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勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~

草薙 刃

第66話 ファンタジー殺伐社会


「あー、しんどー」

「うん、わたしも疲れたわ……。クリスの言葉遣いを注意する気力もないくらい」

 帝都にある冒険者ギルド本部の建物を出た俺たちは、大きく息を吐き出す。
 俺もベアトリクスも心身ともに疲れ切っていた。

 そう、あれからえらく時間を使わされることになった。

 想定内のことだったとはいえ、帝都のお膝元にあった古いダンジョンを踏破した報せは、瞬く間に冒険者ギルド内を駆け巡った。
 誰がやっても騒ぎとはなったのだろうが、それを成し遂げたのが大穴扱いの『迷宮騎士』と判明したため、当然のことのように上へ下への大騒ぎに発展する。

 冒険者ギルドは、帝国という人類有数の国家の中にあっても、腕っぷしを持ちながらも社会的権力を持っていない連中の受け皿として、封建社会の中に存在しながらかなりの独立性を確保している。
 さすがに、そこは帝国側も利害が一致しているため黙認しているのだ。

 だから、俺やベアトリクスが大身貴族の身内であろうがそこは関係なく表向きは同じく扱われる。
 その結果、今回の一件に関する事情を説明するため……というよりもさっさと隔離して火消をしたかったのだろう。

 人目をはばかるようにギルド本部に移動させられた俺たちは、ギルドマスターとかいう凶相の元冒険者への面談をほぼ強制され、事細かにダンジョンの中に何があったとか守護者はどんなヤツだとか説明することで、ようやく事態をそれなりに収拾することができたのだ。

 もちろん、公爵家と侯爵家の人間相手に居丈高な振舞いをするようなアホはおらず、それなりに配慮しているという姿勢は感じられたが、窮屈な思いをすることに変わりはなかった。

「結局、タダ働きとは言わねぇけど、思ったほどの成果が得られなかったなぁ」

 自分の足元ながら疲労感からか足取りも芳しくない。そんなことを思っていたら、やり場のない気持ちを処理するかのようにボヤきが口から勝手に漏れ出る。

 おそらく、今回の件については他に目撃者もいないため、踏破の部分以外は緘口令が敷かれることになるだろう。
 人の口に戸は立てられぬとも言うように、完全になかったことにしてしまうのは、要らんところからの反発も考えるとあまりもリスキーなため、功績自体はちゃんと帝国の上層部に報告されるが、俺たちは堂々と『古き迷宮踏破』のステータスを名乗ることはできなくなる。
 とはいえ、それも考えてみれば納得のできる話ではあった。

「……釈然とはしないけれど、冒険者の領分を必要以上に侵されたくないのでしょうね」

 ベアトリクスの言うように、結局のところはこの世界における階級制度が抱える問題ゆえの政治的判断なのだ。
 俺たちにその気がなくとも、『迷宮騎士』が高難易度と目されるダンジョンを踏破したとなれば、それなりの波紋を広げることになる。
 ただでさえ、出自という正気を疑うような特権意識に染まった厄介な連中の多い『迷宮騎士』が、それを追い風として更なる特例措置を求めないとも限らない。

 それは腕っぷし一本で生きているにも等しい平民サイドからすればたまったものではない。
 彼らからすれば、これ以上冒険者の領域において貴族に余計な発言力を与えてメシの種を奪われたくないのだ。

 前世の地球はイギリスのように、21世紀になっても階級制度が残されていながら、それぞれが自分の階級に誇りを持ち他の階級への野心を持たない社会……というには、残念ながらこの世界はまだまだ未成熟と言えた。

「帝国側もそこは譲歩するとの確信があったからこその対応だろうよ。いや、案外既に了承を得ていたんじゃないか? 途中、不自然な待ち時間があっただろう? 宮廷に問い合わせくらいはしてそうだ」

「抜け目ないわね」

「そうでなきゃ、いくら煩いと言っても、まるっきりのアホだけじゃない貴族を相手にしてこうも独立性は保てないだろうよ」

 そうしたゴタゴタへの口止めと、成し遂げた功績への理解を求める意味合いもあるのだろう。
 ダンジョンで倒した魔物から回収した各種魔石と、最深部にあった魔石『ダンジョンコア』の代金としては、かなり多い、それこそ破格の報酬がこっそりと手渡されており、そればかりか俺たちは、それまでの7級冒険者から4級冒険者へ3階級特進することとなった。

