ホバローディ・ヴィヌガレド

汰綿欧茂

第1話 アルフ二等兵曹

 浮上暦59年フロート ファイブナイン
 陸地浮上移動車の開発時代。その宇宙空間では、レヴダ星域の宇宙エリア圏内にはホバローディが軍用格闘戦をしていた。
 敵対相手はレヴダ軍が決めた呼び名『プトルス』という正体不明の獣形機じゅうけいき。圏内侵攻の罪状で軍が攻撃対象にしたので、破壊作戦が発令されている。
 星域には500基ほどの人工土壌メガアートを設置されている。59年本年では、半年過ぎた現在でも、プトルス戦場に至り廃地されたメガアートは15基ほど。
 プトルスに勝てるホバローディがいない時代。それは、もう絶望しかない世界だった。

「イーグル、ホーク、ファルコン、スワロー、エイプ、モンキーが生息していた伝説上の青い惑星、プトルス。その惑星名から獣たちを模した偽装侵攻機がレヴダ軍の戦う理由でございます」

 現代社会科目で、指された女学生の説明が教室じゅうに明確に発表された。

「アルフェイ君よろしい。着席なさい」
「あ、はい」

 教室じゅう喝采の拍手や祝した声がこだました。

「コホン。皆さん静粛に。授業を続けますよ」

 現代社会教員がシビアな目つきで授業を再開した。

「あの、小うるさいベンカー先生をあっと言わせるの上手でしたね、アルフェイ」

 放課後一番にリタルが面白がってアルフェイに突っかかった。

「リタル、そう教師を悪く言うことはいけないわ」
「超真面目はダメダメ。アルフェイは猛スピードビークルのような陸上クラフトをぶっ放す程の高速少女をやってもらわないとね」
「あんな野蛮なものと一緒にして〜。私には無縁の乗り物に過ぎないわ」
「何事も効率的に手早く作業できる人、アルフェイ以外誰もいないって」
「コラ、からかわない!!」

 こんな平和な日常とは裏腹に、宇宙では獣形機プトルスが次のメガアートを狙ってきているという。
 アリゲータータイプの獣形機3体が奇襲かけてきた。
 目標は、アルフェイの住むこのメガアートダブルスリー居住空間だった。

『警告。緊急警告発令!! プトルス奇襲の一波を確認。ダブルスリーストリートに被弾。市民の皆様、速やかにお近くのシェルターにご避難ください。繰り返します……』

 リタルはアルフェイの手首を掴んで付近のシェルターに連れていった。

 近所のMMCブロックのポイントに向かった二人は、一機の敵機と遭遇した。が、敵の攻撃でそこのゲートは破損されていた。
 そんな中、避難民救助を優先にしたホバルーター(肉弾戦前の高速移動形態)が援護してきた。

『そこの二人、当機後部コンテナシャッターがあるから、ゲート開けたら中に入って』
「わぁ、イケメンボイス〜」
「ホラホラ、緊急なんだから早く乗りなさいリタル」

 二人の搭乗確認できた後、ホバルーターはゲートが破損されてないポイントのシェルターまで移送させてやった。
 それを追いかけるアリゲータータイプ。早くせねば二人の民間人を巻き添えにしてしまう。
 コンテナから出てシェルター移動した二人。走り込む際、アルフェイは瓦礫の破片に気付かずつまずいた。
 
「アルフェイ、あんた、グズね。置いてくわ……よ………」

 リタルは敵機アリゲーターの放つサリヴァショットの標的となり、地面に倒れたアルフェイの手前で還らぬ者になった。

「イヤぁぁぁぁぁ〜!! リタル〜〜!!」
「何してる? 早くシェルターに……おわァァァ!!」

 ホバルーターのハッチを開閉し、様子見した操機員さえもアリゲーターのサリヴァショットに巻き込まれ殉死した。
 ホバルーターの機体はまだ健全で、起動装置は故障してない。アリゲーターは生体反応する敵機みたいなので、機体そのものには危害はしないようだとアルフェイは悟った。

「操機員さん、しっかり」
「キミ……は生……きろ。に、逃、げろ……」

 殉死してなくまだ息はあったようだ。

「わた……し、を……放り……な、げろ〜」
「(敵は生きてる人に反応する。これもさだめね。ああ、ままよ)ええい!!」

 アルフェイは大人の男性一人を機体から力いっぱいに放り投げた。
 まだ生きてる操機員の生体に反応したアリゲーター。
 そのすきに、当機の操機席に取り付いたアルフェイ。

