呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第49話 大きな岩かと見まごうその魔物

「こっちです!」

フラフィーが叫びペガサスもどきのヘイトを集める。やつはまだ飛び上がらず真っすぐにフラフィーに突進をしてくるが、その加速は予想以上のものだった。

不規則な動きからの突進。盾に阻まれ金属が衝突したかのような激しい激突音がする。音すら受け流したフラフィーだが、不規則な動きだったため完全には受け流せず吹き飛ばされる。

しかし突進の勢いはかなり弱まったためその隙にこちらから仕掛ける。フラフィーが吹き飛ぶ寸前、ペガサスもどきの足元に魔法陣が現れる。

「バインド!」

クロエの叫びと同時、ペガサスもどきは黒くよどんだ沼に足を取られる。そしてロンドの連中がそこに襲い掛かり、ペガサスもどきは必死に抵抗する。

「氷よ氷、真っすぐ通って貫通せよ。アイスランス」

クロエの足止め、ロンドの連中の引きつけ、そこにイリスのとどめの一撃を放り込む。その一撃にペガサスもどきは撃沈した。

その一連の綺麗な流れに驚きしかない。吹き飛ばされたフラフィーもダメージは無いようで大丈夫そうだ。というか飛ばなかったなペガサスもどき。

「つえぇ」

「勇者ってなんだっけ」

俺とあかねはただ見てただけ。勇者の肩書をもっていたのに彼らの方が勇者っぽい。体を張ってペガサスの突進を止めるフラフィー、その機動性を著しく妨害するクロエ。動きが鈍ったとはいえ暴れる馬に恐れず突っ込む三兄弟。

そして一撃で倒してしまうほどの威力を持った魔法力。うん、世界征服しようぜ。

「いやー、楽勝だなあんたらいると」

「苦戦て言葉がなくなりそうな勢いだぜ」

「キミヒトが羨ましいぜ」

「お前らも充分強いだろうに」

実際に戦っているのを見た感じ、俺たちの手が無くても勝てるくらいの感じではあった。やはり彼らの実力は大物を相手にした時に発揮されるんだろうというのがよくわかる。

俺達がそれに手を貸す事によって盤石な戦闘が可能になり安全マージンが増える感じだろう。冒険は命がけではあるが、安全にやって命の危険を最大限減らすこのやり方はとても利に適っている。

ロマンを求めるよりもみんなの安全を、こいつらは本当に冒険を楽しんでいるのがわかって嬉しい気持ちになる。

「じゃあ、三十階層いきますか」

「おうよ!」

そうして俺達がそこに足を踏み入れると、やはりそこはボス部屋らしきものになっていた。降りた先には大きな扉一つしかない。これがボス部屋じゃなかったらそれはそれで面白いけど。

「じゃあ、いくぞ」

たいして消耗していなかった俺達は少しの休憩を挟み突撃した。そして扉の先には大きな魔物が塊になっていた。

大きな岩かと見まごうその魔物は、こちらを確認するとゆっくりと立ち上がる。ひと塊だったそれは立ち上がるにつれて本当の姿をあらわにしていく。

「でけぇ……」

まさに巨人。体長は十メートル近いほどになりようやく止まる。そして目の部分は怪しく光り、こちらを標的として認めたようだ。

ミスリルゴーレム、その魔物はそう呼ばれていた。

「大物だなこりゃ。サイズがやべえわ」

「まさにロマンの塊ってやつだな」

「だが攻撃通じるか? あれ」

三兄弟は構えながらも若干ビビっている。しかし闘志は衰えている様子はない。

巨体故かその動きはのっそりしている。それならばこちらから仕掛けさせてもらおう。俺じゃなくイリスだが。

「イリス! でかいのぶちかましてやれ!」

「うん。穿て穿て穿て穿て、空気、鉄、全てのものを焼き尽くせ。ファイアジャベリン!」

相手がミスリルなので強力な火の魔術をイリスは選択した。たしかにあの巨体には氷も土も風も効かなさそうだ。

激しい炸裂音と共に熱風が吹き荒れる。炎はそのままゴーレムにまとわりつき火柱を上げ続ける。それだけの威力、その破壊力は部屋の温度をかなり上昇させていった。

「うーん、だめっぽい」

イリスがつぶやくと同時、ゴーレムはその場でぐるぐると高速回転を始め火の勢いを全て蹴散らした。多少色が変わってはいるがダメージが通ったような感じはしない。

「あのゴーレム、ミスリルで魔法通りにくくなってるだけじゃなさそう。なにかバリア的なものも張ってるっぽいよ」

あかねが言うとおりゴーレムをよく見ると薄く光っているように見える。ミスリルは魔法防御に長けているし、さらに魔法でコーティングしているとか鉄壁すぎる。

ゴーレムの防御力は尋常じゃなさそうだな。

「ならこれならどうだ!」

ロンドのメンバーが突撃していく、しかし足を剣で切り付けると見事に折れる。三人は攻撃が効かないとわかるとすぐにこっちにひいてきた。物理も魔法も効かないとかやばすぎるんだが。

