勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

魔王城のお茶会





 魔王城へ戻ってくるとゲートの魔力を検知したのか、いつものみんなと、使用人、ゴーレムに至るまで、整列して出迎えてくれた。


 やはり本来の城主であるアイリスの帰還を歓迎してくれているのだろう。表情のみえないゴーレムも、少しだけ嬉しそうに見える。




「「おかえりなさ~い!!アイリス!」」


パーンパーン!




 ミル、アミ、ナナ、ルシェが不思議な紙吹雪を飛ばす筒を持っている。最近魔王領で出回っていて、歓迎、お祝いやうれしいときに使うグッズだそうだ。




「面白いね!それ」
「あちもこれはセンスがあると思うのだわ!」
「……ぐひひ……そ、そうかなぁ?」
「なんでおまえが照れるのだわ?」
「あ、あたし……王国の村にいるときに……かか、考えた」




 クリスティアーネは友達を作りたくて、気を引くためにこのアイテムをつくった。しかし呪われるアイテムと勘違いされたという。
 怪しい商人に引き取ってもらったというが、ここまで流通しているのは驚きだ。




「これ貴方がつくったの?すごい!」
「いいね!ね?アミ」
「うぇへへ……ほ、ほんとぉ?」
「うん!あの……あたし達の世界にあった『クラッカー』みたいで楽しい!」




 お城で待っていたみんなはクリスティアーネを受け入れてくれそうでよかった。気持ち悪がられたらフォローしようがなかった。




「ケケケ、さすがはアーシュが集めたハーレム。理解のある者ばかりでよかったのだわ」
「ハーレムって……確かの女性ばかりだけれど」




 そうだ、使用人を除いた主要の住人はボクを除いて女性ばかりだった。一時期ミミという獣人族の少年を預かったぐらいで、男性はほとんど立ち入らない。




「ね、狙ったわけじゃないからね?」
「ふふふ、それよりアーシュ?二人を紹介してよ」
「あ、うんそうだったね」


 アイリスにとって、アミとはすれ違いだった。誘惑にかかった状態だったからちゃんとした認識はない。ナナにいたっては初顔合わせだ。城主にはちゃんと話をしたほうがいい。




「アミ、ナナ。城主のアイリスだよ!ボクの大好きな子だ」
「な!その紹介の仕方は……はずかしいわ」




 コミュニケーションが苦手なボクなりの気の使い方だったのだけれど、アイリスは変な顔で真っ赤になってしまった。こればかりは自分に呆れるしかない。




「わ~奇麗!住まわせてもらってる元召喚勇者のナナだよ!」
「あ……ほんとに奇麗~!あたしも元召喚勇者のアミです」
「アイリスよ。お城がにぎやかになってうれしい。好きに使ってね!召喚勇者って王国の?」




 王国でひどい目にあっていて、ボクが拾ってきたことを説明した。アイリスも王国にいた時期があるから、ある程度は事情がわかるだろう。




「ふふ……異世界の話も聞かせて?」




 アイリスは奇麗であることもそうだけれど、みんなに慕われる魔力の質であると思う。手術で随分魔力が減ったことはすぐにわかるけれど、それでも彼女の質はまったく変わっていない。
 彼女が奇麗だと、褒められるとなんだかボクまで誇らしげになるから不思議だ。






 横で嬉しそうに見ていたルシェに声をかける。
 いつもお世話になりっぱなしだから、めいっぱいご褒美をあげたい。




「ルシェ、ただいま。いろいろとありがとうね」
「アーシュ!おかえり!ううん。でもまってたよぉ!無事アイリスを捕まえられたんだね!」
「捕まえたって……」
「ケケケ。あながち間違いではないのだわ」
「おかえりシルフィ。アーシュは無茶しなかった?」
「まぁ……わかると思うけれど、無茶したのだわ……」
「もー!ダメだって言ったのに!」
「な、なんでシルフィに聞くの」
「だってアーシュは大丈夫としか言わないし」


 ばれている。
 もう魔王領に来てから随分たつから、ルシェにはボクのことを把握されてしまっている。それは親しい証拠だからなんだかむず痒い。












 いつもの部屋に戻ると、お茶をしながらお互いの報告会だ。机にはいろいろと見たことが無いものが並んでいる。




「アミとナナが異世界のおかしを再現してくれたんだ!」
「おお!すごいね!!おいしそー!」
「うん。みんなでたべよ!すごい美味しいよ!」




 食べたことのない甘いお菓子が並んでいる。
 過去の歴史で召喚された勇者が、異世界の食べ物を定期的に広めるため、多少流入している。アイスクリームも異世界の食べ物だ。
 しかしこれは初めてだった。


「こっちはシュークリーム、これがタルト、こっちはパウンドケーキっていうんだよ!」




 ふたりがこの世界に転移されてきてから、あまり時間が経っていないことを考えると、異世界の最新のお菓子なのだろう。
 これが広まれば二人の功績だ。そういう意味で有名になるなら悪くはないと思う。




「ほら、クリスティアーネも食べて?」
「……ぐひ……い、いいのぉ?」
「うん!感想を聞かせてよ!」




 二人は新入りのクリスティアーネに積極的に話をしてくれている。彼女が口下手であるのを、気を使ってくれているようだ。




「……ん……ぁ、甘くておいしいぃ~うひひひ。い、異世界……いってみたいぃ~」
「ケケケ。お前がいったらいじめられるのだわ?」
「あ、あの……あたしもイジメられてたから……あっちはもっとイジメがあるよ?」
「……い、いやぁイジメないでぇ!」
「いや、誰もいじめんのだわ」




