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勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~

草薙 刃

第78話 覚悟完了


 そうして、俺たちは不意打ちを喰らいながらも、『勇者』たちにそれなりの屈辱を与えて森の中まで逃げ込むことに成功した。
 まぁ、そこで無理がたたって力尽きかけたわけだが。

 とにかく、傷を何とかしなくてはまともな行動さえままならない。
 ベアトリクスにはもう銃を使っても構わないとして見張りを頼み、俺は少しだけ休息をとることにした。
 思いのほか神経をすり減らしていたのか、いつの間にか眠りに落ちていた。

「ん……」

 そして、1時間ほど眠った頃だろうか。
 俺の様子を見に来ていたベアトリクスの気配で目が覚めた。
 こういう時は、軍隊時代に受けた鬼のような訓練にも感謝せざるを得ない。

「あ……。目が覚めたの……?」

「あぁ、少し……眠っていたみたいだ」

「無理しないで。もっと休んでいないと……」

「ダメだ。どこか落ち着いて休める場所を探さないと。体力を回復させるにもここじゃ追い付かれる可能性が高い。この傷、あまりにも治りが悪すぎる……」

 1時間かそこらで劇的な変化はないだろうが、念のため傷を確認してみると、やはりまだ回復魔法の効果は発生していなかった。
 ただ、傷口に小さな動きがみられることから、魔法自体は発動しているが、なにかがそれを阻害しているらしい。

 おおよその予想はつく。

 この感じ、ほぼ間違いなく『勇者』の『神剣』で受けた傷によって、《《肉体の再生に使おうとしている魔力を喰われている》》。
 詳しい原理はわからないが、『神剣』を構成している物質は、この世界の生物にとってある種の『毒』なのだろう。
 それはおそらく、俺の放った攻撃魔法が打ち消されたことからも読み取れるが、魔力で身体を強化していたりすればするほど逆効果となるのではないか。
 俺は幸いにして転生先がヒト族であるため、魔力を使っているのは生命維持活動の補助程度である。
 だからだろう、刃物で受けた傷のダメージしか負っていない。

 まぁ、魔法で傷を治そうとするのを阻害されているっぽいので、本来軽傷で済ませられる傷が、受けた通りのダメージのままになってしまっているわけだが。
 どちらかというと、多少なら斬られても治せば済むと思っていただけに、そっちの方が問題ではある。

「そうね……。いくら国境近くとはいっても、人の目がある以上、わたしの実家には駆け込めないし……」

 ベアトリクスの言う通り、エンツェンスベルガー公爵家に逃げ込んでは関与していると自ら暴露しているようなものだ。

「べつにちゃんとした場所である必要はないから」

「この近くにあるのは、たしか――――森を抜けた所にある鉱山くらいよ? でも、この辺りのは街道に近いから、結構前に掘りつくされて放棄されていたはず…………」

 廃鉱か……。

 一晩くらい身を隠すには悪くない場所かもしれない。
 追手の動向を探るにも、一晩は大人しくして様子を見るなりするべきだろう。
 それにこの手負いの状態ではたとえ銃など使っても、ベアトリクスを連れて夜の森を突破するだけの自信はない。

 ……ん?

 ――――“狩人に追われたなら、山へ逃げなさい”。

 そこではたと思い出す。
 この状況、聖堂教会本部で会った少女に神託とやらで予言された通りではないかと。

 しかし、全くもってその意図がわからない。
 あのクソ野郎が『勇者』であるならば、その行動指針は推測だが創造神の管理下にあるはずだ。
 その手合いの者が俺を排除しようとしてきたのなら、ほぼイコールで創造神が俺を切り捨てた、もしくは庇護下に置くつもりはないということに繋がる。

 だが、そんな抹殺対象とも言える相手に、神託という形でヒントのような情報を寄越すだろうか?
 まぁ、アイツの性格を考えれば、そういうゲームのようなことをしたがっても不思議ではないが、遊ぶにはあまりにもリスキー過ぎるだろう。
 万が一、俺を1回で仕留めきれずに逃がした場合、特殊能力のことを考えればヤケになった俺が、保有魔力量ギリギリで召喚できる大量破壊兵器を使用しかねないことくらいは、さすがのヤツも理解していることだろう。

 いや、待てよ? よくよく考えると、俺はそもそもの段階で思い違いをしている可能性すらある。

 あくまでも仮説だが、神託の巫女と呼ばれた少女――――フラヴィアーナは、おそらく聖堂教会にとっては神託の巫女として認定されていても、厳密には創造神の巫女ではないのでは?
 そうでなければ、いくら個人宛とはいえ、創造神からの神託を非公式の場で俺だけに伝えるとは考えにくい。
 それ以前に、教会の秘蔵っ子とも言える巫女をあんな風に外部の人間と接触できる場所で自由に出歩かせたりはしないだろう。

「どうしたのクリス?」

「いや、負傷している俺でもその鉱山跡なら行けるかと思ってな。あまり的中して欲しくはないが、追手を歓迎してやらなきゃいけなくなりそうだからな」

 このまま考えてもラチがあかない。賭けてみるか。

 今回の場合にまで当てはまるかはわからないが、サダマサを送り込んできたのはこの世界の裏側で暗躍している勢力とは別の存在であるようだし。

 それに、あれだけ挑発したのだ。少なからず追手は差し向けられることだろう。
 時間を稼ぐためにも、今の俺たちは廃坑方面へ逃げ込むしかない。

「歓迎って……」

「もしも連中が追いかけて来るのなら、その時は俺の持てる力の全力で迎え打つ。でなければ、生き残れない」

 アレだけ上等カマしてくれたんだ、《《それくらいの覚悟》》はしているはずだ。
 たとえヤツが、人類の切り札である『勇者』であったとしても、俺の敵に回るなら――――ベアトリクスを守るために然るべき対処をしなくてはならない。


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