悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

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42話 これ以上ない大ウソ。


 42話 これ以上ない大ウソ。

「いけるわけねぇだろ! ふざけんな、カスが! 何度も、何度も、覚醒しやがって! 卑怯だぞ! お前は、アレだ! ダメだ! 何がどうとは言えんけど、とにかくダメだ! 反省しろ!」

 と、無限の不条理を叫ぶセン。
 正直、一ミリも勝てる気がしなかった。
 『虹気』とかいう覚醒技を使い始める前までなら、
 普通に、どうにかできたのだが、
 しかし、ここまで過剰にパワーアップされてしまうと、いかんともしがたし。

「マイノグーラ! そんな、きたないマネをして勝ってうれしいか?! 素の自分で堂々と勝負しろ! それが漢(おとこ)ってもんだろ!」

「別にかまわないぞ。貴様も素の自分で向かってくるのならな。あと、私は女だ」

「ぐぅう……ぬぅう……」

 ぐうの音しか出なくなったセン。
 その表情だけで、状況のヤバさは、誰でも一瞬で理解できた。

 ――『虹気』という一段階目のパワーアップの時点で、
 すでに、まあまあしんどかったというのに、
 そこからさらに、二段階もギアを上げられてしまったら、
 さすがに、勝てる見込みがなくなった。

 とはいえ、

(……こ、これは……勝てんだろ……ちくしょう……)

 普通に思う。
 センは賢くないが、バカじゃない。
 目の前の現実が理解できないわけではない。
 数字の差の意味が理解できないほど計算ができないわけでもない。

 ――だが、
 数字だけで世界を捉えられるほどお利口さんでもないので、

(――け、けどなぁ……)

 こうして、また、歯を食いしばることができる。
 できてしまう。

(やるしかねぇんだ……こいつを殺す以外に道がない……ここで投げたら、全部終わる……それだけはイヤだ……)

 『絶対に勝てない』と思って挑んでも可能性は生まれない。

 だから、センは自分をだます。
 いつだって、そう。

 ヤバすぎる壁を前にした時、
 センは、とびっきりの嘘つきになる。

「マイノグーラ! 本物の女神様! あんたは強い! だが、絶対に勝てないわけじゃねぇ! 何がどうとは言えないが、しかし、この俺には、あんたに勝てる可能性がある! 理由とか概要は絶対に聞くな! 整った答えは存在しない! とにもかくにも! 俺には可能性がある! あるんだからねっ!」

 塵芥ほどの中身すらない、めちゃくちゃな戯言を、
 恥ずかしげもなく、大声で叫ぶセン。

「お前に勝てなきゃ全部終わる。わかった上で……わかっているからこそ、俺は叫ぶ! このくだらない地獄、このヤバすぎるウザさ……ぜんぶ飲み込んで、俺は俺の純粋無垢なキ〇ガイぶりを、世界に刻み込む! 心に説いて把握しろ! ここには俺がいる! だから、世界はおわらねぇ!」

 とにかく、必死になって、
 からっぽの虚勢を叫びながら、
 センは、全身全霊の武を構えて、





「――ヒーロー見参っ!!」





 この上ない嘘をつく。
 全部、大ウソ。
 何一つ真実がない言葉。

 最初から最後まで、全て虚構。

 けれど、だからこそ輝く光もある。

 『欺くための言葉』を並べた。
 嘘を嘘で装飾した。
 塗り固められた虚構は、
 醜いペテンだけれど、
 しかし、決して、単なる詐欺じゃない。

 それは、覚悟の証。

 ――不可能な幻想を、とびっきりの現実に変えてやる――

 そんな、ぶっちぎりにイカれた覚悟の表明。


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