勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

魔力の質





 今日は演劇の練習見るために、学園へとやって来た。
 授業を受けるミルは、ボクたちと別れて教室へ向かう。




「じゃあ後でね!」






 学園長室へと入ると、いつものようにオロバスが出迎えてくれる。




「おう!アシュイン!それに……アイリス!久しぶりだな!」
「ええ……騒がせたわね。もう大丈夫」
「……ほ、本当か……?魔力がすごく落ちているが……」




 さすがにオロバスも一発で気が付く。あれだけあった質の良くて大きい魔力がなくなってしまったのだ。すごく残念そうな顔をしている。




「大丈夫よ……魔力が必要な事はアーシュがやってくれるもの」
「ははは!たしかにな!隠しているが、アイリス以上に底知れぬ魔力をかんじるから、大丈夫だろう」
「ははは……」




 相変わらず暑苦しいオロバス。
 でも学園長をしているだけあって目端が利く。ボクの魔力量に気が付いているのだろう。






「それよりメフィストフェレスが帰らないんだって?」
「ああ……少し心配なのだ……やつは最近は変な動きが目立っていた」
「どんな?」




 嫌な予感がする。




「どこかへ行ったと思ったら、妙な道具をもって帰って来るのだ」
「道具?」
「うむ。魔力を使わずに使える道具なのだ。鍬や鎌みたいな道具ではなく、複雑な仕掛けがある」


「あ、あの……それってこういうやつじゃ……」




 そういうとアミは不思議な箱を出してきた。かるく叩くと美しい光を放ち、見事な絵が絵が映し出される。
 その絵はまさにそこに自然な花がそこにあるようなほど精巧だ。




「おお!それだ!アミちゃんはたしか異世界人だったか?」
「あの、はい……」
「となるとメフィストフェレスが持っていたのも異世界の道具の可能性が高いな……」
「わかった、そのことも当たってみるよ」




 まだ魔王の因子の情報については、出来るだけ最小限に抑えたい。オロバスを変に悩ませて学園や演劇がおろそかになっても困る。




「演劇の様子を見に来たんだけれど、ミルの授業が終わるまではお預けかな?」
「おお、そうだな。今日は午前中で終わりだぞ。午後は自習になっている」
「へーそういう日もあるんだね」
「オレも今は忙しいから、授業を邪魔しないなら勝手に見て回っていいぞ!」


 そう言うオロバスに対して、一瞬だけ間を開けてから、ボクたちはぽつりと言う。




「邪魔は……しないさ」
「しないわよ?」
「ケケケ。……しないのだわ」
「……うへぇ……たた、たのしみぃ」
「あの……」
「邪魔するよ!」




「邪魔をするなよ!」




 ナナだけ空気を読まない。
 申し訳ないけれど、きっと邪魔をしちゃうだろう。












 ボクたちは初等部にお邪魔・・・をしにやって来た。ここはナナの出番じゃないだろうか?




「ナナ……隠匿をお願いしても?」
「いいよ!」




 声がでかい……。
 ばれていないようだから、そのまま教室へ入る事にした。いつか大人数で使う時のための練習にもなるから丁度良い。




「であるから……この魔法は……」




 教師が優しそうな声で、魔法についての授業をしている。
 ミルの様子をうかがうと、なんだかいつもと違って元気がない。
 お城ではまったくそんな様子がなかったのに、授業ではすごく居辛そうにしている。




(ははぁ~ん?)
(理由はわかる?)
(ミルは魔力が低いから、そろそろ授業についていくのが辛くなるころかもしれないのだわ)
(え!?どうしよう!!)
(まったくアーシュは親ばかなのだわ)
(だって……)




 魔力を増やすには、練りこみ、変換をやり込む。
 ミルはすでに限界まで引き出してしまっている。彼女に必要な者は潜在魔力幅。




「……うぇへぇ……」


(ちょっ!)




