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勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~

草薙 刃

第75話 『勇者』がクズでした。~前編~


 たしかに、遡って考えれば幾つか妙な点があると思ってはいた。

 既に依頼の上で同道している冒険者がいるにもかかわらず、私的な護衛という名目で新たなメンバーを加えるなんて、はっきり言って横紙破りみたいなものだ。
 俺たちの能力に不安なりの問題があるなら致し方ないとも思えるが、少なくとも往路では問題なくケストリッツァー大司教を護衛してきたわけである。
 言い過ぎかもしれないが、あのじいさんからの信頼をそれなりに得ることができたと言っても過言ではないだろう。

 だが、ビットブルガー大司教のやり方は、ここにきてそれらを否定するようなものだった。
 まぁ、ここまで愚痴を重ねたが、どうせ俺たちは派閥争いのとばっちりを受けているのだろう。
 不愉快ではあるが、そういうものだと理解していれば必要以上に腹が立つこともない。

 前世日本の旧軍であった「陸軍としては海軍の意見に反対である」と似たようなもので、面子と予算の問題で損がなければ別だが対抗勢力の意見にはとにかく反対しないと死んでしまうかわいそうな病気なのだ。

 しかし、ここで俺はひとつ失念していることがあった。
 自分が納得したからといって、同じ立場の人間が必ずしも納得しているわけではないということを……。





               ◆◆◆





「往路で冒険者の護衛が増えるとは、契約時には一切聞いておりませんでしたが」

 案の定、それなりの地位の人間が持ってしまう、舐めた真似をされることへの耐性。
 それが俺よりも備わっていないベアトリクスが不快感を露わにした。

 一応さー、身分隠しているんだからさー、もう少し自重して欲しいんだけどなぁ……。

「……ふむ、私は臆病者でね。僧兵のみならず、自分の持ち駒まで配置しないと安心できないのだよ。往路で問題なく護衛してきた君たちの能力を疑っているわけではないのだが……。気に障ったのなら、後日正式に帝国の冒険者ギルドを通して謝罪しても良いが?」

 要するに、「お前らみたいな得体の知れないヤツらじゃアテにならん。気ィ悪くしたんなら帝国のために形だけ謝ってやらんでもないぞ。でも、もうちっと空気読めよな」ということらしい。
 うん、クソムカつく。

 正直、この聖職者のくせに、貴公子然とした態度を隠そうともしないもいけ好かない。
 もう少し僧籍らしく謙虚さを勉強しろと言いたくなる。

 亜麻色の髪をした眉目秀麗の青年と言えば聞こえはいいが、まぁ俺からすれば優男って言ってやりたくなる風貌だ。
 クソ野郎と形容しなかった点は褒めてもらってもいいだろう。

 しかし、だからといって、家柄だけでのし上がってきた七光りという体でもない。
 荒事の気配は腕力を使わないところで重ねてきたのだろう。油断ならない知性の光を、翡翠色の瞳に宿していた。

 《《はっきり言って臭すぎる》》。
 こんなヤツが、特に国家間でのゴタゴタもない時期に、帝国へ前任者の通常任期を繰り上げてまで派遣されるのだ。裏がないわけがない。

「いえいえ、不要です。ちょっと予想外の事態に戸惑っていただけですので。大司教様護衛の大任に相棒も神経質になっていたのかもしれません」

 慌てたような素振りを見せて俺がフォローに入る。

 とりあえずは、小市民っぽさでも見せておくか。
 俺だって言いたいことは色々あるが、とりあえずこの言葉を引き出せた時点で充分だろう。

 ベアトリクスだけは依然として納得しかねるといった表情であったが、俺たちは今はただの平民冒険者なのだ。
 貴族じゃあるまいし、面子に拘泥するような素振りは必要以上に見せるべきではない。

 それに、まだこの新任の大司教の目的がはっきりしていない中で、こちらがどんな小さなことであっても情報を見せてしまうような真似は危険すぎる。

 だから、近くで例の日本人と思われる少年が、こちらを見て嘲笑としか思えない笑みを浮かべている……ように見えたのもきっと錯覚だ。

 そうに違いない。……うん、クソムカつく。



 なんて負のオーラを放出したのが悪かったのだろうか。



 いや、実際には事件が起きたのは、帝国国境の目と鼻の先――――ちょうどいい具合に周囲を森に囲まれたエリアに至った瞬間であった。
 街道とはいえ周囲には人の気配もなく、自分が襲撃する側であればおそらくここを選択すると思う。
 はっきり自分のミスを認めるなら、やっと帝国領土に戻って来られたという気の緩みがあったのは否めない。

 獲物を狩る獣は殺気を一瞬にして膨れさせ、瞬く間に狩りを終えるという。
 それと同じかどうかは定かではないが、その獣人の少女がやってのけた不意討ちは実際見事と言うしかなかった。

 正直、サダマサからの鍛錬を受けていなければ、まともに反応できなかった可能性すらある。
 しかし、反応できたとはいえ、それはあくまでも攻撃を察知できただけ。防御や回避が成功したことには繋がらない。

