オウルシティと傷無し

詩一

finished ねえ、行こうよ。ゼン

そうに言われた通り、莉々の髪色と髪型を変えることにした。戸籍上死んだことになっているから学校に通わせるのは無理だが、何でも見せてやると約束した以上、外を出歩けるようにしておかねえとな、と思ったからだ。

莉々りりは、キンパツがいい。ゼンみたいになるの」

その頃にはもう、随分と懐いてくれていて、髪型髪色の変更はスムーズにできた。金髪にウェーヴを掛けて、前髪も七三分けにした。長さはあまり変えてない。

そして今日は、初めて二人で出掛ける日だ。都内の遊園施設などに行く予定。

今日の莉々の服装のコーディネイターは伊深真実いみまさねだ。莉々曰くマサねえちゃん。マサネが想に何を言われたのか分からないが、ある日突然俺の元にやってきて、莉々の服をプレゼントしていった。確かに着るものが無くて、俺のワイシャツやらTシャツやらを無理矢理着せていたから助かった。

金髪ウェーヴに真っ白素肌、そこにお姫様系とでも言うべきコーディネイトで、完全に人形だなと思った。ゴスロリ? とか言う奴か? サブカルファッションのようにも思えた。まあ何でもいい可愛いし。それに黒が基調ってのもいいな。

ダイニングテーブルの向かいに座って朝食を取る莉々を、コーヒーを飲みながら何となく見ていた。そしてコーヒーをズズッと啜った時、不意に嫌な予感がした。トーストをかじっている莉々を尻目に、俺は席を離れ、リビングのテーブルの引き出しに入れておいたコルトガバメントを手に取り、窓を開け、バルコニーに出た。

「この辺か……?」

直感通りにトリガーを引く。
弾丸はマンションの下の公園の木の下に吸い込まれていった。遠いので何に当たったかは分からない。だが嫌な予感は消えたので、狙いは外していない。

朝食を食べ終えて、部屋を出て、一階にまで下りてロビーを抜けると、さっき俺が弾丸を撃ち込んだ辺りで、泣きながら何かを袋に入れている奴が居た。完全に不審人物だ。だが、何を拾っているんだろうか。見るとそれはどうやらカメラの部品らしかった。

「おい不審者」

俺が声を掛けるとその男は振り向き、俺を見たあと莉々を見て口をパクパクさせていた。

「お前みたいな不審者、通報するのは簡単なんだがな」
「俺は不審者じゃあない! ジャーナリストだ! あのバスをやい……」

ホルスターから抜き出したガバメントの銃口を、男の眼前に向ける。

「莉々のことを追っているんだな? いいぜ。俺が受けて立つ。テメエのカメラは俺にとってのチャカみてえなもんだ。解るな? どっちも相手の人生をぶっ壊す道具さ。もし万一テメエが莉々の姿をファインダーに収めやがったら、俺はテメエの脳天をち抜く。それでもいいなら来ればいい。俺はテメエらみたいに逃げも隠れもしねえ。堂々と殺してやる」

ゴミを見る目で睨み付ける。マズルでゴリッと男の額を押すと、なんだかよく分からねえ悲鳴を上げながら一目散に逃げて行った。

キョトンとした顔で一部始終を見ていた莉々が不意に呟いた。

「ゼン。あの人悪い人?」
「そうだ。莉々を狙ってた」

不安げな表情で俺を見上げる。
俺は腰を落として、莉々の眼を見て笑った。

「大丈夫。莉々は俺が守るから」

頭を撫でてやると、莉々は満面の笑みを咲かせた。

こんな日が、ゆっくりと流れる幸せな日常が、いくつもいくつも重なって、いつか莉々が背負わされた不幸が見えなくなるくらいになればいい。跳浦はねうら莉々だったことを忘れ、渓谷けいこく莉々として、幸せを甘受かんじゅして生きていって欲しい。そう、願う。だが、さすがに無理か。簡単じゃあない。忘れるってのは、なかなか……。
俺が少しだけ表情を暗くする一方で、莉々はますます笑みを深めていた。莉々は俺の手を取った。

「ねえ、行こうよ。ゼン」

ああ、そうだな。少なくとも今ここに居るのは、俺の妹、渓谷莉々だ。

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