呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第157話 こんな時まで

「お前らは、俺を責めたりしないのか?」

まっすぐに受け止めただけのロンドの連中に対して俺はそんな疑問を伝える。正直に言って俺はもう少し何かあると思ってもいた。仲間を失うというのはそう簡単に済ませられるようなものでもない。

なので俺はあかねを失った事、守れなかったことに対してこいつらに罪悪感にも似た感情を持っていた。それなのにこんなあっさりと許されてしまっていいのかと考えてしまう。

いや、そもそもこいつらは最初から許す許さないなんてことは考えていないのだろう。だからこそ俺は聞かずにはいられなかったのだから。

「……キミヒトは甘いところがあるし俺たちの事を信用してくれてるのもわかる。けどだからと言って俺たちがお前の事を責めると思うなよ」

「少なくとも俺たちは責める権利をもっていない。責めて欲しいなら別の所にいきな。どこに行けばいいのかはわからんがな」

「責めて欲しいんじゃなく攻めて欲しいってんなら間違いじゃないが」

「こんな時まで茶化すんじゃねえよ」

俺の目をまっすぐ見てこいつらは厳しいことを言ってくれる。一人に関しては見つめて欲しくないが、この場を少し和ませようとしているのかもしれない。まったく和まないが。

「わかってると思うがなキミヒト、こんな家業だ、死亡率も高いし事故だってかなりの確率で起きる。最善を尽くしていてもだ」

「俺達だって死にかけたことは一度や二度じゃない。この街には優秀なヒーラーがいるから死んでこそいないが大怪我を負って街に戻るまでが大変だ。撤退を決められないパーティは間違いなく壊滅する」

「そんな中に俺たちの知り合いだっていたさ。そんな連中に厳しい言葉をかける必要はない。だってすでに厳しい現実を味わっているだろう? 誰かに責めて欲しいって気持ちもわかるがな」

至極真面目な顔をして答えるロンドの連中、こいつらもかなりの修羅場を潜ってきたのだろう。その表情は達観していて人の死を悲しむことはあっても明日を見ることが出来るそれだった。

なんだかんだふざけている連中ではあるが実際のところはかなり真面目な連中なんだよな。そうじゃなければ探索者ランクBで周りから頼りにされているという説明がつかない。

あかねは納品だけでAランクに上がっていたが街の知名度はかなり低かったしゴンズのおっちゃんも知らなかった。しかしロンドの連中はギルドマスターにも顔が効くし色々なところで名前が出ていた。

経験の成せる信頼感。これが疾風のロンド。

「キミヒトも猫ちゃんも最善を尽くした。それでその結果命を落とした者がいる。それは運でしかない」

「実力が足りなかった俺のせいなんて言うなよ? その努力をしたって報われたかどうかなんてわからない。運も実力のうちだ、起きてしまうことを完全に予想するなんてことが出来るわけがない」

「これからはそういうことが起きないように気を付ければいい。相談事をしたくなったのなら俺達を頼ってくれ。どんなことがあろうとも俺たちはお前たちの仲間だからな」

最後にそういって励ましてくれる。一緒に悲しむのでもなく、ただ話を聞くだけでもなく、親身になってこちらの気持ちに答えてくれる。

あかねがいなくなって寂しいのは間違いないはずなのに、それでも俺達を気遣ってくれるこいつらの懐の広さは計り知れねぇ。これが男どもを虜にしてきた熟練の技ってやつなのか。

「……すまん。迷惑をかけた。少し元気が出てきた」

「……ありがとうございます」

「ああ、まだまだひどい顔だがな。もう二人いたキミヒトの嫁も何かあったんだろ? そのことはいいのか?」

その言葉に胸が締め付けられる思いがした。ここでこいつらに相談するというのも手ではある。確実に楽になることは間違いないし、もしかしたらなんて可能性を教えてくれるかもしれない。

けど、二人の事を話すには少し込み入った話がすぎる。信用してはいるが、仲間の秘密を教えてしまうのは二人を裏切ってしまうんじゃないかと考えてしまう。

「それは、大丈夫だ。こっちでなんとかするよ」

「そうか。それなら聞かないさ。頑張りすぎてつぶれるなよ」

「死ににいく探索者みたいな顔してるからな今」

「そういう時は一晩寝て冷静になってから行動を起こせ。運も実力のうちとは言ったが、運は焦っていたら確実に手からこぼれていくからな」

そんな顔をしているのか俺は。そういえばみんながいるときは常に表情筋がゆるゆるだったけどあかねがいなくなってからは真顔になっているな。そのあたりも見透かされてしまったのかもしれない。

ほんと出来る奴らだよこいつらは。

「聞いてくれてありがとな。探索に行く途中だったんだろ? 邪魔して悪かった」

「気にすんな、俺達の仲だろ。俺達にも関係ある話だったしな。それに今日はもう出かけない」

「むしろ話してくれてありがとな。辛い事思い出させてすまん、たまには笑えよ」

「数日の間夜は家にいるから何か相談したいことがあったらこい。お前たちなら大歓迎だ」

そう言って俺とフラフィーは席を立つが、そういえばと俺は思い直しロンドの連中に質問する。この街には面倒事を一つ残して行ってたな。

「そういえばなんだが、ショウの様子はどうなんだ?」

俺の質問にロンドの連中は顔を見合わせる。その表情からは何も読み取れず何とも言えない微妙な間が出来上がる。なんだよその間は。

「ショウは、変な女が来て連れて行ったよ。何も言わずショウはついていったから関係者だとは思うが」

「ついていった? お前らに相談も無しで?」

「ああ。気づいたら置手紙だけ残していなくなってたよ。そういえばその女から伝言を預かっていたな。キミヒトが来たら伝えてくれって言われてたんだがすっかり忘れてた」

変な女がショウを連れて行った。それも同意の上でってなると間違いなく勇者関係者だろう。しかし暴走しているわけでもなくしっかりと理性の残った状態の勇者とはいったい誰だろうか。

もしかして王都壊滅させたやつか?

それに俺の事を直接知っているかのような感じだ。ロンドのメンバーに聞いたというよりショウから俺の存在がばれたんだろう。それにしても俺に伝言を残せるような勇者は存在しないと思っていたんだが。

「その伝言ってのはなんだ?」

「『アオノ君、王都に来るように』って」

「は?」

青野公人。文字にすると仰々しいがそれが俺の日本人だったころの名前。

この世界に来てから一度も名乗ったことのない名前。

鑑定をしても表示されないはずの誰も知ることがない名字。

何故、それを知っている? 俺の事じゃない可能性もあるのか? だが俺を名指ししているという所から別人の線は限りなく薄いだろう。

どういうこったよ。

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