「それにしても3階級特進か。貴族ってことを抜きにしても、もしかして俺たちは連中に買われているのかな?」

 胸元に光るドックタグを思わせる銀色のネックレスを指先で弾きながら、俺はベアトリクスに言葉を投げると、彼女も思うところがあったのか苦笑を浮かべる。

「案外、使い減りしないと思って、目をつけられているのかもしれないわ。侮られてはいないかもしれないけれど、貴族にしては聞き分けがいいくらいには思われてそうね」

「そういや大人の対応すると損するんだよなぁ、この世界」

「冒険者ランクにしても、帝国執政府側へのリップサービスもあるんでしょう。冒険者のランクは、爵位とは違って気前よく与えて困るものではないもの。今回の昇級に至っては、実質銀板2枚みたいなものだから」

「なるほど。冒険者としてのリターンもあるんだろうが、あくまで名誉的な意味合いの方が強いからな。普通の冒険者なら喜んで飛びつくんだろう。そう考えると、安く見られているようでちょっと釈然としないものがあるな」

 改めて説明すると、冒険者という職業は非常に漠然としたもので、迷宮に潜ることを専門とする者以外にも、商隊の護衛など様々な依頼を請け負う『何でも屋』的な側面がある。
 依頼によってはある程度の力量が必要になったりするので、各冒険者がどの程度の実力を持ち、またどのようなジャンルの仕事を得意とするかで分類したランク制度が採り入れられており、これは同時に冒険者のモチベーション維持も兼ねているらしい。
 10級の『新入り』から始まり、功績を積んでいくことで最大で1級の『英雄』まで昇級できるが、3級以降は人間を超える能力が求められるらしい。
 サダマサとか本気出せば1級いけるんじゃねぇだろうか。

 そして、胸元などへ身に付ける簡易識別用のプレートも、青銅(10~8級)<銅(7~5級)<銀(4級)<金(3級)<ミスリル(2級)<オリハルコン(1級)と見ただけで識別が可能なようになっている。
 あくまでも銅ランクまでは総合力での分類なので、仮に戦闘力がからきしであっても、失せもの探しで並ぶ者がいないため5~6級に列せられている冒険者も存在する。
 まぁ、『強靭な外見』というわかりやすい評価要素には恵まれていないこともあってか、あまり名声を得ることはできないみたいだが。

 ともかく、そういった複雑な事情もあるため、ギルドは意外と下手を打って損をこうむらないようにしている。
 外部から出された依頼を自分から受ける場合にはギルドで本当に大丈夫かランクとは別に審査されるし、特殊な内容の依頼にはギルド指定依頼という冒険者をギルドで選定した上で依頼する二重のチェック方式がとられているのだ。

 因みに、フィールドでの魔物の間引きやダンジョン攻略なんかは、ギルドでは到底管理しきれない部分があるので、できるヤツができる範囲で魔石を持ってくるなりダンジョンを踏破するなりしてくれるのを待つスタイルのフリー依頼とされている。
 生き残れるかわからんような下っ端は、まずは自分で何とかしろという扱いである。

 そういった背景から、大体の駆け出し冒険者は、フィールドの魔物駆除&ダンジョン上層攻略などで功績を積んで8級くらいまで上がり、そこから各方面にバラけていくイメージだ。
 優秀なヤツとそうでないヤツをふるいにかけるという目的もありそうだが、さすがは人権もクソも存在しない世界である。

「でも、これでギルド指定依頼なんかもくるのではなくて? クリスの欲しいものではないの?」

「国家資格もないに等しい世界での数少ない世界共通に近い身分証明書だからな。でも、指定依頼に関してはやらされるって言った方が良さそうだな。こうしてあとをつけるくらいだ。向こうも勝手に審査したつもりでいるんだろうよ」

 貴族とはいえガキが相手と、どうにも舐められているような気分になり、少しだけ不快感を露にした溜息を吐くことになった。

 近くに《《潜んでいた気配から》》漏れていた緊張感が一瞬だけ跳ね上がるのを承知の上で。

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