悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

13話 俺がブレるから。


 13話 俺がブレるから。

 ゾーヤは、これまで、愛など知らずに生きてきた。
 だからこそ、今の自分の感情がもどかしい。
 理解できない感情の暴走。
 センの行動に対し、不愉快とか不可解とかイラつきとか腹立たしさとか、
 そういう、細かなニュアンスをともなう『特別な憤怒』を感じながらも、
 しかし、同時に、『暴力的な愛おしさ』も感じてしまう。
 母性というオプションも加わった、愛情の最終形態。

 『尊さ』でおなか一杯という、
 理解しがたい感情の嵐の中心にいるゾーヤに、
 センは、視線を向けて、

「高潔だとか、慈悲深いとか……そういう綺麗なだけの言葉を使うなよ。俺がブレる」

 ボソボソと、

「お前らのためにやってんじゃねぇ。何度も言わせるな……俺は俺のやりたいことしかやらねぇ。……近くで痛い痛いとピーピー喚かれるより、自分自身がちょっと痛いだけの方が精神的に楽。俺はいつだって楽な方へ流れるだけ。流されて、たゆたって、そうやって生きてきて、これからも、そうやって生きていく。それだけ」

 そう言いながら、センは、
 ギヌリと、イブを睨みつけ、

「さあ、続きだ。次は、どんないやがらせでくる? 全部、受け止めてやるよ」

「……なぜ、そこまで出来る?」

 イブの純粋無垢な問いを受けて、
 センは、ニィと笑う。


「頭ワリぃから。それ以外の理由は、たぶん、ない」


 そう言いながら、センは、グンっと加速して踏み込む。

 右の拳に力をこめる。
 命が膨れ上がる。

「――閃拳――」

 とびっきりの必殺技を放つ。
 見た目は、ただの正拳突き。
 けれど、その中身に込められているのは、
 幾億の夜を超えてきた、この上なく尊き魂魄の結晶。

 だから、その拳は、
 イブに届く。


「ぐぅうっっ!!」


 お返しとばかりに、
 イブの腹部を貫いたセンの拳。

 血を吐き出すイブ。
 返り血を浴びるセン。

 ――センは、



「――ヒーロー見参――」



 とびっきりの覚悟を謳(うた)う。

 誰にもマネできない命の最果て。
 その姿を、世界中の人間が目の当たりにする。

 この瞬間に、誰もが、理解した。
 この男こそが、
 自分たちの王であること。

 『投票で選ばれたから』でも、
 『王族の血縁者だから』でも、
 『金をバラまいたから』でもない。

 そんな『システム上の話』ではない。
 『そうではない』ということに、
 全人類が気づく。

 ――だから、

「あ、ああ……抜けていく……絶望が……美しい憎悪が……」

 イブを輝かせるバフとして機能していた、全人類の『センエースに対する憎悪』が熔けていく。

 もはや、憎めなかった。
 センエースの輝きを前にして、憎む理由がなかった。

 もちろん、中には、センエースという輝きから目を背ける者もいた。
 あまりにも大きな光に対する妬み嫉み。
 高潔すぎる気概に対するやっかみ。
 人間の感情は、いつだって十人十色千差万別。
 けれど、そんな者たちですら、
 センエースに『過剰な憎悪』を向けることは難しかった。

 これほどまでの気高さを、目の中で見せられてしまえば、さすがに、『今、まさに、命をむき出しにしたヒーローに救われている最中である』という理解に届かなかった者はいないから。

「センエース……貴様に勝つために……これだけ準備を整えてきた……それでも勝てないのは……なぜだ……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品