 クリスティアーネはイジメという言葉に過剰すぎる。その言葉を聞くと、わちゃわちゃと慌てだして、目を血走らせて泣き出す。
 でもシルフィがなだめると、ぴたっと止まる。
 そんな仲の友達がいるのに、友達がいないなんて嘆いているクリスティアーネが羨ましく思えた。




「……うへへ……こ、ここはイジメる人。い、いない……て、天国……ぐへへ」
「あたしもそう思う……あの……あっちの世界に戻りたくないもん」


 そういってアミとクリスティアーネは抱き合っている。元イジメられっ子同盟ができあがったようだ。
 でもこれからはきっと大丈夫。




「アミとクリスティアーネの変な同盟ができたのだわ……」
「あはは……仲良くなったんだたらいいんじゃない?」




 女性ばかりだからか、完全に別の話で盛り上がっている。こういう席ではボクは立場が弱いな……。




 それから演劇について、どうなっているか尋ねてみた。そろそろ開催日に近づいてきている。




「会場や時間、練習も進んでいるよ!練習は学園でやってるんだ」
「おお~一度、見に行こうか」
「うん!みんなで来て来て!ミルが予想以上の演技派だから!」
「あたし頑張った!ほめて?」
「おー期待しているよ」




 久々に撫でてやると甘えて、ごろごろと猫なで声をだしている。本当にミルの小動物のようなしぐさに、くすりと笑ってしまう。
 ミルは学園に入ってから、楽しい事をたくさん見つけられているようで、生き生きとしている。




「幹部のみんなもうまくやってる?」
「うん。人間との交流もふえたし、食糧問題ももうないといってもいいよ!むしろこれから魔王領は飽食の時代になるかもしれない。アミたちが作ってくれたお菓子のような、しあわせな味がたくさん生まれるよ」
「へ~じゃあアミとナナにはいろいろ作ってもらったらいいかもね」




「あたしらがんばっちゃうよ!」
「あ……えへへ、うれしい!」




 ふたりは細い腕で力こぶを作っている。演劇に限らず創作することに向いているのだろう。




「悪魔族の増員はばかりは数年かかるとして……」




 ルシェは何か思い出したようだ。すこし顔を顰めている。けっこう重要なことを報告し忘れていたようで、少しばつが悪そう。




「……あとね、言い忘れていたんだけどメフィストフェレスが戻ってきてないんだ……」




 メフィストフェレスはたまにふらっと研究室を出て行って、帰ってこなくなる時がある。だから周囲は気にしていなかったようだけれど、今回ばかりは、長い間、戻ってきていないらしい。




 ……そうだ思い出した!
 ずっと高山に入るときから、気になっていたことがある。


 そう『魔力スカウター』だ。


 この魔力スカウターの開発者であるメフィストフェレスがいなくなっている。そしてあの高山の入口にいたおじいさんが、持っていた。




『魔力をはかるきかいのでさぁ。魔王領のある人から譲り受けた逸品なのでさぁ!すごいだろ?』




 ……魔王領のある人。これがメフィストフェレスだとしたら?
 研究者であるから、ドワーフが栽培していた花は気になっているはず。あの花はそれだけ価値のあるものだ。




 そのことをみんなに話すと、お茶会が一転して重苦しい雰囲気になる。重要案件だから仕方ないこととはいえ、悪いことをしてしまった。




「まずいのだわ……その研究者……おそらくクリスティアーネの禁忌箱に目を付けたのだわ」
「……うひぃ……こ、こわいよぉ……」
「もう盗まれちゃったから、クリスティアーネは大丈夫じゃない?」
「……ほほ、ほんとぉ?」




 クリスティアーネの研究に目をつけていたのだろうか。どこからその情報が漏れたのかも気になる。




「つまり、アイリスの魔王の因子とクリスティアーネの研究途中の資料を持ち出して逃亡している恐れがあるってこと?」
「そうなるね……」




 メフィストフェレスとはあまり話したことが無い。まったくないわけではないけれど、深い交流がない。


 魔王代理なのにルシェに任せきりで、幹部のことを疎かにしてしまったということだ。アイリスの不在を預かっていたのにふがいないな。




「メフィストフェレスとは、ボクはあまり話をしていないけれど、どんな人物?」
「根っからの研究者よ?研究以外は目もくれない」
「それって政が得意な人物に目をつけられたら、利用されちゃうんじゃ」
「……ええ」




 つまり彼をただ疑うのは、早計過ぎると言える。




「エルランティーヌ女王にも協力を仰いでみる」
「まだ利用されている可能性もあるから、疑ってかからないようにね」


「わかったよアイリス、アーシュ。捜索と疑惑に関しては任せて!何かわかるまでは演劇や領内のことを優先してね」
「ああルシェ。いつもありがと」
「……えへへ~」




 こうして撫でてもらいたくて、ルシェはがんばっている……気がする。




「じゃあ明日は学園にいって、演劇だね!」
「「おー!」」


 ミルがそう音頭を取ってくれる。
 彼女の声はみんなを元気にしてくれるから、こういうときにはありがたい。
 演劇をみるだけじゃなく、未来の魔王領を守る新人たちの様子もきになるから、丁度良い。


 みんなが拳をあげて、お茶会の空気も暖かいものへともどった。




 その様子を眺めて、ボクは幸せと焦燥感を感じる。その混ざった感情に、なんとも言えない靄が心にこびりついた。





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