呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第204話 なんなんだよこれ

「あれ、こっちは厳重にロックされているな」

階段を長々と登っていくと小屋に着いたがそこの扉はロックされていた。民家の扉は場所さえ知っていれば誰でも入れるのに対して、邸宅の小屋にある扉は魔術的な何かでしっかりロックされている。

これは侵入対策として当然の結果か。逃げる時にはこの屋敷の持ち主が何かしないと開けられないとか、特別なアイテムが必要だったりするのだろう。じゃないと隠し通路の意味ないもんな。

「キミヒト君どうする? フラフィーちゃん助けた時みたいに鍵無理やりこわす?」

「いや、エルフたち逃がしたから侵入したことには気付かれるだろうけど、今わざわざこっちからバレるような事をする必要はないだろう。ここ壊した瞬間何かしらの警報が鳴らないとも限らないし」

あれだけしっかりした罠を配置しているのにここに何もないというのは考えづらい。もしも俺だったら民家側からこっちへ脱出、もしくは侵入しようとする人がいるなら迎撃体制の罠を置いておく。

正直外からの侵入者だったら殺しても問題ないから睡眠魔法なんて生易しいものじゃなくて毒魔法と痺れ魔法一緒に放ったりとかする。俺には効かないけどみんなには効くから危険を冒す必要はないだろう。

「ちょっとめんどくさいけど戻ろうか。場所もわかったし」

ここは王都の端のほうの邸宅、一般市民と貴族の街を隔てる丁度中間あたりに位置する。王都の人々は大らかな人が多いからそんな囲いがあっても普通に行き来してる人多いけど。

例えば武器屋のおっちゃんとか日用雑貨を売ってる商人とかはほとんど顔パス。前の世界の俺だって顔見知りになってたら通れるくらいの感じだった。職業割れてるっていうのもでかいのかもしれない。

一応治安維持見たいな事もしてたしそんなもんなのかな。依頼で通る事もあるし王城の警備隊もそれなりにいるから安全っていうのもあるし。

場所がわかったので俺達はそのまま引き返し結局最初の場所から外に出る事にした。イリス達の後を追う事になってしまったがどこかに繰り出したようだ。

「ベノプゥは誘拐は起きないって言ってたけど、すでに起きていたって事を伝えておく必要があるよな。ちょっと行ってくるよ」

「うん、じゃあ私は引き続きうろうろしながら情報収集しておくね。フラフィーちゃん、護衛してもらっていいかな?」

「は、はい!」

珍しくあかねが自分から行動を開始する。いやそういえばあかねはロンドのメンバーと一緒にいる時と、抜けた直後は自分からがんがん行動してたな。元々はさぼり癖があるけどやる時はしっかりやってくれるし頼りになるぜ。本人には言わないけど。

ということで俺はめぐと二人だけになりベノプゥに会いにいく。ベノプゥはすぐに色んな所に駆け付けられるように基本的にはギルドにいるという話だった。確かにギルドだったら街の中心地だし情報も早く入るし噂話を聞くにも適している。

大々的に行動しているって話だから貴族的な恰好をしていてもわざわざ絡むようなやつも王都にはあんまりいない。冒険者なんて平民上がりがほとんどだからベノプゥに敵対する理由もないからな。

貴族で貧乏、そして子どもたちを助けるために活動するとか逆に人気出るだろっていうね。

そしてギルドに向かう道すがら妙な声が聴こえてきた。

「いいか、お前らこれが食事だ。森に引きこもってたらこれは食べられないんだ」

イリスなんですけどね。エルフの人たちを整列させて何か吹き込んでてすんごい目立つ。なんだったらギャラリーが出来てしまっていて隠れるつもりが全く感じられない。

フードを被って姿隠してたのが懐かしいよほんと。っていうか何してんの。

「これが肉の旨味。適度に焼いて香辛料を振るだけでこんなにも美味しい。それがなんだ、お前らはこれを食べてもまだ生食を続けるつもりなのか。引きこもり続けるだけの生活をするつもりなのか」

イリスは整列したエルフたちの間をゆっくりと歩きながら語り掛けている。その姿はさながら教官のようだがいかんせん身長が足りないため非常に可愛らしく見える。言ってる事は全く可愛らしくない食事情だが。

「私は変わった。お姉ちゃんと旅をしている時に盗賊を退治してお金はもっていたけど、使う機会はたまたま見つけた馬車に乗ったり移動を楽にするためばかりだった。しかし食事に興味を持った時、もっとちゃんと食べてればよかったと後悔した」

熱い。熱いよイリス。こんなに食に対して熱い想いを持っているとは思わなかったよ。いつも美味しそうに食べてるのは見てたけどここまで考えながら貪っていたとは誰が思うだろうか。

これもしかしてクロエも同じこと考えてたんじゃなかろうか。もしかしてクロエが合流してないのって食をエルフたちに伝えるためとかそんなことないよね?

イリスが俺の所に飛んできたと思っていたけど実はエルフを目印に飛んで来たとか言われても信じられるほどの熱弁。

「それに食を知っていれば前のように騙されることもないだろう。お前たちには食を考える頭がある。食を彩る魔法がある。食を探求する場所がある。こんなに恵まれているのにどうしてやらなかった」

ギャラリーもその熱弁に呆然と立ち尽くして聞き入っている。みんな当たり前のように食事をしていたが、これだけ熱い気持ちを持って食事をする連中を見たことが無いのだろう。俺だってみたことないもん。

「確かに森に籠ってもいい。しかし食については妥協するべきではない。幸いギルドという制度、そして盗賊という金づるも存在することだし買い物には困らない。私はお前たちに戦う術を叩き込む。ついてこい! 盗賊狩りだ!」

そしてイリスは踵を返し俺にサムズアップして街の外へ向かって行った。なんのサムズアップかさっぱりわからなかったけど熱さにおされて思わず俺もサムズアップ。にやりとした笑みを返してくるイリスにちょっと恐怖を感じるよ。

エルフたちはイリスの演説に心を打たれたのか涙を流しついていく。その手にはいつしか一緒に食べたケバブのような物が握られていた。その屋台のおっちゃんも自分の料理にここまで感動してくれる連中がいる事に天を仰ぎ嬉し涙を流していた。

なんなんだよこれ。

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