悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

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73話 何も書かれていないラクガキ。


 73話 何も書かれていないラクガキ。

「――たくしたぞ」

 その言葉を最後に、
 この空間の全てが、
 センエースに注がれていく。

 一致していく。
 調和していく。

 泡のような、粒のような、
 そんな神々しい輝きだけが、
 センの意識と視界をうめつくす。

 溺れそうになりながら、
 センは、無意識の底で、

(……ああ……アレが……)

 『何か』を見たセン。
 強大な何か。
 この世界を演算し続けている超々々強大な量子コンピュータ。
 コスモゾーンと呼ばれている異次元の箱庭。 

 センを包んでいた命の流れが、
 一瞬で、一対の素粒子にまで圧縮された。

 最初の0と1。

 そこからさらに小さくなっていく。
 破れて、重なって、崩れて、もっと、もっと奥へ。
 終わりなく無に近づいていく。

 生じたのは、全てが一になる瞬間を包む、極小の泡。
 ホロホロと崩壊していくセンの無意識。

 圧縮されたコスモスの深部で、
 オメガ無矛盾を殺す、
 有機的なカオス。

 『何も書かれていないラクガキ』という秩序。
 注視すれば前衛芸術、
 俯瞰図ではただの二次関数グラフ。

(溶けていく……命が……全部が……)

 センが一時的に得た『本物の多角性を有する無意識』は、
 ほんの少しだけ、終着点の写像に、意識を投影させた。

 神の視点。
 形而上の観測。
 死が収束する無次元の特異点。
 タイプ8の価値観。
 『ここではないどこか』を失った世界で、
 無限の絶望と向き合う最果ての英雄。

 輪郭が円よりも丸くなっていく。
 直線が実現する。
 一秒が膨張していく。

(……俺は……)

 真実と向き合う。
 センエースの中で、全てが沸騰する。

 そこには、彼女たちも存在している。
 紅院と、トコと、黒木と、茶柱。
 ほかにも無数に存在する命の全部と向き合う。

 全てが、あまりにも大きすぎて、
 対処の仕方を見失う。

 そんな中で、確かなことが、一つだけあった。


「――愛してる――」


 『言葉では表現しきれない想い』の暴走。
 けど、どうしても言葉にしたくなってしまう人のサガ。

 醜くて、無様で、みっともなくて、みじめで、愚かで、下劣で、卑しくて、貧相で、わびしくて、悲惨で、哀れで、みすぼらしくて、下品で、現金で、節操がなくて、不格好で、拙くて、ぎこちなくて……

 そんな命の脆さを全て理解した上で、
 センエースは、愛を叫ぶ。

 だから、というわけでも、
 結局のところは、ないのだけれど、

 センは……





 ★





 ――オメガが、センエースを殺した直後のこと。
 ほんの、コンマ数秒後のことだった。

 次元にビシっとヒビがはいった。
 亜空間の亀裂。
 それは、センエースのアイテムボックス。

 亜空間倉庫に収納されていた、
 トラペではない方の『黒い石』が、

 ドクドクと脈打ちながら、
 現世へと這い出てくる、学校の屋上で拾った黒い石。

 その黒い石は、世界を包み込むように発光した。
 強い光を放つ。
 オメガは、その光をジっと見つめていた。
 決して目を離さずに、
 黒い石の輝きを注視している。

 ビキっと、卵が割れるような音がした。
 生命の息吹を感じる。
 命が世界に注がれる高揚感。

 沸騰する。
 落ち着きを見失う。
 トクトクと、小さな音が響いて、
 グニグニと、細胞が分裂する気配がして、
 やがて、その全てが、一点に結集していく。


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