金色天狗とツノ無し鬼

ナルミヤタイ

第19話 三対三の戦いへ

鬼丸の掛け声で、鬼丸、子供天狗が走り出し、山ギツネはその場で"力を溜める"とやらをしている。

鬼は性懲りも無く息を吸い込み、しかし今度のはとてつもなく長い。
そして傍観ぼうかんしていたはずの鬼達の中から鬼が二体、静かに前へ出て来る。
「何をしておる、下がれえい!」
鬼は息を吸い込むのをやめて静止する。
「いやいや、やめんぞ、我らも出よう」
「三対三じゃあ」
鬼丸の雄叫びに感化されたのか、一体は湯気のようなものを肌から出し、もう一体の輪郭は陽炎かげろうの様になっていた。

地獄の鬼達は一体一の勝負を決まり事として掲げている。
一に対し三でくるならば、三対三としてもそれは決まり事に沿っている様に思える。
「ううん、いかがなものか」
鬼は悔しい。
これではまるで自分が劣勢に陥った様に見えるではないか。
わっぱの天狗と、鬼の半端者と、神使しんしとはいえ狐などに。
「ここはなんと言われようが出ていくぞ」
湯気ゆげを放出する鬼が譲らぬと言う。
「かっかっかっ、わかったわかった、許そう。しかしあの三匹全員にかかる技事わざごとは無しじゃ」
突然の鬼の決まり事に、他の二体は納得しない。
「待てい。我らは鬼、金棒かなぼう一振りで人間であれば五十は殺せるわ」
「我の力は一度で百はいけるわ!」
一度に三人に当たる力は使っては行けない。そんな事は不可能だと言うのだが、最初の鬼は譲らない。
「であれば下がっておけえ」
この言葉に他の二体が喰らいつく。
「そもそもお前がてこずっているのが原因だろうが」
何やら鬼同士言い合いを始めてしまった。


子供天狗は考えた。
山ギツネの言った"勝手に人の力を使う"と言うことを。
しかし確かに振り返れば、人里で団扇を扇ぐ時は"力が無かった"気がしたが、天狗の里で扇ぐ時や、今さっきは"力が有った"気がした。

そもそも団扇うちわあおぐ力とはどこにあるのだろうか?
力とは自らの体の中にあるものだと思っていたが、もしかするとその辺りに漂っていて、その漂う力を勝手に扇いでいたのだろうか?

子供天狗は閃いてしまった!

それであれば合点がてんがいく。
人里には人間しかおらず。
天狗の里には天狗達が沢山いたし、今さっきは神使しんし姿の山ギツネや、鬼どももいた。
だから強大な風を起こせたのだ。

なるほどな!
いや待てよ、しかし今しがたまた、か弱い風しか生み出せ無くなってしまった。
なぜだろうか?
難しい、考えてもわからない!

子供天狗は小さな頭で一生懸命考えた。
「わかったぞ!」
閃いた子供天狗!
すると突然足を止め、団扇を持ったまま手を広げてはゆっくり回りはじめた。

俺はきっと、うまく周辺の力を拾えてないのだ!

まるでその場で踊っているかの様にゆっくり回る。

「なぁにしとるんだぁ?」
鬼丸こそ、走り出したはずの足を止め岩を砕いて小さくしている。
「これはな…のな、……鬼の力を…な…」
回っているので定期的に声が遠のき鬼丸に届かない。
「…。そうかぁ!」
鬼丸も聞き取れていないのにも関わらず適当に返事をする。
鬼どもと言えば言い合いをしているし、山ギツネが見る光景は何とも不思議なものであった。


子供天狗の生まれ育った天狗の里には、"天狗の踊り"と言うものがあった。
十年に一度、百年に一度、一千年に一度。
笛と太鼓を鳴らして踊り狂う。
子供天狗はまだ、十年に一度行われるものにしか会ったことがないが、その時の天狗達は皆思い思い好きに踊っていた。
"天狗の踊り"は、その山と周辺の里に五穀豊穣の恵みを与えるとされ、人間達にも好影響なものなのである。
その天狗の踊りは、天狗の力を放出し、その放出された力は里長によって周辺の地に撒かれる。
その里長の踊りこそ、子供天狗が踊りだした、ひたすらゆっくり回り回る、踊りなのである。

子供天狗は回り回り舞回り、段々とその踊りの世界へ入っていく。
そうしている内に膝を曲げたり、腕を天に伸ばしたりもし始めた。
子供天狗は不思議な高揚感に包まれ、今この場所がどんな場所かもすっかり忘れている。

鬼丸は砕いていた岩を沢山抱えて、鬼どもが向かってくるのを待っているが、一向に向かってくる気配は無い。
湯気を放出する鬼がこちらをちらりと見たが、向かっては来ない。
今度は穴に半分埋まった鬼が、その跳躍力だけで穴を飛び出したりし、もちろんその振動は激しく地を揺らしたりもするのだが、来ない。
そして、細長く静かな息を吐き続ける。
何かを仕掛けてくるのだろうか。
しかし長く長いこと吐き続けるばかりで、向かっては来ない。
鬼丸は砕いた手のひらの大きさの岩を投げつける瞬間ときをひたすら待っているのだが、中々来そうに無い。
「鬼丸…出来そうだ…」
ハッとしてしまう声色。
元気な声とは言いがたい、しかし不思議と心強い。
舞い回る子供天狗の面から、瞬間ではあるが瑠璃色の目がはっきりと見えた。
人間の子供が、どこか遠くの世界にいるような気がして、回るのをしっかりと見守る。
「待あたせたな」
鬼の声がその視線を奪う。
三体の鬼はそれぞれこちらを向いてそれぞれ言い始めた。
「我の相手は半端者お、お前だ!」
「我の相手は天狗!」
「我は狐の相手をしよう!」
そうして今度こそ、戦いが始まる。

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