パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

第14話よくないよね?

 別に特別な好意があるわけではない。でも、何かパーティーで一番、目で追ってしまうのはマナツでも、ユキオ君でもない。

 たぶん、それはハルト君がリーダーだから。いや、違うのかな。
 あの夜の出来事もあるが、たぶんそれだけではない。追放されたとき、最初に声をかけてくれたから? それもある。

 それもあるんだけど、たぶん自分と似ているものを感じたからだと思う。たぶん、皆といるよりも一人でいるほうが楽。でも、ずっと一人がいいのかと言われればそうじゃない。それに、皆のことは嫌いじゃない。
 でも、分からないけど心は一人なりたがる。

 そんな共通点を勝手に感じていた。

 ――でも、そりゃ異性ですから、もしかしたらこれって恋心なのでは? と考えた時もありましたよ。ええ。

 でも、恋心ではない。だってドキドキしないし。

 それでも、たぶんパーティーの中では一番信頼している。マナツとユキオ君のことは信頼していないわけじゃないけど、おそらく二人だってそうであろう。
 何か起きるたびにハルト君に意見を仰ぐ。私だって言葉にすることは少ないけど、とりあえずはハルト君の言葉に耳を傾けておく的な……。

 数か月パーティーを共にして、分かったことがある。ハルト君の口癖は嘘だ。「眠い、めんどくさい、ダルイ」をよく連呼しているが、それは嘘だ。正確には、私から見れば嘘だ。
 ただの口癖。

 だって、いつも我先に動いて、自然と危険な立ち位置を自分から取る。今回だってそうだ。

 デッドリーパーと真正面から打ち合うのは実際のところ、武器に合わせて刃を構えればいいのであって、もちろんそれすらも大変だということは、実際に経験しているからわかるんだけど、それよりも懐に入り込んで攻撃を仕掛けるほうが、ずっと危ない。

 頼りになるって言い方をすると、失礼だけども語弊がある。なんて言ったって相手は準災害級。国を一つ葬り去った死神なのだから。

 四人とも手いっぱいだった。けれども、やれる気がした。マナツにユキオ君、それにハルト君がいれば。

 ――この魔法で決める。

 モミジはライトニングを詠唱し始める。目を閉じ、心の中で複雑な詠唱を唱え続ける。
 ライトニングは天から、一筋の落雷を撃ち落とす魔法だ。今日のような曇り日、もしくは雨の日に使える魔法だ。おそらく、モミジが覚えている魔法の中で一番強力。

 焦らない。急ぐ心を押さえつけて、一語ずつゆっくりと詠唱していく。心が乱れれば、魔法の完成度はグッと下がってしまう。
 体の内側はすでに燃えるように熱い。でも、足りない。デッドリーパーに終焉を決め込むのであれば、もっとだ。

 そして、五分にも渡る詠唱が終わろうとしていた。

 帰ったら寝よう。もう疲れた。――ってこれじゃ、ハルト君みたいだな。

 ふと、背後に殺気を感じた。体の内側で煮えんばかりに燃え盛った火が、少しだけジュゥと音を立てた気がした。
 気が付いた時には、乱雑に体が突き飛ばされていた。そして、その瞬間、最後の詠唱も同時に終わる。

 目を開く。たぶん、突き飛ばされ、真上を向いていたんだと思う。最初に視界に入ってきたのは、黒いローブと吸い込まれんばかりの深紫の眼光。
 理解ができなかった。だって、今だってユキオ君が競り合っているはずだ。

 視線を前に向ける。

 ほら、ユキオ君が鍔ぜっている。―-ッ!?

 モミジは思わず気を飛ばしそうになった。眼前で自分を突き飛ばしたハルトが、肩から腰にかけて、大きな鎌でえぐられている。
 鮮血が降り注ぐ。顔に血がべちゃっと着くが、モミジには理解できなかった。

 なんで?

 なんでなんでなんで?

 己の力を失い、地に落ちるハルトを受け止める。ずしっとした確かな重み、そして荒い息。

「よか……った」

 ハルトが消え入りそうな声でつぶやいた。

 刹那、胸の奥が燃え盛った。燃えるというよりも溶けた気がした。

 空がゴロゴロと音を上げる。

「……よくない」

 空は漆黒に包まれる。モミジの世界から音が消える。
 
「よくない――ッ!!」

 はち切れんばかりの魔力を解放する。持ちうるすべての魔力が際限なく体からあふれ出す。

 空が煌めく。

 次の瞬間には、まるで豪雨のように雷が降り注がれた。一度ではない、何度も何度も。

 視界が歪んで見えたもんじゃない。当たっているかだって分からない。それでも、モミジは魔力を開放し続けた。

 止まらない涙に呼応するように空も輝き続ける。

「――ッ! ……い! もういい!」

 ふと、誰かに止められた。モミジの世界に音が戻る。激しい耳鳴りはおそらく自分の使ったライトニングのせいであろう。

「いいか、落ち着け」

 聞いたことのない声。揺らめく視界には青みがかった紺色の髪を乱雑にかき上げ、こちらを覗き込む男性。そして、後方にも知らない人が三人いる。

 ――あぁ、助けか。

 全身が鉛のように重い。魔力を使いすぎた。でも、そんなことどうでもいい。

 意識がスーッと遠のく。聞こえてくる声も遠く感じる。

「……おい! 早くしろイアン! まだ助かる!」

 誰が?

「すいません、すいません!」

 誰に?

 モミジは暗闇に意識を吸い込まれた。

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