悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

16話 コールサインは……


 16話 コールサインは……

「いや、これ、ヤバいよ! 絶対に、ニュースになるよ! 登録者、一気に増えちゃうよ、まいったなぁ。有名になっちゃうなぁ。金持ちになっちゃうなぁ。何を買おう……やっぱ、車かなぁ……」

 ドーパミン全開の顔面で、
 ニヤニヤしながら、そんなことをつぶやくカレー男を横目に、
 佐田倉は、
 おもむろに、ふところからスマホをとりだして、どこかにかける。

 半コールで繋がる電話。
 異常な速度のレスポンス。
 異常なのは速さだけではなく、対応も同じ。


『――コールサインを』


 挨拶もなしで、言葉を投げかけられた佐田倉は、

「ゴースト06」

 『お決まり』の返答を秒で返す。

『認証した。――【ヒーロー01】は、今、どうしている?』

「時空ヶ丘学園に向かった。お嬢たちに連絡を」

『了解』

「それと、『ヒーロー01が瞬間移動するところ』を、アホのユーチューバーに撮られた。対応、よろしく」

『拡散されてもかまわないだろう。むしろ、ヒーロー01の【存在】と【その尊さ】を、世界中の人間が知るべきだ』

「……ヒーロー01は、それを望まない」

『わかったようなことを言う』

「…………あんたよりは、兄さんを理解しているさ」

 最後に、盛大なマウントをとってから、
 ゴースト06は、電話を切った。

 通信終了から五秒も経たないうちに、
 『戦場帰り丸出しのグラサンスーツ』の男たちが、
 店の中に入ってきて、カレー男の周囲を取り囲む。

「え、え?! ちょっ! え?! むぐっ――」

 何一つ現状を理解できないまま、タオルを口の中に突っ込まれ、
 『人一人ぐらいは余裕でおさめられる黒い袋』に詰め込まれる。

 そのまま速やかに店の外へと連行されるカレー男。
 一分もしないうちに、店の中は静かになった。

 ほとんど無音になった店内で一人、
 佐田倉は、天を仰ぐ。
 そして、
 カレー男の存在など頭の中から消去して、
 自分の『中』へと没頭する。


「メシ炊いて、運転手やって、背中を流して……そうじゃないはずだ……もっと出来たはずだ……もっと頑張っていれば……いや、もちろん、限界まで頑張っていたとしても、どうせ、結果は何も変わらなかった……俺に携帯ドラゴンの適性はない……けど、それは兄さんも同じ……だから、そういうことじゃないんだ……そういうことじゃない……」


 奥歯をかみしめ、拳をにぎりしめる。

 自分の言葉を否定して、
 自分の人生を否定して、
 それが『逃げ』であることを自覚することで、
 あふれ出る『どうしようもなさ』と向き合う。

 そんな、くだらない虚無感とのエンドレスワルツ。
 『自分の無力を思い知る』という人生の螺旋階段。
 上がっているのか、下がっているかは分からなかったが、
 『螺旋状になっている』ということだけはよくわかった。

「もうすぐ、運命の日がくる……俺は、あなたと過ごした日を失う。次のループ先で、あなたは、俺を求めないだろう。意味がないから。――俺の役目は、始まりもせずに終わった」

 とうとうと、佐田倉は、
 誰にも届かない言葉を、

「……立て直したい……俺の全部を……そして、向き合いたい……あなたを支えたい……」

 天に向かって、

「生まれ変われたら……なんて、そんな現実逃避は大嫌いだが……けど、もし、生まれ変われたら、俺は、あなたを支える一つになりたい……」

 願いを口にした。
 それが叶うかどうかは分からないが、
 しかし、天は、確かに、佐田倉の願いを認知した。

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