オウルシティと傷無し

詩一

story:13 大丈夫なのかよ

そう。どうやってこの場所を突き止めたんだ? 間違いないのか?」

明らかに怪しげな建物ではある。目の前には背の高さを超えるコンクリートの壁が広がっており、扉も固く閉ざされていて、中を覗き見ることは容易ではない。ここから見える範囲にとどまるが、その壁の向こう側にあるのは、二階建て程度の高さのこれまた無機質なコンクリートの建物。中に建っている建物の高さはそれほどでもないが、壁の長さから鑑みるに面積は相当大きい。そんな大きな建造物が、こんな森の中にまるでワープしてきたかのように建っているんだから、不気味と言う他ないだろう。

「警察のサーバーにハッキングしてエヌシステムのデータを引き出して、車が通った道順を辿ったらここに来たんですよ。ですから、限りなく間違いないです。途中で車を乗り換えていたら話は別ですが、恐らく経過時間的にそれは無いかと思われます」
「さらっとハッキングって言ったな」
「ええ。我が社には、うちと提携している会社が製造した携帯電話が、これまたうちが提携している会社が飛ばしているWi―Fiワイファイを受信すると、自動的にハッキングすることができるシステムがあります。その状態になると、ツァルに置いてあるパソコンから対象の携帯電話を操作することが可能になり、バックグラウンドでカメラなんかのアプリを立ち上げることができますし、メモ帳を見ることもできます。社内用のパスワードを携帯のメモに書いている人なんかが居れば、一発で警察のサーバーを乗っ取れますし、そうじゃなくてもボイスレコーダーやカメラを立ち上げて機密情報を録音することもできます。そう言う訳で、ハッキングなど簡単にできます」

思わず、入社した時に想から貰ったスマフォを見る。

「安心してください。ゼンさんのようにツァルの内情を知る人間には、そんな携帯電話渡さないですから」
「そうなのか?」
「ただご自分で機種変する時は気を付けてくださいね。参第電機さんだいでんきが作っている機種だけにはしないように」

俺はそれを肝に銘じつつ、扉の方に歩いていった。

「中は見えねえが、これだけでかいと結構な人数が居るんじゃあねえか?」
「いえ、そうとは限りません。地図アプリ上でシルエットはくっきり映っているものの、社名や設備名が出てきませんから、オープンな施設ではないということです。すると、中で働いている人たちも少数精鋭である可能性が高いです。せめてどこの企業か解ればこちらとしても動きやすいのですが」
「喧嘩を売ったらまずい企業かも知れないのか」

その問いに想はしばらうなっていたが、回答が出たのかいつも通りの微笑みを浮かべる。

「ツァルとの連携がある会社だったら……、と思いましたが、その会社がツァルのあずかり知らぬ所でフォルトレスを引き取るのだとしたら、それはそれで調べなくてはいけませんからね。入っちゃいましょう」
「入っちゃいましょうって、大丈夫なのかよ」
跳浦はねうら莉々りりかくまい、社名も施設名も出ない、明らかにオープンではない施設です。警察に通報することもできないはずですから、彼らは自分たちの力で捕まえなければいけない。ゼンさんが捕まるなんてそんなへまをするとは思えませんので。それに、僕が入ろうと言った時、嫌な予感はしましたか?」

俺は短く息を吐いて首を横に振った。

「ではよろしくお願いしますね」

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