勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

アミの妙案





 ボクたちは学園長を訪ねた。


「やぁオロバス。邪魔するよ」
「おぉ!! アシュイン戻ったのか!」




 ミルたちのお迎えついでに、演劇のことを話しておく必要がある。




「うん。魔王代理なのにふらふらしてすまない」
「いや、お前のおかげでみんなやる気になっているんだ。それだけでも十分すぎるぐらいだ」




 メフィストフェレスの情報が無かったことや、劇場を見てきたこと。それから間者の話まで話した。
 初公演当日に何か仕掛けてくる可能性があるから注意喚起する。
 当日はボクも警備に回ることも伝えておく。




「そうか、でも出演者がそもそも悪魔ばかりだから、してやられるってことはないと思うぞ?」
「うん。たぶんね。狙いはエルランティーヌ女王か、参謀の王宮魔導師のどちらか、あるいは両方だと思っている」
「……なるほどなぁ。女王が討たれれば、公演どころか交易の話すらなくなる」
「帝国はこの演劇の動きをさっちして疎ましく思っていると思う」
「はっはっは……それに屈するオロバス様ではないわ!!」




……あつくるしい! でも心強い。




「当日は学園の子供たちも行くんだろ? 必ず守るよ」
「ああ……引率にベルフェゴールも行くからな」




 魔王領として大っぴらに手をだすと、グランディオル帝国とヴェントル帝国の戦争に巻き込まれる。
 そのことを伝えると、難しい顔をしている。




「オロバスの判断で動いて。責任はボクが取る」
「アシュイン……」
「ケケケ。さすがアーシュ!!」
「はっはっは!! 起きないように最善はつくすさ」




 それからクリスティアーネの事は言わずに、ボクの我儘で魔王領内でもう一度再演をしてもらいたい事もお願いする。




「もう一回?」
「ああ、学園で開催できないかな?」
「かなえてやりたいが、それは公私混同じゃないか?」
「……ああ、たしかにボクの我儘だ」




 そう言われることは分かっていた。しかし他の理由をつけてでもやりたい。




「王国へはみんな行けるわけじゃないから、魔王領でも見たい人は沢山いるとおもうんだ」
「……確かにその通りだ。しかし出演者の立場から言わせてもらうと、王国の公演の最初で最後の一回という約束だったから出ている」
「……ああ」
「つまり、その一回に懸けているのだ。全身全霊で。」




 その通りだ……。当初の大義名分があるから、本気で全力で取り組んでいる。そう、『種族の偏見を払しょくする』という大義名分だ。


 出演者に限らず関係者は全員その目標に向かってやっている。むしろ演劇はそのための手段である。


 参加も手伝いもしていないのに、もう一回やってほしいなんて言うボクは最低なクズでしかない。




 でも……。




「たのむ!! それでも、もう一回だけお願いしたい!! 罵ってもらってもいい。 魔王代理を降りろと言えば降りる!!魔王領を出て行ってもいい!! だから……」




 ボクはそう言って、オロバスの前で膝をついてお願いした。


 はっきり言って職権乱用だ。
 ……だから押し通すにはそれなりの覚悟を見せないと。




「なっ⁉ なんでそこまで……。……それに押し通すなら魔力でねじ伏せればいいだろう? 何故そうしない……」
「……それは前の魔王のやり方だろ? そんなことを今したら、魔王領は霧散する。だからボクのやり方で覚悟を見せるまでだ」




 ここで前の魔王のやり方をしたら、人間は離れていくし、やる気のなくなった幹部はまたバラバラになって、魔王領は衰退するだけだ。




「……すごいな……おまえ……アイリス嬢が惚れるわけだ」
「……」




 オロバスはこの覚悟に対して、目を丸くして驚いている。今までは魔力でぶつかってくるやつは沢山いただろうが、気持ちでぶつかるやつなんていなかったのかもしれない。
 でも今できるのはこれだけだ。




「わかった!! お前の想いは受け取った!! 協力してやろう!!」
「暑苦し!! じゃなかった。 本当か⁉」
「ああぁ……!! いま変な事言った気がするが、まあ協力しようじゃないか!!」




 渋っていたオロバスが折れてくれたようだ。
 オロバスが説得してくれると言っていたが、断った。全員の許しを得るのは骨が折れそうだけど、これはボクがやらなきゃいけない。












 それから関係者は演習場に集まって準備をしていたみんなに声をかけた。
 再会を喜んでくれたけれど、やはり二回目の公演については渋い顔をされてしまう。オロバスのように反論はしないが、やはり難色を示している。






バチンッ!!