となると俺がやるか。

「フラフィー、一瞬で良い。ひきつけてくれ。クロエ、さっきの足止め頼む。イリスは俺が離れたらやつを凍らせてくれ。あかねは好きにしろ」

「はい!」

「おっけー」

「うん」

「じゃあ見てる」

うん、まあそうなる。俺は収納から予備の剣を取り出し二刀流の構えになる。上手く扱うことは出来ないがこれでいい。フラフィーと共に飛び出し一気に近づく。

「こい!」

フラフィーの声に反応し、ゴーレムはそのでかいこぶしをフラフィーに叩き込む。しかしクロエの妨害により勢いは落とされ難なく受け流される。

その隙に俺はゴーレムの足元に滑り込み、二本の剣をゴーレムの左足に透過を使ってむりやり差し込み解除する。

当然相手の方が硬いので剣が粉々になるが、差し込まれた分そこはもろくなる。そして俺が離れたところにイリスがゴーレムを凍らせる。

もろくなった部分が急激に冷やされ、足が外れる。

あとはこれの繰り返しを行うだけだ。といっても体勢の崩れたゴーレムは満足に動くことが出来ないので難易度はかなり下がる。左腕も同様に新しい剣を差し込んで破壊する。

「あいつらやべぇ」

「てかキミヒトやべえななんで剣ささるんだ」

「俺はゴーレムのパンチ受け流すのもやばいと思う。避けない心意気すごい」

両手両足を破壊して、頭を壊したところでようやく動かなくなった。うむ、こういう硬いだけの相手だったらやりやすくて良いな。素早かったらお手上げだわ。

全然見せ場がなかったからちょっとは活躍出来てよかったわ。あとみんなで連携取るのすごい気持ちいい。

「キミヒト君そんなことできたんだね」

「ああ。といってもやるたびに剣壊れるからやりたくないんだけどね」

このやり方はイリスがいたからやれたことだ。温度を急激に上げ下げして無理やり壊すようなやり方は昔からある。そこに異物を放り込めばその壊れやすさも跳ね上がる。

そして俺の武器はどんどん壊れていくと。ミスリルの洞窟にアダマンタイトあればと思って期待したんだけどなかったな。どうにかしてこの問題を解決していきたいところだが、今のところはどうしようもない。

しかしこのドロップすごいな。ミスリルの塊が大量にある。具体的にはゴーレムの体そのまま全部くらい。

「……流石にこれ入るかな」

入りました。何トンあるのか知らないけれど無理やり突っ込んだら入った。MP消費し始めてたからたぶん重量か積載量オーバーしてるけど。くっそつかれた。ギルドに嫌がらせのごとく投げこも。

「みんなお疲れ。ナイスファイト」

「お疲れ様です」

「キミヒト、ナイスガッツ」

「お疲れ様」

俺たちはこうしてミスリルのダンジョンを攻略することに成功した。

「おーい、キミヒト。ダンジョンコアの道こっちっぽいぞー」

俺たちがドロップアイテムを回収している間にあかねとロンドの連中はダンジョンコアのある場所を探してくれていたらしい。分担作業ありがたいわ。

そこにあったのは屑鉄のダンジョンにあったのと寸分変わらない物だった。

「イチロウ、やっていいぞ」

「何言ってんだよキミヒト。お前がいなきゃクリア出来なかったんだからお前がやれ」

残りのメンバーもみんなそう言っていた。ロマンを求めてここまで誘ってくれたのは疾風のロンドのメンバー達だ。俺はこの部屋の中に入っていれば恩恵がもらえるのでそれでよかったのだが、彼らは俺にやらせる気らしい。

「いいのか? 名前残るんだろ?」

「だからだよ、俺達なんもしてないのに手柄だけもらうなんてことはしたくないからな。あ、でもギルド報告は俺たちがやってやるよ。すんなり話が通るだろうしな」

「俺たちはクリアしたかっただけだ。そりゃ名誉も欲しいけど今度は自分たちだけでやってやるよ。キミヒト達が受付嬢に相手にされてなかったの見たぞ」

「だから遠慮なくやってほしい。キミヒトの名前を残しまくってみんなを驚かせてやろうぜ。あの受付嬢俺達にはすんごい笑顔なんだ、任せとけって」

あれ見られてたんだ。いやだからこそそのタイミングで知られたのか? ということは俺がここで名前を残しておくと、話を聞かなかったってことで受付嬢罰せられるのでは。俄然楽しみになってきたな。

それならこの申し出をありがたく受けようじゃないか。屑鉄のダンジョン、ミスリルのダンジョン、この二つをクリアした俺にたてついたことを後悔するがいいふははは。

「なんか邪悪な笑みしてますね」

「あれは悪巧みしてるわね」

「キミヒト、楽しそう」

「何する気なんだか」

そして俺はダンジョンコアを破壊した。

<<ダンジョンが攻略されました。この部屋にいる生命体のスキルを強化します。その後ダンジョン内の清掃に移ります>>

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