勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~
第59話 ダンジョンに青春を求めたトコロ
ダンジョンなどと呼ばれてはいるが、それは依然として謎に包まれた存在であった。
と言っても、完全に解明されていないからそう呼ばれているだけで、わかっている範囲で簡単に説明すれば、『魔素の濃い地域にできた吹き溜まり』といったところだ。
魔素というのは、この世界のどこにでも存在するといわれる物質だが、世界に生きる殆どの生物の生命力を決定づける要素ともなっており、それが魔物の場合には補助的な役割を通り越して身体の主要構成物質となる。
そのため、ダンジョンの中には濃密な魔素由来の魔物や亜人(フィールドよりも強力だが厳密な意味での肉体を持たない知性は低い)が現れる危険な場所でもあるのだ。
もっとも、ダンジョンは地下へ地下へと広がる性質を持つため、そこから魔物が出てくることは滅多にない。
しかし、魔素自体は中の魔物が討伐されないままだと行き場をなくし、ダンジョンの外のフィールドへ少なからず漏れ出すこともあるため、付近の魔物が強大化したりする。
そうなってくると、流石に付近に被害をもたらす要因となるので、ダンジョンには定期的に『冒険者』と呼ばれる、控えめに言えば何でも屋、歯に衣着せぬ言い方をすればアウトローのような中でも探索家の性質が強い連中が潜って魔物を討伐する。
俺やベアトリクスはそれに登録をしているのだ。
貴族の子弟が何でそんな危険なことをと思われるかもしれないが、所詮俺は候爵家の次男坊で、諸々の異世界知識を使った諸々の功績も実家――――親父のものであって、俺個人にはついていない。
また、後ろ盾となる権力についても、成人するまではエンツェンスベルガー公爵家に入れない関係者止まりなので、将来的なことを考えると何かと『箔』を付けておく必要があるのだ。
そんな理由では余計に奇異の眼で見られそうなものだが、実は貴族でも似たような境遇の連中は決して少なくはないらしい。
同じようにダンジョンにもぐって探索を副業にしている人間は、貴族の子弟の中にもそれなりにいたりはするのだ。
とは言っても、大半の貴族冒険者は小遣いと実績稼ぎが主な目的だ。
真面目にやるヤツほど実家の爵位は高くなかったり、家が傾きかけているケースがほとんど。
まぁ、何かと入用になる帝都での生活の足しにしたいという切実なものなのだろう。
そういう視点で見れば、ベアトリクスも本来なら公爵家令嬢が冒険者なんかやらなくて良いのだが、先に述べたような理由で俺が『冒険者』をやると言ったら、何か手伝えることは……と迷うこともなく登録しやがったのだ。
個人的には無理をさせるようであまり気は進まなかった。
だが、彼女には竜峰で家臣を失った経験に忸怩たるものがあるらしく、かなりの勢いで頼み込まれてしまった。
これに加えて、父親であり未来の義父でもあるエンツェンスベルガー公爵からの援護射撃もあれば、俺の立場的にも無下になどできるわけもない。
まぁ、彼女自身もそれなりの社会的地位を持つだけに、要らぬ恨みを買うこともある。
常に一緒にいられるわけでもないため、身を守れるだけの腕っ節があって困るものではないと判断し、この2年半で俺とサダマサで鍛えることになった。
はじめのうちは貴族の手習いに終わるかと思ったが、元からその手の才能があったのか、今ではそれなりのモノを修めていたりする。
そうして、晴れて冒険者に登録した俺たち。
前世での知識・経験がある俺たちとは違って、貴族社会で生まれ育ったベアトリクスにとっては、これまでの常識では考えられない冒険者の世界に日々驚くことになったのはまた別の話だ。
「無理に撃たなくていいぞ。後方の警戒と俺の撃ち漏らしだけ殺ってくれたらな。あぁ、できるだけ弾は温存しておいてくれ」
後ろを任せたベアトリクスに簡単な指示を出す。
さて、今回潜るのは帝都近くで管理されている駆け出し冒険者向けのダンジョンだ。
駆け出し向けとはいいつつも、それはあくまでも上層のみの話で、下層ともなればベテラン向けに早変わりする。
魔物を生み出すダンジョンも、各種魔石など魔素の高密度結晶といった見返りがあると初級でも潰されることはない。
もっとも、潰されずに済むのも帝都近くのような冒険者の数も多く適切な管理下にあれば、という条件付きにはなる。
そして、さらに言えばこのダンジョンについては《《潰すことができないのだった》》。
帝都付近に初心者向けの管理ダンジョンは意外と多く、わざわざ初心者とベテランが混在するようなものを残しておく理由はない。
にもかかわらず、未だにココが潰されていないのは、一つのダンジョンで奥へと進むにつれて難易度が異なるだけでなく、最下層に相当な強敵が潜んでいるからである。
「ザコ相手に時間は取りたくないんだがなぁ」
迷宮由来のゴブリンの群れが現れるが所詮はザコ。侯爵領で西方開拓を密かに進めているゴブリンさんたちとは違う能無しどもに、まともな接近戦などやっていられない。
HK416アサルトライフルの5.56×45mm NATO弾で早々に魔素に戻ってもらう。
尚、地下迷宮で銃をぶっぱなすと、反響で耳がとんでもないことになるので、全ての銃にあらかじめ抑音器を取り付けている。
銃口を延伸するように取り付ける分、必然的に取り回しも悪くなるが、そんなものは通常の冒険者のロングソードや俺が腰に佩いている刀の方が、よっぽど前方に対して距離をとっているため許容範囲内だ。
亜音速弾は使用していないので、圧縮空気が抜けるようなやや鋭い音が連続して鳴り響き、遠距離から一方的に魔物たちを殺していく。
まぁ、厳密に言えばダンジョンの魔物は生物ではないので、機能を停止させているとでも言うべきなのかもしれないが。
「いつものことではあるけれど、こんなに楽しちゃって良いのかしら?」
サプレッサーにレーザーサイト、更には排莢受けを取り付けた個人防衛火器 FN P-90を構えたベアトリクスが、魔石だけを残して消滅していくゴブリンたちを見ながら呟く。
ダンジョンの攻略するためにサダマサから剣術やら格闘術も叩き込まれているのに、今のところそれらを一切使っていないのだからそう思われても仕方ない。
だが、負わなくていいリスクならできるだけ回避するべきだ。
相手が剣を持っているなら剣で、素手なら素手で相手しなければいけないものだろうか?
バカな話だ。可能なら戦車で踏み潰す。
それゆえに、こうして火縄銃ではなく、俺が『お取り寄せ』ができる現代火器を渡してあるし、そのための訓練も相当に積んでもらっているのだ。
「強敵まで体力を温存できるんだ、良いことづくめだろ?」
討伐の証明にもなる魔石を拾いながら、俺はベアトリクスに返す。
ベアトリクスが釈然としていないのはよくわかるが、深く考えるのは貴族の職業病みたいなものなので適当に流しておくのが吉だ。
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