呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第116話 超人スキル

その青年は抜き身の長い剣を持ち俺に向けて殺気を向ける。その瞬間目の前に現れ剣が振られる。

「くっ」

とっさに剣を構えてガードをするが軽く後ろに弾き飛ばされる。どう考えてもこの強さは第一グループの連中だ。番号はたしか六番。スキル構成は『統率者』と『超人』だったか。

なるほど、それなら魔物が強化されて一気にここを襲ったのも納得できる。統率者のスキルを使っていたなら魔物が周りに散らばっていかなかったのも、死にかけていても逃げずにこちらに向かってくるのも納得だ。

種族が別々なのに協力するのもスキルの力を使えば問題ないだろう。どんな条件でスキルが発動するかはわからないが、街の人たちや俺達にそのスキルが向かなかったのは良しとしておこう。

しかしスキルがわかったからといって状況は非常に悪い。たぶん今の状態で超人スキルは使われていない。もし使われていたなら俺のステータスでは受ける事すらできなかっただろう。

そしてもう一度六番が俺に向かって襲い掛かってくる。今度はしっかり構えて何とか打ち合うことに成功する。それでも俺の手はしびれ、何回か攻撃をはじいているうちに手が上がらなくなってくる。

「……? 弱いな。お前本当に召喚者か?」

六番が問いかけてくるがそれに応えるほど俺に余裕はなかった。蹴りで吹っ飛ばされ剣を手放してしまった俺に六番が襲い掛かってくる。

「死ね!」

「キミヒトさん!」

ひどく鈍い金属音と共にフラフィーが間に割って入ってくる。いつか強化スケルトンの攻撃を受けた時の比ではなく、俺と一緒に盾ごと弾き飛ばされる。

「ははぁ、仲間がいるのか。ついでに殺してやるよ」

「させない」

「バインド」

イリスとクロエが援護をしてくれて何とか状況を立て直すことが出来たが、俺とフラフィーでは実力が全く足りていない。不完全な体勢で受けたとはいえ吹き飛ばされるほどの威力。

ミスリルゴーレムのパンチより威力が高いということがそれからもわかる。そしてよく見るとあんなに頑丈だった盾がへこんでいる。まじかよやべえわ。

「ああなんだ? こんなちゃっちい魔法しかないのかよ」

六番はクロエのバインドを容易くちぎり、足元の沼も全く意に介さず歩き出す。今までどんな相手でも足止め出来ていた魔法が打ち破られるのは結構な絶望感を感じる。

「じゃあこれは? 落ちろ囲め固まれ潰され囚われろ。アースサラウンド」

「お?」

クロエの攻撃の直後、イリスが地面に向けて杖を振りかざす。六番の足元が一瞬崩れ、浮いた瞬間に周りの地面が盛り上がる。そしてそのまま六番を取り囲み一つの土の塊になる。

「お姉ちゃん」

「ええ。エナジードレイン!」

イリスが作った土の塊に向かって、いつか俺を助けてくれた魔法をクロエが放つ。あのときよりも消耗が少なく見えるのはステッキを持っているからか、イリスが準備万端だからか。もしくは感情が抑えられているからか。

魔法陣が展開され、力の本流が土の塊に流れ込みその形を急激に削り取っていく。土が灰のように消えていく中、その中心で六番は耐えていた。

「うそ……」

「本当に人なのかしら……」

イリスとクロエは肩で息をして疲労感が伝わってくる。六番も無傷とはいかずかなりのダメージを負っているようだがこっちよりは余裕がありそうだ。

「……今のは効いたぜ。まさかそっちの召喚者よりも強いとは驚きだがな。お前らもそいつを始末したら殺してやるよ」

六番は体に光を纏い一瞬で距離を詰めてくる。全く見えずそのまま壁に叩きつけられる。その場にいる誰もが反応できず茫然としていた。速すぎるだろ。これが超人スキルか……。規格外すぎる。

「拍子抜けだわ。何が抜けた勇者を殺してこいだよ。雑魚すぎて話にならん」

「キミヒト!」

イリスが魔法を放って俺を助けようとするが、その魔法は六番の纏う光にはじかれ消失する。

「じゃあな、腑抜けの裏切りもんが」

なんとか体を起こし剣を収納から取り出し構えるが、俺の抵抗など意に介さず俺の心臓めがけて剣を突きさす。

死ぬ攻撃を当てたことで六番の身体から一瞬弛緩した空気が流れる。そして手ごたえのなさに違和感を覚えた時にはすでに俺の身体は動き出していた。

「死ぬのはお前だよ」

「は?」

超人スキルを使っていたから油断もあったのだろう、俺の剣は透過を使い六番の腕に刺さり、解除することで根元から分離させることに成功する。当然刺された剣も透過スキルにより無効化していた。

「てめぇ……死ね!」

本当は胴体を狙ったが、俺の殺気に気づいたのか少しの差でかわされてしまった。殺すことは出来なかったが致命傷を与えることは出来たはずだ。あとは透過して攻撃をやり過ごせばいい。

といってもこっちも相当やばい。さっきから口の中は血の味しかしないしせりあがってくるものがある。これが内臓がやられた状態というやつなのだろう。何とか立ち上がりはしたが、これ以上動くとたぶん死ぬ。

不屈の力でダメージを耐えることは出来るが致死性のダメージを何度も受けたら耐えられなくなる。王都の拷問ではどれも耐えられたが、この超人スキルのダメージはかなりギリギリだ。

いや普通なら木端微塵にされててもおかしくないダメージだから相当頑丈だが。打撃には無敵かと思っていたが過信してたわ。

「くそが! なんであたらねぇ!」

片腕になり焦っているのか、その動きは今までの冷静さは欠片もない。超人のスキルも解けているのか、光も収まっていた。

「バインド!」

クロエが追いかけてきて六番にバインドをかける。クロエの後ろには全員の姿が見える。みんな追いかけてきてくれたようだ。

バインドで囚われた六番はさっきのように簡単にはほどけないようで、縄を引きちぎろうと必死になっていた。出血量があまりにも多すぎるから正直長くは持たないだろう。

助けようとしていた勇者に殺されかけ、そして助けようとした勇者を殺してしまうとは思わなかった。一切手加減も出来なかったし一歩間違えば俺が殺されていただろう。

「ちくしょう……がああああ!」

「……まじかよ」

六番はもう一度超人スキルを使い縄を無理やり引きちぎっていた。片腕がなくなっているのによくやる。しかし超人スキルの影響か、傷口からの出血はだいぶ収まってきていた。

「よくも腕を……殺す……」

それでも出血の影響は免れずふらふらとした足取りで動き出す。先ほどのまったく目で追えないような動きは出来なくなっているだろうが、それでも普通以上には強いだろう。

ここで透過した状態で戦ったらみんなにターゲットが移るかもしれない。死ぬかもしれないが、生身で耐えきるしかない。

「キミヒト君!」

そう思ったとき王都に向かっていたはずのあかねの声が聴こえてきた。



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