勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

ナナの能力





 王都に着くと、いくつかの門でその都度止められた。騎士団と同行しているのに検問される。
 いささかボクもイライラしてきている。




「おい騎士団長。すぐ女王にあわせるのだわ。次検問するなら帰るのだわ」
「え!?それは困ります!なにとぞ!なにとぞぉ!!」
「ええ~い!やかましい!!!あちは『白銀の精――あばばばばば」




(あぶなっ!何回やるの!)
(あ、ごめんなのだわ)




「でもシルフィじゃなくても怒りたくなる回数ですね」
「すみません……厳戒態勢中なのです」
「じゃあ今日はもう諦めよう。ボクかシルフィが切れてしまうのも時間の問題だ」
「……宿をとるの?」
「ああ、少し頭をひやそう」
「あちもそうしてほしいのだわ」




 こうして、ボクたちは王都の宿屋に一泊することになった。騎士団長は騎士宿舎へ戻るそうだ。明日の朝に迎えに来る。
 お金は問題無いから一番いい広い宿に泊まることにした。王都の宿は上から下まで、ほんとうにピンキリだ。
 豪華な部屋に入ると、大きなベッドと奇麗な景色が見える窓。備え付けの令室には、お酒や飲み物も常備されている。




「わ~すごい!」
「おお!これはいいものなのだわ!」




 二人ともとてもはしゃいでいる。置かれているものはすべてが高級品で、至れり尽くせりだ。ベルを鳴らせば執事のような人が来て、食事などの注文やお使いまで頼める。




「ねね。これ、飲んでいいの?」
「あちも飲むのだわ!」




 高級のワイン?アルコールが入ってるけど、二人とも強いのだろうか?シルフィは大丈夫だろう。ナナははっきりいってダメだと思う。




「わ~甘くておいしい!」
「いい酸っぱいのが混ざっていて、これはいいのだわ!」
「ボクにもくれる?」
「……はい!どうぞ!」




トクトクトク……




 ナナがワインを注いでくれた。作法何て知らないけど上手だ。すごくにっこりして嬉しそうだ。注いでもらったボクのほうが嬉しいとおもうのだけれど。




「あ!それあちもやりたいのだわ!」
「じゃあ次を頼むよ!」




トクトクトク……


トクトクトク……


トクトクトク……




「もおうりられろ~」
「そういわずにもう一杯どうぞ!」
「あちの酒がのめないっていうのだわ?」
「これいろ~はうりらあら~」




 すごく気分がよくなって、目が回っている。どうやらボクは二人に旨く乗せられて泥酔してしまったようだ。もういらないと言ってもついでは飲まされついでは飲まされている。




「あーしゅ?」
「あーしゅぅ?」




す―……すー……


(これは……)


「ナナもたくさん飲むのだわ!ささ、どうぞどうぞ」


トクトクトク……


トクトクトク……


トクトクトク……


「ん~お~あんおくへふ~~」


とさっ


す―……すー……


「ナナちゃん?ねたのだわ?」


す―……すー……




(ケケケちゃ~んすなのだわ)
























 次の日。
 シルフィが妙にニコニコつやつやしているのが気になった。
 騎士団にイライラさせられていたから、機嫌が直ってよかった。




 ロビーへ降りていくと、既に騎士団の人間が待っていた。騎士団長は所要で留守にしているそうだ。何か緊急の案件があったのかもしれない。
 お使いに来た騎士の言伝は、本日の謁見は取りやめにしてほしいということだった。




(やっぱり何かあったのかもしれないね)
(うむ……でも何もしないで待ってるのはつまらないのだわ)




 お使いの騎士には了解したことを伝えて帰ってもらった。その騎士の後をつけて、少し探りを入れてみることにした。


 ボク達は先ほどのお使いにきた騎士の後を付けた。師団隊長への報告を盗み聞きしてみる。




「英雄殿への言伝は完了しました!」
「英雄殿はなんと?」
「了解したとだけ」
「そうか……まさかこんな時に王宮魔導師殿が、帝国に拉致されるとは……」
「ですが、王宮魔導師殿がかなわない相手では、我々ではどうにもできないのでは?」
「だが何もしないわけにはいくまい。相手が帝国だから、女王様の手腕がとわれるだろうな。我々は愚直に従うまでだ!」
「はっ!」