 なにしろ、狙われたのは俺ではなくベアトリクスだった。
 自分の身体ならどうにかなったかもしれないが、なかなかどうして他人を庇うというのは上手くはいかない。
 腰のサーベルを抜いているヒマもなく、俺にはベアトリクスを突き飛ばすくらいしかできることがなかったのだ。

「ぐっ……!」

 ダガーの進行ルートに合わせて掲げた左腕に熱い感触が走る。
 それが異物――――刃物が侵入した来た感覚だと気付くのに、しばらく時間を必要とした。

 いや、正確にはそうであると気付かないように、無理矢理意識を逸らしたに過ぎない。
 せっかく魔法があるのだから痛覚でも遮断できればいいのだが、そんな都合の良い機能はオプションでも存在しないらしい。
 押し寄せる激痛で毛穴から吹き出してくる脂汗を全力でスルーしながら、カウンター狙いで抜いたサーベルを振るおうとするも、既に相手は間合いから撤退していた。

 ちっ、残っていたら血液と内臓を抜く画期的なダイエットさせてやったんだが。イイ勘してやがる。
 だが、日本刀を持っていれば、鞘走りの加速を乗せた抜刀でケリはついていたように思う。つくづく運がない。

「クリス!」

「お前はさがってろ、ビーチェ!」

 半ば怒鳴りつけるように、駆け寄ろうとするベアトリクスに指示を出す。

 いつの間に――――というよりも、予め示し合わせていたのだろう。
 獣人の少女の奇襲を合図としていたのか、俺たちは僧兵たちに囲まれていた。

 ここでベアトリクスが動けば、獣人の少女と少年に任せて静観を決め込んでいる僧兵どもが出張ってくる。
 それではベアトリクスの身をいたずらに危険へと晒すことになる。
 それに、負傷していても、土壇場での対処能力は俺の方が高い。

 余計なことを言うと決めてかかっているわけではないが、急な展開に混乱しているベアトリクスにはこれ以上喋らせない方がいいだろう。
 俺よりもベアトリクスの素性が割れる方がマズいのだ。
 侯爵家の身内であれば、最悪の場合は切り捨ててしまえば言い逃れなりはできるだろうが、それが帝室と縁戚関係にある公爵家ともなればほぼ国の意思であると捉えられかねない。
 それは帝国の立場をかなりマズいところまで追い込むことになる。
 運頼みにも近いが、俺の態度を見て相手が勘違いしてくれることを祈るしかない。

「へぇ……。イリアの奇襲から仲間を庇ったのに軽傷で済むなんて幸運だね」

 血の滲む左腕を抑えながら、傷口周辺の血だけを体外に排出するように流し、高位回復魔法と造血魔法を発動させている俺に視線を向け、面白そうに笑みを浮かべている少年の表情が凄まじく癇に障る。

 腕に穴が開くのが幸運だと? ……コイツ絶対ぶっ殺す。

「相棒への急所狙いの攻撃を、黙って見過ごすわけないだろうが、アホかお前は」 

 悠然と佇む少年と、未だ臨戦態勢のままこちらを睨みつけているイリアと呼ばれた獣人の少女に警戒しながら、俺は憎まれ口を叩きつつサーベルを油断なく構える。
 クソ、この状況で刀を使えないのは痛いな。

「でも、そんなのでケガしていたら世話ないだろう? まぁ、帝国に取り入って甘い汁を啜ろうとする手の者だ。早々に死んでもらうからどうでもいいんだけれど」

 なんだかワケのわからないことを言って、腰に佩いていた剣を抜き放つ少年。
 盛大に勘違いしてくれているみたいでこちらとしてはラッキーだ。

 鞘から抜き放たれた剣は、全体的なシルエットだけで見れば、冒険者の恋人とも言えるロングソードばりの長い刀身を持つ両手剣。

 だが、一見した範囲では到底実戦向きには思えなかった。
 はっきり言おう。装飾過多である。

 刀身の過剰なまでの輝きは蛇足にすら感じられるし、鍔部分は金色で羽を広げた鳥のような形に加工されており、その真ん中に真っ赤な宝玉らしきモノが嵌め込まれている。
 国が保有する儀典用というならわかるが、とても実戦を想定しているようには思えない。

 しかしながら、もしそうであるならば、この少年の顔に浮かぶ自信はどこからくるのであろうか。
 底なしのバカか、或いは――――。

「大層な口上を並べて、派手な剣を持っている割には名乗りも上げられないってか。育ちが知れるな」

「ロクな文明を持たない世界の人間、それも冒険者みたいな社会の底辺風情に言われると屈辱でしかないね。……いいだろう、名乗ってやる。僕は名前はシンヤ・カザマ。神によってこの世界に遣わされた――――」

 随分と芝居がかったような愉快な発言をしつつも、その途中で唐突に踏み込んでくる少年――――シンヤ。
 コイツも不意討ち派かよ、クソが! しかも、早ぇッ!

「『勇者』だっ!」

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