 授業中でナナの隠匿を使ってるから、喋るとバレてしまう。説明をしたにもかかわらず、いつもの空気が漏れたようなクリスティアーネの笑いが聞こえた。


 それが聞こえた数名の生徒は、ぞわぞわと悪寒を感じて青ざめてしまっている。
 ボクはみんなに合図をして、教室を出ることにした。




「クリスティアーネ?喋ったらばれちゃうよ?」
「……ぐぇひ!……ごごご、ごめんなさい」
「イジメないから、理由を言うのだわ?」
「……ほほ、ほんとぉ?は、白銀とア、アイシュインちゃん……ねね、念話……した?」


「なっ!?なぜそれを……」
「あー……こいつも魔女だということを忘れていたのだわ……」
「……うへへ……ひ、ひどぃ……」
「魔女だと読み取れるの?」
「条件は色々あるけれど、クリスティアーネなら触っていれば読まれるのだわ」
「へーすごいね?」
「……ほ、ほんとぉ?……け、結婚するぅ?」
「ははは……」


「アーシュ?念話で何を話していたの?」




 これにはアイリスも少し不機嫌だ。正直に話さないとすねられてしまう。ミルの潜在魔力幅について話していたことを正直に言った。




「……そう……ミルがちょっと元気がなかったのはそういうこと」
「そうなんだ。なんとかしてあげたいけど」
「肉弾戦がいくら強くても、誘惑みたいな状態異常にかかりやすくて危なっかしいのは確かなのだわ」
「……うぇへへ……で、できるよ?」
「え?ほんと?」
「おまえ、まさか魔臓をいじる気なのだわ?」




 何をするのかシルフィには見当がついているようだ。




「……う、うん……で、でもアイリスちゃんの手術より……あ、安全」
「それで、さっき念話を読んだクリスティアーネは声がでたのか」




 これはもし実現するならミルは喜ぶだろうな。
 クリスティアーネは魔臓を深く研究していたこともあって、専門知識ならばシルフィより詳しい。






 やり方はこうだ。
 ドワーフの里の花で生成できる、人間と悪魔の性行為に使用すると子供授かりやすくする薬。名を『媚交感薬びこうかんやく』という。


 それを使用することで、魔臓へ直接アクセスできるようになる。
 アクセスした魔臓内で魔力の練りと交換を繰り返すことで、潜在魔力幅を増幅させてゆくのだ。


 ただし乱雑に行えば猛烈な吐き気や苦しみ、不快感を伴う。最悪の場合死もありえるので覚悟が必要だ。


 またこの方法が出来るのは魔臓のある悪魔のみ。そして感受性の高い処女に限られる。『媚交感薬』を使うためだ。


 破瓜してしまうので、女性にとっては大きい意味を持ってしまう。
 ミルにはしっかり考えてから受けてほしい。




「あとはミルが決心するかどうかだね」
「あちはやっておいた方が良いと思うのだわ。ここに適任もおるわけなのだわ」
「適任?」
「もちろんアーシュなのだわ。ミルが一番好きな者に破瓜されるなら本望なのだわ?」


 ミルはどういう選択をするだろうか?もし望むならちゃんと向き合って応えてあげたい。








 教室ではまだ授業が行われているから、ボクたちは挨拶だけすることになった。教師は授業中でも子供たちは会いたがっていたからと、わざわざ中断してくれる。




「わ~ミルちゃんのパパだぁ!」
「魔法の先生ちゃんもいるぅ!」
「あのキレイな人だれぇ?ミルちゃんのママ?」




 アイリスがここに来るのは初めてだ。それに小さい子たちは魔王の娘のことを知らない。




「みんな久しぶり!この奇麗なおねえちゃんは前魔王の娘のアイリスだよ!」


「わぁ~魔王様の子供?きれいだね!」
「お姫様?すてきぃ~」
「お、オレ、カインって言います!お奇麗ですね!」




 またカインくんか。前回もミルに猛アタックをしていたとおもったけれど、今度はアイリスに?ちょっとケインを思い出して、将来が心配になる。




「そう、ありがと。授業がんばってね」
「あぅ……う、うつくしい……が、頑張ります!」




 完全に真っ赤なゆでクラーケンだ。アイリスがたしなめるように頭を撫でて微笑むと、カインくんは唖然となっている。




「カインくん。もうミルはいいの?」
「へ?……いやだって……ミルちゃんファザコンすぎて相手にもしてくれないんだ……もう3人も声かけてるんだよ」
「ファ、ファザコン……へぇ……ミルはもてるんだな」
「ちょっと、アーシュ恥ずかしい」




