ブサメンに三次元美少女たちが話しかけてくるなんてあり得ないでござる!
如月 美月の憂鬱
あたしは如月 美月。高校二年生。
ブサイクでキモオタの生ごみになってしまった幼馴染を、元に戻せないか、あたしはずっと考えている。
中学2年の頃。匠のお父さんが再婚したことを聞いた。そのあとすぐにお父さんは事故で亡くなってしまった。私もお葬式には参列した。
匠は父親が再婚した頃から、ブクブクブクブクと太りだして二次元の美少女だけしか見なくなってしまった。
清潔にはしているし、相変わらずやさしくて、紳士的でカッコ良いのだけれど、見た目がまるでブタ。いやハイオークだ。
義母と義妹とは関係がわるく、お父さんが亡くなったあとに家を出てアパートで暮らしている。完全に家を乗っ取られてしまった状態だ。
お父さんの財産のほとんどは匠が継いだけれど、家や預金は義母と義妹に勝手に使われている状態。
それをいいことに義母と義妹は光圀姓から抜けようとしない。
さらに義妹からはひどい仕打ちを受けたようで、匠は完全に二次元の世界へと旅立ってしまった。
匠とは小さいころから友達だったし、好きだった。それにあんなブサイクになる前は、はっきり言ってカッコ良かった。自慢の幼馴染だったのだ。しかしあのブサイク、キモイ仕草。
事情も分かっているし、元気づけてあげたいと思ってもあのキモさに脳が真っ白になって、気が付けばひっぱたいて唾を吐きかけて、足で踏んでいた。
しかも最近あたしは、こともあろうにそれが気持ちよくなってきている。それも性的な意味でだ。
これは取り返しのつかなくなる前に、なんとかブタを元に戻したい。早く何とかしないと……。
それでもやはりあのキモさに、私の小さな恋心は冷めてしまっていた。
本当は支えなきゃって思っていたけれど、あたしは自分の保身に逃げてしまった。中学生の間は我慢していた。
けれど高校に入って、地元の政治家のイケメン息子に言い寄られて、羽振りのよさから私は受け入れてしまった。誘惑に負けてしまった。
はじめはイケメンも優しかったし、みんなの人気ものだった。けれど、それは本当にうわべだけだった。周囲もおべっかをつかっているだけで、本当は怖かっただけだ。
あたしが付き合ったといううわさが流れたときには、周囲の女子がほっとしていたのだ。
その男は何度もあたしの身体を求めた。
でもあたしはまだそんなことを許すほど、彼を信用していない。ただ”いいな”とおもった程度だ。それなのに顔を合わせる度に抱かせろと言う。
それが嫌で嫌でたまらなくて別れた。
あたしは男女ともに人気があったから、すぐに次の相手を探した。
そう。匠という拭きこぼれた鍋に蓋をして、なかったことにして別の男を探したのだ。われながら最悪だ。
次の男はあっさり見つかった。イケメンで困っている人を助けることで有名な品行方正の生徒会長。みんなに羨ましがられた。
カッコ良くてやさしくて、優秀な彼を手に入れた私は有頂天になっていた。最高のステータスだ。
しかし彼もすぐ身体を求めてきた。それがあの男と被って私は拒否した。なんで男はすぐ性交をしたがるのか。
彼と付き合ってしばらくすると、政治家の息子がつめよってきた。まだ付き合っていたつもりだったようだ。
あたしはちゃんと、断ってさよならしたはずなのに。
彼はあたしを信じてくれるとおもったのに、政治家の息子にびびって、逃げた。あたしを捨てたのだ。
それだけなら良かったけれど、二股をかけていたから捨てたといううわさが彼から流れたのだ。
あたしって男運がないんじゃ……。
そんなあたしには誰も近寄ろうとしなくなった。政治家の息子はついているし、二股をかける。
そんな人物に誰も近寄りたがるわけがない。あたしだって嫌だ。
それでも匠だけは、あたしにひっぱたかれて蹴られて唾を吐きかけられてなじられているのに、いつも通りの様子だ。
それでも今は側に人がいてくれるだけで嬉しい。だれもいないボッチなんて耐えられなかった。
ある日その政治家の息子のグループが匠を呼び出した。
最近、あたしがよく匠と話していたことや、幼馴染であることが癇に障ったそうだ。
そして匠はリンチにあい、重傷を負った。
……あたしのせいだ。
しかもその事件の影響は大きかった。政治家の息子が関わっていたということで、大問題になり、学校どころか市長だけでなく県知事すら出てくる始末。その政治家が重要な立場にいたというのが理由だ。
その他多くのおえらいさんを巻き込んで、事件はもみ消された。
匠が暴力を受けてくれたおかげで、その政治家の息子は怖くなって反省して、あたしに関わらなくなった。
匠が生死のはざまをさまよっているのに、あたしは自分が救われたことを真っ先に喜んでいる。
……最低な女だ。
匠は一週間も起きなかった。もう死んでしまったのかと思うほど心配して、毎日病院に通った。彼の側でずっと泣いていた。ずっと謝った。
「ごめんね……たくみ」
一週間たったある日、あたしは泣き疲れて匠のベッドに寄り掛かって寝てしまっていた。最近ずっと夜に眠れないからだ。
「……たくみ?」
ふと起きてみると、匠がいない。
検査で運ばれただけだとも思った。でも寝ているあたしにタオルケットをかけてくれていた。匠が使っていたやつだ。
おもわずうれしくてタオルケットにくるまって、匂いを嗅いだ。
ああ……匠のにおいだ……
あたしは涙でた。うれしくて、やっと起きてくれたとおもって。でも合わせる顔が無くて。
あたしはそのタオルケットを持ったまま、家へ逃げ帰った。
匠はそのあと1週間で学校に復帰した。
復帰した匠は相変わらずで、安心した。それが日常であるかのように陣内君にサッカーボールキックをくらっているのだ。
「ややや、やめるでござるよ!」
「キモいんだよオタク!」
ドガッ!
「ブヒィ!!」
その光景にあたしはうれしくなって、”ふふっ”とにやけてしまう。
「美月ちゃ――
バチン!
ブヒィイイ!」
あたしも照れ隠しに、下の名前を呼ばれたタイミングでひっぱたいた。
前は脊髄反射のようにひっぱたいて蹴りつけて唾をはきかけていたけれど、今はきっかけがないとできなくなっていた自分に気が付いた。
いつも通りの光景が、いまはすごくうれしい。
でもやっぱりあたしは匠に元に戻ってもらいたいと思った。匠だけが救われないなんて嫌だ。
あたしは……決心する。彼を救うのだ。
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