勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

ミルとマニ





「レディーファイィイイイ!!!……なのだわ!!」




<ミル> VS <マニ>




 ミルの攻撃は基本的に肉弾戦。それも爪を主力武器としたものだ。彼女の爪はとにかく堅くて鋭いし、折れてもすぐに生える。
 ボクもちゃんと防御しておかないとざっくりやられる可能性があるほどの切れ味だ。やりすぎないようにしっかり見守る。


 対するマニは魔法と剣の併用。
 魔法剣士というような様相だ。魔法の属性を付与して戦うもよし、攻撃の合間に魔法を打ち込むのもありだ。魔法剣士はその多彩な攻撃手段で、どんな種類の相手にも対応できるのが強みだ。
 ミルが肉弾戦だから、その土俵にのらなければマニはかなり有利といえる。ただ単純な肉弾戦なら、すでに幹部クラスの強さを身に着けているミルに通用するかはまた別だ。








 まずはミルが先に動いて、爪で切り裂く攻撃を仕掛ける。




シュッ!!


キンッ!!!




「……あぅ」
「そんなんじゃ、すぐ倒れちゃうよ?」




 ミルは挑発するようにマニをけしかけている。でもマニは動きが鈍い。何かやり難そうにしている。




「シルフィは何かわかってるの?」
「さぁ?話を聞いたわけではないから、わからないのだわ?」




 いや、その顔は、ほとんどはわかってるんでしょ。でもわざと言わない。シルフィはこういう時には、必ず本人を尊重してくれるからだ。
 そう思っていると、シャルロッテが学園の様子を教えてくれる。




「わたくしが見た限り、学校でも対戦するとこういう感じですの……」
「ミルとなにか接点あったの?高等部と、初等部でしょ」
「合同訓練の時に少々……」
「なにが?」




 マニはシャルロッテ以外の学園の子を攻撃できないのだと言う。それが肌の色の偏見と相まって、また再度イジメられだしてしまった。


 そんな中での合同訓練。
 血気盛んな初等部の子にも、物怖じして攻撃しないマニにいら立ちを覚えた子と衝突してしまったそうだ。
 それを見ていたミルは、マニがボクがイチ押ししていた子であることを聞いて、彼女の矯正をしようと考えたらしい。




「たしかにシャルロッテにはちゃんと攻撃するのだから、矯正はできないね」
「ええ……自分が役に立てないというのは何とも苛立たしいですわね!」




 ミルの爪の攻撃の鋭さは、やはり幹部並みの力があると言っても過言ではないような動きだ。対してマニは攻撃しようとしても、途中で指の力を抜いてしまっている。
 そして攻撃中に俯いてしまうのだ。
 これは相手に対して失礼になる。いや侮辱されたと思われても仕方がないだろうな。小さい子でも馬鹿にされたと思うだろう。




シュッ!!シャッ!!


キンッ!!!ガンッ!!!




「……うぅ」
「ほら、がんばってよ!!」




 何度攻撃しても、覇気がない返し。ミルがわざと隙を与えて攻撃をさせても、へろへろと弱弱しい剣だ。相手している方が、いら立ちで疲弊してしまいそうだ。






シュッ!キンッ!!!ガンッ!!!






ガキンッ!!






 何度か打ち合った後、ボクたちから離れた場所で、鍔迫り合いでぶつかっている。そのとき、ミルが何かを言っていることに気が付いた。
 だいぶ距離があるので内容までは聞き取れない。
 しかし、急にマニの気配がかわった!




 次の瞬間――




「……あぁぁあぁあ!!あた……あたし……だって!!」
「……ふふ……やっとやる気になったね!」




ギャン!!ガキンン!!ジャッ!キイイン!!




「……アイスバイン!!」
「はっ!!すごいねそれ!!」




ガン!ギン!ザシュ!ガツッ!!!ザシュ!




「……アイシクルレイン」
「え?」




シュキン!ズガガガガガガガガッガッガガガ!!!




「きゃ!!!っ!!!むり!!」


ギン!ザシュ!ガツッ!ガン!ザシュ!


「えええ!?追撃?」
「……アシクルレイン・ダブ……ル」
「あ、あれ?」






 マニの動きが急に鈍くなり、その場で停止した。






「そこまでだ」




 ボクが間にはいって、勝負を終わらせる。マニは限界だったようで、ボクのほうへもたれかかって来た。変な興奮をしすぎて、魔力がオーバーフローを起こしたようだ。彼女はしばらく寝かせたほうがいいだろう。




「マニちゃんは、どうなったの?」
「魔力が暴走しちゃったみたいだ」
「そっか……ごめんね……あおりすぎた」




 ミルが何て言ってけしかけたのかはわからない。でもなんにせよマニがミルを本気で攻撃をした時点で目的は達成できている。


「大丈夫。ミル。ありがとう。マニに手を差し伸べてくれて」
「ううん。アーシュのお気に入りだからじゃないの。演劇を始めてから特に思うようになったんだ。マニちゃんみたいな子がいたら絶対に助けたいって」
「そうか……」


「んふふ~アーシュすき~」




 ボクはそう言ってミルを撫でて、褒めてあげた。ミルの心はボクよりはるかに高く成長している。いい方向に。このまま育ってほしいと願って賞賛した。


「ちなみに、さっきマニになって言ったの?」
「んふふ……な~いしょ!」




 ミルが人差し指を唇に当てて、可愛らしく微笑んでいる。ミルは心の成長が著しいけれど、女性としての成長も著しいのだとこの時実感した。
 ミルがこんなに可愛らしく成長してくれたら、きっと学園では人気者だろう。すこし父親ポジションとしては複雑な気持ちだ。
 今日は何度もミルにドキッとさせられて、女性として意識せざるを得なかった。




「じゃ、じゃあマニを医務室で寝かせてくるね」
「「はーい」」




「じゃああたしとやろ?シャロレーゼ?」
「シャルロッテですわ!!!ふん!みてなさいよ!!」




 むしろ間違えられた方が、可愛い名前のようなきもする。それを言ったらまた煩そうだ。シャルロッテとミルの勝負も見てみたいけれど、いまはマニの介抱が先だ。
 シルフィが見ているとおもいきや、ボクの方に着いてきた。よく考えたらシルフィはもうずっと離れないな。








 医務室でマニを寝かせてやる。しばらくは起きそうにないから、部屋を暖めて湿度を保って過ごしやすくしておく。
 しばらくすると医務の使用人がやって来た。ゴーレムと一緒に準備しているようだ。一通り診たところ異常はなく魔力暴走だけだった。
 そのうちマニが目を開ける。まだ少し怠そうだ。




「……アーシュ?あり……あと」
「よかった。大丈夫?」
「……あたし……平気……もうちゃんとできる!」




 マニはそう言うと横になったまま、ぐっと拳を握って真上に突き上げた。
 オーバーフローして霧散したからいまは魔力が枯渇状態だ。すごく弱弱しいくて顔色も悪いのに、目を見ると自信に満ち溢れているのがわかる。彼女の中で大きな手ごたえを感じているようだ。


 ハーフのマニには、これからも障害が多いと思う。でもボクやミルもいるし仲間はみんな助けてくれるはずだ。




 ボクは彼女の拳にボクの拳を合わせて、また一歩勇気をだした彼女を讃えた。











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