から借りた地図をテーブルの上で開いた。

 ノエル曰く、現在地はラシル村と呼ばれる場所。
 エレメン王国とリグレル王国の二大勢力の国境付近にある『ケイネス』領の村だ。

 まさか、ジュリアの魔術でこんなにも遠いところまで飛ばされてしまうとは。
 ここから西方、勇者ユーリス達のいるリグレル王国の王都に戻るとしても数週間以上はかかってしまう。

 どうしたものか、と一人で悩んでいると誰かが外から扉をノックしてきた。

「あの、失礼してもよろしいでしょうかエミリオさん」

 どうやらノエルが部屋の前までやってきたようだ。別に遠慮することはないのに、と思いながら僕は返事をした。

「うん、いいよ」「そ、それでは失礼いたします!」

 杖を大事そうに握りしめているノエルが入室してきた。緊張でもしているのだろうか、顔が赤くなっている。

 ベットに座っている僕の元までぎごちない足取りでやってくると、俯いたまま彼女は小さな声で尋ねてきた。 

「エミリオさんは今パーティを組んでいないんですよね?」

 仮とはいえ冒険者という身分。
 前まで複数での旅だったのに、いざ一人になると恥ずかしい話だ。

「うん、そういう事になっちゃうのかもね」

 苦笑いしながら答える。

 そもそも自分があのパーティに属していたのかさえ怪しいと思ってしまう。

「そ、それじゃあ。折り入って頼みごとをしても良ろしかったでしょうか……?」

 モジモジしながらこちらの方をチラッと見てきた。

 頼む? 
   万年荷物運びの僕に一体何を要求する気なのだろうか?

 全てを失って、一文無しの僕にできることは限られているけど、命の恩人のためなら頑張ろう。

「僕にできる範囲なら何でもいいよ」

 魔法だってきっと、この子よりも劣っているのだろう。
 そんな僕に折り入って何を頼むのか、実行が可能な範囲ならば問題ないかもしれない。
 それに彼女は命の恩人だ、出来るなら叶えたいと思う。

「そ、それじゃ、言っちゃいますよ?」

 彼女の眼には覚悟が宿っていた。
 やると言ったらやるという『凄み』が感じ取れた。
 僕の方こそ鉄壁の精神力で受けて立たなければならないのだ。

「わ、私とパーティを、組んでください………!」

 ノエルが必死に絞りだした頼みごとは予想外そのものだった。
 思考が追い付かない。
 あのような酷い話を聞いたというのに、どうして僕を仲間に勧誘したいと思ったのか。

 短い時間内で思考を加速させる。
 メリットはない、魔術もロクに使えられない。
 ならば本人に直接聞くのが得策だろう。

「えっと……その、僕なんかでいいの?  すっっっっっごく弱いよ?」

 大切なことなので強調するように聞いた。
 それをそそくさに否定される。
 それも、まるで女神のような神対応である。

「そんなことなんてないですっ!  たとえ勇者様に認められなかったとしても、アナタは大切な人と離ればなれにならない為に勇気を奮って旅を共にしたんですよね! 勇者様との旅はきっと常人にとって過酷なものだったはずです!」

 見透かされているような口ぶりだ。
 彼女の言っていることのほとんどが正解だ。

 旅は想像を絶するぐらいの過酷だった。
 あの勇者が居ようと変わらないぐらいの辛い旅だ。

 魔物の包囲網を駆け抜けたり。
 食料が尽きて餓死しかけたり。
 強力な魔物と対峙をしたり。
 様々な苦労した経験が脳裏に蘇る。

 一度だけではない、何度死にかけたことやら。

 勇者の暗殺の身代わりにされたり、食べられる物がないかとそこらの山菜や魚を毒味して当たってしまったり、強力な魔物と遭遇して呪いをかけられたり。指でら数え切れないぐらいの死線を乗り越えてきたのだ。

 だけれど勇者に同行したのは自分に勇気があったからではない。

 大切な人とは離れたくないがため、ただそのれだけのワガママだったんだ。
 後先をよく考えない自己満足とも捉えられるだろう。褒められない行動であることは自覚している。

 大して実力もない、人を守る前に自分も守れない自尊心のなさ。
 その弱さの累積がリールとジュリア冷めさせる要因となったのは明らかだ。

 一言言える。
 僕には勇気なんてものは最初からなかった。
 大切な人を守れることが出来るぐらいの力も僕にはなかった。

 ———だからこそ、納得もせざる得ない結果になったのかもしれない。



「エミリオさんと出会えたことを私は運命だと思っています。二人とも追放されちゃった身、本来はそのような理由だけでは出会うことはないでしょう。だけれど、一人になって泣いていた私の前に現れてくれたんです。それが偶然的だとは私は思いません」

 ノエルはこれまでの結果に後悔なんかしていないかのように、首を横に振りながら続けた。

「だから、はっきり言いますよ……」

 再び、息を大きく吸ってから吐いてみせていた。
 ノエルの瞳からはもう緊張は感じられない。
 優しく温かい彼女の瞳の中には僕だけが映っていた。

「アナタだから、エミリオだからこそ良いんです!」

 愛の告白をするように言い放った途端にノエルの頰はみるみると赤くなっていった。
 そのまま背中を向けられる。
 彼女の手から肩が震えているのはここからでも視認できた。

 意外なその行動を見た僕は、なんだか自分の葛藤が馬鹿馬鹿しく思えた。
 こんなにもこの子が頑張ってくれてたというのに、どうして僕だけが不幸だと勘違いしてしまったのか。

「———ノエル」

 意を決してベッドから立ち上がり、彼女の元へとそっと近づく。

「えっ」

 驚くように振り向いてきたノエル。
 小さな背丈で上目遣いでこっちの顔を見上げ、何かを察した様子でノエルは余計なことを言わないためにも耳だけを傾けてくれた。

 答えはもう決まっていた。
 覚悟を決めた僕は手を差しながら、少し照れくさそうにノエルに答えた。

「うん、ぜひ加入させて欲しい。不甲斐ないところがまだまだ沢山あるけど、仲間として君を必ず守りぬくよ………もう失わないように」

 僕の答えに一瞬だけノエルの体が硬直した。
 あまりにも酷い返答に固まってしまったのか、それとも僕が変な奴に見えてしまったのか。

 しかし、すぐにノエルは嬉しそうな満面の笑みを浮かべたのだった。
 差しだされた僕の手をギュッと握り返してくれた。

「はい!」
 
 追放された者同士のパーティ、ここで結成である。

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