「ごめんなさい、操機員さん。ええと、複雑な計器だらけ……とにかくハッチ閉めるのどうやる? 勘で開閉スイッチ見つけないと」

 操機員が殉死したのを確認したアリゲーターが標的をアルフェイに移した時、ホバルーターを蹴り出した。

「キャッ……あ、アレ? 敵の体当たりで閉まったわ、ハッチ」

 もう一波、アリゲーターは猛攻撃しかけてきた。

「敵が襲ってきた。このホバルーター動かせるの、私?」
「そこのホバルーター、生きてるのか?」
「無線? ええ……と、女と思われると味方に殺処分されると聞いた事が……」

 声色を意図的にドス利かせて変声させてみたアルフェイ。

「当機は、ブレフシット中尉が殉死した為に私、新米であるアルフ二等兵曹が代理として敵機と交戦、展開の模様であります」
「そうか、アレ……そんな新米いたか? ま、とにかくだ。何とか持ちこたえてくれ。すぐ応戦しに合流するからな」
「ありがとうございます」

 どうやら殺処分されずに応戦を待つ事を祈るのみだ。だが、女学生とバレたら処分対象だから何とかごまかさないといけない。
 計器類に両手の十指を触れてみせたアルフェイ。すると、突然脳内にマニュアルの中の取り扱い法が記録されたという。

「え? 私、ホバルーター扱えるわ。これが、ホバローディモードレバー。これを少し長押ししながら静かに手前に引き落とす……」

 すると、アルフェイの機体は変態シーケンスで人型にモードチェンジしだした。

「ホバローディに可変したわ。よし、これでヤツと交戦できる。いいえ何とかやってないといけない。ここからが反撃よ。これでも……喰らえ!!」

 アルフェイ機から光束戟ライトポールが突出できると気付いた彼女。何とか計器類から突出ボタンを見つけ、武器を手にした。

「これで何とか肉弾戦に持ち込めるわ。テェェェェイ!!」

 光束戟がアリゲーターへと狙いを定めて反撃しだした。やはり初陣なのか、なかなかそううまくはいかない。

「クソッ。外した  敵は際どいわ。素早いし。でも、私は負けない。リタルの仇討ちしないと、こいつだけは。ハァァァ!!」

 数発の光束戟の猛攻でアリゲーターをヒットさせたが硬い装甲板でビクともしない。

「他に武器はないの? 擲弾筒庫グレネードパックから後爆撃アフタブレイクできるランチャーミサイルを見つけたわ。でも、メガアートを陥没させて宇宙に放流させられちゃうわ。考えて攻撃しないと」

 敵は待っててくれない。何とかダメージを与えられても装甲板に傷がないので、弱ダメージじゃ意味がないのだ。何とかして空中戦に持ち込めないか戦術をシュミレーションしてみせたアルフェイ。

「あそこに弱い生体反応を見つけたわ。ペットショップ? 本当はこの手を利用するのは罰当たりだけど、勘弁して成仏してね。本当、ごめんなさい!!」

 ペットショップの天井部分を機体の腕で破り、アルフェイは多種多様の動物たちの檻を掬い出した。
 その数々の檻をアリゲーター目掛けて放出した時、敵機は生体反応に気付いて気が反れたのか宙を舞った。

「ランチャーミサイル、発射!!」

 庫内パックの弾数は6発。それをいっぺんに発射し、アリゲーターに命中。対象は撃沈した。撃破作戦は見事に成功したのだった。

「メガアート陥没を避けられたわ。あ、そうだわ私、男装しないと処分される。困ったな」

 席を離脱しようとシートを下げるレバーを外側へ起こししたが、何かが引っかかっていた。確認したら衣装トランクだった。

「操機員さんの私物? 操機員さんごめんなさい。拝借します。」

 ブレフシット中尉の私物を譲った事として紳士用の軍用制服に着替えたアルフェイ。

「アルフ二等兵曹、無事か? 合流、遅くなった。他の地区の応戦で手こずった。すまない」
「い、いえ……謝罪しないでくださいませ」
「まさか新米の腕で敵機を落としたとは。まさかグレネードで?」
「はい、空中戦という措置です」
「メガアートを陥没せずによくもここまで。驚いたよ」
「感謝します」
「いや、それはそっくりそのままお返しします。お見事です。お疲れ様でした」

 どうやら3機の敵機は苦戦して何とか仕留めたらしい。すぐにシェルター住民の移送先へ大型輸送機へ誘導準備を済ませた。

 住民全員集合した港口。出港準備チェックしている頃。被爆者遺体はそのまま放置状態の中、ストリートじゅうのリタルの亡骸を発見できずにダブルスリーミリフォートレスに帰投したアルフェイだった。



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