貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

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第58話お礼

「はい、お待たせ致しました」

ローズは芋煮を温めて器によそうとおじいさんの前に置いて笑顔で促す。

「熱いから気をつけて下さいね」

おじいさんは笑って頷くとスプーンを受け取り芋煮に手を伸ばす。

カイルはじっとおじいさんを見つめていると…

「どうしたの?」

ジェシカさんがカイルの様子に気がつき話しかけてきた。

「いえ…なんかあのご老人どこかで見た事がある気が…」

カイルが思い出そうとしていると

「懐かしい味だ…」

おじいさんはホッと息をはくともう一口芋を食べる。

「これはお前さんが作ったのかい?」

おじいさんが食べている姿を嬉しそうに見つめていたローズに話しかける。

「えっ?あっ!はい私の領土で…タウンゼントでよく食べられている料理です。懐かしい…って事はおじいさんも?」

「そうか…お前さんはタウンゼントの生まれか…」

おじいさんはローズの問いには答えずに

「いや…美味いものを食わしてもらった…これは無理を言ったお礼だ」

おじいさんがお金が入った袋を渡すと

「おじいさん良かったら余った芋煮に持っていきますか?」

ローズが聞くとおじいさんは嬉しそうに頷いた。

「じゃあお邪魔した…」

おじいさんがお土産の芋煮を嬉しそうに抱え帰ろうとすると

「危ないですからお送りしましょう」

カイルが声をかける。

「いや…それには及ばない近くで迎えが待っていてくれてるのでな」

おじいさんはお礼を言うと店を出ていった…

「大丈夫ですかね?」

ローズはおじいさんが見えなくなるまで心配そうに見ていた。

「近くに人の気配がする…きっと迎えの者だろう。大丈夫だ」

カイルの言葉を信じてローズは店に戻ると

「ロ、ローズちゃん!大変!」

ジェシカさんが慌てておじいさんが置いてった袋を抱えてローズの元に来ると袋の中身を見せる。

「これみて!凄い金額よ!」

袋の中にはお金がぎっしりと詰まっていた。

「こ、こんなに…」

ローズも驚くと、ハッと気が付き急いで外に出ておじいさんを追いかける。

「ローズ!」

カイルが後を追うとローズは道の真ん中で呆然と立ち尽くしていた…

「ローズ!いきなり飛び出して行ったら危ないじゃないか!」

カイルが怒りながらローズを見ると

「すみません…おじいさんに返そうと…あんなに貰えませんから…」

しかしおじいさんが消えていった方を見るがもう何処にも人影は無かった。

「もう帰ってしまったよ。きっとそれだけの価値があの人にはあったんだ…感謝して貰えばいい」

カイルが宿に戻ろうとローズを連れて帰る。

白馬亭ではジェシカさんが心配そうに外で待っていた。

「ローズちゃん!いきなり出て行くから心配したよ」

「ジェシカさんすみません…おじいさんを追いかけたけど見つけられませんでした」

「あの人はわかっててこの金額を置いてったんだと思うよ。有難く貰っておきな」

ジェシカさんははいっとローズにお金の袋を渡した。


その頃老人はローズから貰った芋煮の器が入った袋を大事そうに抱えながら馬車に乗っていた。

「お持ち致しましょうか?」

老人に仕えている男が器を受け取ろうとすると…

「いやいい…持っていたいんだ」

嬉しそうに微笑む。

「こんな変装してまで食べたかったという物なんですかそれは?」

老人はニヤッと笑うと髭に触る…すると付けていた髭を取った。

「変装しておいてよかったよ、知った顔があったからな」

頭から被っていたフードを取るとそこには老人とはいえない男の顔があった。

「さぁ…お忍びはここまでです。帰りますよフリード様…」

男は頷くと王宮の方へと馬車を走らせた…。

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