「アーシュ⁉ わたくしは脇役ですが、それでも真剣にやっています!! それに主役のミルは人一倍頑張っているんですよ?」




 シャルロッテはビンタを打ち付ける。やはり上の立場のボクに反論するのは、勇気のいることだ。涙目になっていた。




「シャルロッテ……あたしは大丈夫だよ」
「……いいえ、言わせてくださいまし! ……あなた、ミルがどんな想いで劇に打ち込んできたと思っているんですの⁉ モデルのマニの事を知ろうと、四六時中ついてまわったり、成りきるのに学校ではずっと真似をした。王国で足を引っ張らないように手術も受けたでしょう?」




 肩を上下させて息を切らしている。それほど彼女の気持ちを逆なでしてしまったようだ。
 それにミルは魔力が低くて悩んでいたけれど、授業について行けなくなっていたからじゃなくて、他国へ行って足手まといになるのが嫌だったということだった。




 ……そんな簡単なことも気がつかないとは、情けない。








 誰しもがこの一回の公演に懸けている。
 このメンバーでやるのも一回だけだし、やるべき目的がはっきりしている。目的も何もないボクの我儘だけの理由でもう一回を頼めば怒るのは当たり前だ。
 オロバスが指摘した通り、やはりみんなのやる気を削いでしまった。




「アーシュ……あたしはいいよ?」
「……ミル……こんな雰囲気じゃ、二回目どころか初公演すらおぼつかないだろう……ごめん。一生懸命やってきているのに、泥を塗るような真似して……」
「あ、あの……あの!」




 重苦しい空気を見かねたのか、アミが振り絞るように声をかける。




「ど、どしたのアミ?」
「うん……あ、あのね。みんな、人間の領に行ってやるから初公演は特別で、それが偏見をなくすことにつながっているからだって。それでその一回に懸けているんだよ。失敗したら次はないからって」
「うん……うん。そうだね」
「その意義がない公演をもう一回なんて、みんなやりたくない……」
「……アミ……」




 いつもははっきりものが言えないアミ。でもこの演劇には強い想いがあって、譲れないものがある。そう強い意思を感じた。




「……だったら意義を作ったらどうかな?」
「え?」
「……そうか……!」




 アミは、もうボクがであったころのアミではなかった。それどころか、かなりのやり手と言わざるを得ない冴えた提案をしてくれた。




「ふふ……もうわかっちゃったんだ」
「ああ、ありがとうアミ!」
「へ?どういうこと?」




 ナナはアミの提案をしていることに気がついてないようだった。いきなりの友達の饒舌ぶりにビックリしてキョロキョロするばかり。




「つまり悪魔領へ人間のお客様を招待するってことさ」
「ええーー⁉」




「でもそれって、人間の人が怖がって来てくれないんじゃない?」
「もちろん希望者だけだよ。でもそのための宣伝を女王にお願いするさ」
「ケケケ。……むちゃぶりするのだわ」
「先日、むちゃぶりされたばかりだからね」
「カッカッカ!! いい!! とても妙案なのだわ、アミ!!」
「ほ、ほんとぉ? みんなどう? やる気出た?」




「うん!! それならやりたい!!」
「わたくしも!! ぜったいやって見せますわ!! だから……アーシュ?準備はしっかりするのですわ!!」


「ああ!! がんばるよ!!」




 すっかりシャルロッテに主導権を握られてしまったけれど、アミのひらめきで、みんなはすっかりやる気を取り戻してくれたようだ。やることは増えてしまったし、またルシェとアイリスには面倒をかけそうだ。


 彼女たちの成長ぶりに、嬉しくもあり、自分の情けなさを感じつつ、本当に感謝した。


 ……そしてまた泣きそうになった。











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