 ミルは女の子たちに囲まれていたが、抜けてこちらにやって来た。以前きたときもいた、引っ込み思案の子も一緒にやってきた。




「やぁミル。それにキミもお久しぶり」
「……こんにちは、あたし……ちゃんと勉強したよ」




 彼女の魔力を見ると、かなり頑張ったのがわかる。
 以前は人間より低い魔力だったのにミルより増えていた。
 以前と同じように彼女の頭を撫でて褒めてあげると、その努力が報われてすこし涙ぐんでいた。




「……いいなぁ。あたしは全然成長できない……」
「ああ……ミル。それについてクリスティアーネが方法を知っているから、聞いておくといいよ」
「え!?ほんと!!」
「……うひひ……か、帰ったら……話すよぉ」
「ありがと!クリスティアーネ!」




 そう言うと、花が咲いたようにいつもの笑顔が戻る。やっぱりこの太陽のような輝きがあってこそのミル。




「……うぇへ……ほめられた……結婚するぅ?」




 なんでだ。










 名残惜しさを残してボクたちは高等部へと向かう。
 マニとシャルロッテとも久し振りだ。帰って来たから、また戦闘訓練にくるのだろうか。






 教室にいくと、高等部も今は座学の授業だった。
 さっきの失敗を踏まえて今度ははじめから教師に断ってから入ることにした。




「みんな、ひさしぶり!」
「あっ!アーシュ!帰って来たならまずわたくしに挨拶にきなさい!」
「……あーしゅ……ひさしぶり」




 今はみんなと対面しているから、二人には手だけ振っておく。
 あの分だと戦闘訓練も再開されそうだ。二人には午後も演劇の話で会うから軽く挨拶程度でいいだろう。




「アイリス様。みんなに挨拶してくれますか?」
「ええ……あたしはアイリス。前魔王の娘よ。知っているとおもうけれど、よろしくね?」




 そういうと高等部の生徒たちは、不満そうな声を上げる。もちろん高等部の生徒は前魔王を知っているし、その娘のアイリスを知っている。
 ただ今のアイリスは魔力が減退してしまっていて、魅力ある質の魔力とはいえ、力主義の時代を知っていた子は不満を上げざるを得ない。




「魔力、すくなくねぇ?」
「わたくしでも倒せますわよ!」
「もう過去の栄光はないぞ!」




 少し心無い言葉が返って来る。ボクのために魔臓改変手術を受けてくれたんだから、ボクがフォローをしてあげたい。




「……魔力量だけを見ているなんて甘いぞ?」
「え?」
「アーシュ、どうことですの?」




 シャルロッテやマニも、ボクの言葉に不思議そうにしている。
 ボクは軽く微笑むと話を続ける。




「彼女の魔力の質をよく見るんだよ。そして感じてみて?」




 そういうと生徒全員と教師に注目浴びるアイリス。すこし恥ずかしそうにしている。




「ほわぁ……すごく奇麗……なんで?」
「う、美しい……」


「なんでこんなに奇麗かわかる?」
「ア、アーシュ……」


「魔王の娘だからじゃない?」
「やっぱり才能?」


「はずれ……。魔力の練度だね。『想いの力』なんていえば情緒的かな」
「はぁ~素敵!どうやればアイリス様のように奇麗に?」
「あたしも知りたい~!」




 ボクがつまらない講釈を垂れると、すっかりアイリスに人が集まって行った。もともとボクが何かする必要もなく、アイリスの魔力は人を引き付ける力を持っている。




「……ははは。魔王代理はやり手ですね」




教師はアイリスの方へとはいかず、近くにいたままだった。彼は教える立場だからか、こちらのつまらない話の方に興味があるようだ。




「実際に何かを想って真剣に魔力を練り込めば、アイリスのようになれるのは確かだからね。学問的根拠はしらないけれど」
「あれだけ奇麗な魔力であれば、誰しもが魅了されるでしょうね」
「ボクもその一人だよ」




 そう言うと、教師は笑みを浮かべる。満足した回答が得られたようだ。
 この子達には、ボクのような魔力だけがバカ高いだけのクズにはなってほしくない。


 アイリスのような美しい悪魔を目指してくれることを願おう。

































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