勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

狙い



魔王城に戻ると、クリスティアーネがいない事に皆が気がつく。
遠征していることを隠すわけにもいかないから、そのまま伝えると察してくれた。




「はじめから言えばいいのに……」
「い、いや……ちがうし」




 ボクはすこし照れ臭くなって語彙力がなくなっていた。
でもそれをあらかじめ言ってしまうとけじめにならない。あくまでもボクの都合で第二回目をやるのだ。




「ふふ……きっと喜ぶわよ」
「ケケケ。はじめてだろうから、きっと面白い事になるのだわ」
「クリスティアーネも長く生きているんでしょ?お友達いなかったの?」
「あの様子で、ネクロフィリアだからいるわけがないのだわ」




 たまに会うシルフィだけが友達だったのだろう。でもこれからはみんなが友達。帰ってきたら彼女が喜ぶ顔がたのしみだ。
 食事を終えて皆は自由に寛いでいる。
 ボクはルシェといっしょにベリアルのところへ行くことにした。






 魔王軍の訓練所。執務室へやってくると、執務をサボってミミくんを愛でているベリアルがいる。




「や、やぁベリアル。相変わらずだね」
「あらアーシュ。ミミくんに聞いているわよぉ?」
「ああぁ面倒かけるけど、頼む」
「もちろん、かまわないわよぉ~」




 そういって機嫌よさそうに、ミミくんを撫でる手を止めない。




「そうだ、ルシファーにもあとで報告予定だったから丁度いいわ」
「なにを?」


「すでに共有している情報で、公演当日の狙いはエルランティーヌ女王という見立てでしょ?」
「うん。あくまで推測」


「また新しい情報があるの?」
「えぇ。帝国の狙いはエルランティーヌの命と――」




「アイリス嬢の身柄」
「……っ!!」




 アイリスを狙うのはどういうことだろう。いま魔力が落ちているアイリスが襲われたらひとたまりもない。
 自衛できないのだから、女王と同等の警護は必要になる。




「おいばばぁ。本当なのだわ?」
「つーん」
「おいばばぁ!」
「つーん」




 ……ばばぁって言われるのが相当嫌らしい。




「ベ、ベリアル……」
「なぁにアーシュ……ちらり」
「……くっ。ベリアル?本当なのだわ?」
「えぇえ本当よ!」




 そのやり取り必要だっただろうか。




「……アーシュの方に情報がなかったからと思って当たったら、メフィストフェレスは帝国にいる可能性がたかくなったわ。そしてアイリスの身柄を欲しがっている」




 帝国にメフィストフェレスがいて、アイリスを欲している。つまり……魔王の研究に必要だということだ。




「……そうか……女王と王宮魔導師については……」
「帝国にある王宮魔導師に関する情報は、大森林で途絶えている。……アーシュが救ったということがまだ知られていないとおもうわ」
「それで命をねらうなら女王ということか」
「ん?」
「女王には悪いが、グランディオル王国の今はその王宮魔導師が要だ。彼女・・がいなくなった時に、また徐々に悪化しを始めていた」
「かのじょぉお?」


 ……しまった。


 以前相談した時に、王宮魔導師が女性であることは言ってなかったか。彼女もまた美しくて優秀な魔導師として知られているから、余計な詮索をされそうだ。




「ふぅ……まぁいいわ。となると帝国はその彼女・・が生きていれば王宮魔導師を最優先にねらうってことね」
「そ、そうだと思う」


「それから教会も動いている可能性がある」
「え?」




 ここにきて教会とは、気にしていなかった勢力がでてきて不意を突かれた。魔王領としては無関係だけれど、王国に勢力を伸ばせばとうぜん出る杭を打って来る。




「アーシュは以前教会のグランディオル支部の大司教と取引をしている」
「……うん」
「その時は危険視されていなかった。でも今は王国を動かすほどの人物になっていると認知されている」
「知り合いってだけなんだけど」
「相手はそう思っていない。だから教会の狙いはアーシュ。あなたよ。それから魔王領への侵食」




「そうか……まぁボクは狙われたところでやられないよ」
「そうね……でも人質を取られないように気を付けるのよ」
「ああ……」




 たしかに……またアイリスと離れ離れにはなりたくない。




「魔女の動きはどうかな?」
「そっちはまだアーシュの情報をもらったばかりだからね。でも推測はできる」
「ベリアルはどう思っているの?」
「……え?」


 ボクは彼らを乗せて、復興をしているが、同時に厄介ごとも多く持ち込んでいる。今回の魔女の件もそうだし、演劇だって大事になってしまった。


「……ベリアルは忙しくなったんじゃない?」
「ええ……でも演劇は魔王領の為になるし、ミミくんもでる。それに魔女や帝国のことだってもう情勢が変わっているから、いずれ起こりうることだと思っているわよ?」
「……そっか、いろいろありがと」
「あれ?これデレ期きている?」
「ははは……」




 いつもうまく避けていたけど、素直にお礼言ったらちゃかされてしまった。話の腰をおってしまったが、魔女については彼女も情報が少ない。




「魔女は表舞台を嫌う。グランディオル戦争に名が残っているのさえ嫌がる」
「たしかにって隣に本人いるでしょ」
「ケケケ。あちは何とも思わないけれど、面倒ごとはふえたのだわ」