 王宮魔導師は王国の中でもエリートに与えられる役職。そして王族へ仕えて、時には指導もする。その重要人物が拉致されたから、ボク達の謁見が流れたということだ。




(関わる必要性があると思う?)
(うーむ、あまりないのだわ。でも手ぶらで帰るのはシャクなのだわ)
(面白がってない?)
(ケケケ。人の不幸は蜜の味なのだわ)
(……)
(おい、念話で引くなよ)




 シルフィの暇つぶしのネタとして救うことにした。動機が不純でボクはやる気がないのだけれど、たまにはこういうのも悪くないだろう。
 それに手ぶらで帰るのはボクだっていやだ。せっかくナナまで連れてきたし、交易のカードや、あわよくばアイリスの情報や、捜索の伝手も期待している。




 さらに情報が必要だ。拉致の犯人や、交渉などの動きを知りたい。ボクが悩んでいると、ナナが唐突に自分の能力で出来るかもしれないと提案してくれた。




「つかえるかわからないけれど、『隠匿』というのを持ってる。これって使える?使ったことないけど」
「キーッ!それを早く言うのだわ!使えれば、ナナは今まで苦労しなかったはずなのだわ!」




 シルフィは『隠匿』もちのナナ驚いて、金切り声を上げている。シルフィはそのスキルについてよく知っているようだ。




「だって使い方なんて誰も教えてくれなかったもん!あたしたちはマニュアルがないと何にもできないの!」
「”まにゅある?”それが何なのかしらないけど、使い方はあちがしっているのだわ」
「ほんと!?教えて教えて!!」




 戦うスキルを持っていないナナは、召喚勇者パーティーでは役立たず扱いだったそうだ。シルフィの説明を聞くと、忍び込むのに最適なスキルだ。それに柔軟性にも優れている。




「ナナ、すごいじゃないか!」
「え?……ええ?……あたしがすごい?」
「うむ。ただ強くなるだけが能じゃないのだわ。やはり王国は見る目がないのだわ」
「……うれしい。そんなことを言われたのは、初めて……」
「自信をもって!ナナの能力を頼りにしているよ!」




 ボクがそう言って頭をぽんぽんしてやると、うれしかったようで、涙をこぼしている。いままで劣等感にもかなり悩まされていたのだろう。




 『隠匿』スキルの使い方を確認して、安全を確認したうえで一人で隠密行動をお願いした。複数人を隠すこともできるすごいスキルだけれど、その場合は移動速度もおちるからだ。
 ボクたちはナナとは別行動で城の周辺や、裏の情報を調べることにした。








 そして半日ほどして、ナナと落ち合い宿屋にもどった。




「ただいま~情報手に入ったよ!」




 成果があったようだし、自分の能力が役に立っている実感がでたのだろう。元気に満ちあふれている良い笑顔だった。




 宿屋で手に入った情報を整理する。




 最近の王国の動きのほとんどは、その王宮魔導師と女王の二人で生み出された施策だ。
 少し前の王国は、本当に危機に瀕していた。だがその二人が組んで、いろいろと変わった。召喚勇者も積極的に使っているという。




 一方帝国側は、王国が沈みかけたタイミングで内部に入り込もうとした。しかしその王宮魔導師の手腕で立て直していく様子をみて、拉致に切り替えたようだ。




 拉致というのは王国側の意見だから、もしかしたら勧誘されたという可能性も否定できない。むしろ役職ではない人間はそう思っている。




 帝国が王宮魔導師の奪取が目的なら、すでに達成していると言える。交渉の余地はない。でも交渉のテーブルを用意した。




 求めているのは『福音の勇者』。




 おそらくこれが本命ではないか。王宮魔導師だけでも帝国側にとっては十分な利益だ。福音の勇者が仮に手に入らなくとも帝国に損はない。


 王国側も帝国の傲慢な振る舞いには、黙っていないだろう。ヘタをすると人間同士の戦争が起きる。




 ボクはどうするべきだろうか?





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