「貰った情報の毒魔女は、行動に時間がかかるから公演には関わらないとおもうわ」
「誰が着そうだろう」
「紅蓮の魔女……なのだわ」
「そうか……しつこそうだったもんな」
「ケケケ。性格はアーシュのほうが知っているのだわ」
「まぁプライドが高くて、男嫌いで、免疫もなくて、女の子好き?」




「まごうことなき、変態ね」
「……」




 突っ込まないでおこう。少年を愛するベリアルもそう変わらないのではと言ったら、方々から苦情がきそうだ。彼女はまだミミくんを撫でている。
 たまに気持ちよさそうに、くぅ~んなんて聞こえてくると、ボクも撫でたくなるけど取るわけにもいかない。






 さておき、魔王軍のほうでも魔女についての対抗策は考えてくれると言う。




「もう準備に警備担当した隊は明日には現地に入るわ」
「うん。よろしくね~」




 結局、ボクはアイリスと女王様の警護が担当になった。
現地入りは女王様に合わせる形なので、前日にグランディオル王国の王城へ泊り、現地に直行となる。
















 次の日は劇の通し練習の最終日。あとは本番当日の事前演習のみとなる。
 演劇はみんなのもので、ボクはなにもしていないけれど、立場上見てほしいという。
 衣装も本番の衣装での練習だ。




「アーシュ?あたし……がんばったよ!ちゃんと見ていてね?」
「ああぁミル…… かわいいよ!ちゃんと見ているからね」
「えへへ……うん!」




 マーニィ役が着る可愛らしい衣装だ。
 ミルの肌は透き通るような真っ白だから、当日は浅黒く化粧をするらしい。そこまでこだわっているのだ。








 劇の練習が始まるので、ボク達は静かに見ていることにした。




「お前ぇ!! 悪魔の子なんだろ? くるな!」


ドンッ!


「……ひっ!」


「人間は、よらないで!!」


ドンッ!


「……い、いや――




 以前より、難しい台詞は簡潔に子供でも分かるように。演技は派手になっていた。ここで前にクリスティアーネが怖がっていたが、これだけすごいともっと怖がりそうだと思って苦笑した。




「悪魔の育てた食べ物だ! 渡さない!!」




 ――とシャルロッテ。




「オレたち人間のものだ!ぜったいに奪ってやる!」




 そしてナナも迫真の演技。




「グルォオオ! それはオレたちが くう!!」




 ミミくんは、毛を逆立ててあの顔立ちが獣人らしく牙をむき出しにしていた。
 まるで本物の獣人のようだ。
 いや本物だけど、可愛くない本物の獣人だ。




……すごい。




 あまりの演技に鳥肌が立った。みんなが本気であることがすごく伝わって来た。まだ序盤のシーンなのにボクはぽろぽろと泣いていた。
 彼女たちの頑張りをわかったつもりでまるで分っていなかった。二度目なんておねがいしたらそれは嫌な顔をされるのは当たり前だ。彼女たちには怒る権利がある。
 それなのに、認めてくれて、アミは折衷案まで出してくれた。
 脚本のアミは最初から最後まで付きっ切りで、台詞の細かい修正を行っていたのだ。




「あの……アーシュ? ど、どうしたの?」
「ごめんアミ……。まだボクは甘かったようだ。……こんなにすごいなんて」
「……ふふふ。 でもこれもアーシュがいて魔王領を盛り立てくれたからで来たんだと思うよ」
「……ははは。ボクは何にもしてないよ。アミたちみんなの力だ」
「ありがと、アーシュ。……あたし魔王領にきて、生き甲斐もみつけたし自信も持てた」


「ケケケ……あちも関心したのだわ。こんなに面白くなっているなんて思わなかったのだわ」
「ほんと? やったぁ!!」








 そして緊迫のシーン


「このオロバス!! 一人も殺さずにこの戦争を収めて見せる!! うぉぉぉお!!」


 勧善懲悪じゃない難しいお話にもオロバスがしっかりと活躍している。子供たちでもわかるように、そして考えてもらえるように投げかける台詞だ。
それに本当に戦いさながらの迫力だ。演技といいながら、本当に戦っている。
 他のメンバーは魔法まで駆使して、オロバスは拳のみで戦う。
 不利なほうが一発逆転するストーリーは手に汗握った。


 それでも傷ついて。倒れてしまうオロバス。そこへマーニィが――


「あたしの命を、みんなの為に捧げる……だから……」


 そういうと、彼女が命をとして安らぎの魔法と、恵みのオアシスを授ける。本番では舞台の後ろがわに広がっている広場に魔法で泉を用意しているそうだ。


「マーニィ……おねがいっ!! 帰ってきてマーニィ!! わたしが悪かったわ!!」
「俺もだ!! こんな不毛な争いはやめるぜ!!」


「ここに新しく国を作ろうじゃないか!! いつかきっと悪魔も獣人も人間も手を取り合っていける場所を作って見せる!!」


ここで幕は閉じる。


「はー……か、感動したし面白い!!」
「やったぁ!! みんなアーシュが認めてくれたよ!!」


「やった~~~‼」
「これで成功間違いなし!!」




 うん。これなら人間の国の人達も喜んでくれるはずだ。
もしかしたら賛否両論あるかもしれないが、考えるきっかけになるだけでも、意識改革はできる。魔法の力を使うとしても、要はやはり劇次第だ。















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