勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~
第16話 干渉のはじまり~前編~
それから少しの後、俺たちは侯爵家から少し離れた山近くの草原へと来ていた。
馬を使うほどの距離でもないと判断したため徒歩である。
実際のところは、俺がまだ馬術の手ほどきも受けていない上に、前世でも乗馬経験がないために遠慮したためでもあるが。
「それで、何を見せてくれるのですか?」
どうにも気になる様子のブリュンヒルトに急かされたので、俺はもったいぶることなく用意していた背嚢からVz-61スコーピオン短機関銃を取り出した。
あの後、一度部屋に戻り背嚢を召喚し、その中に昨日使用した武器類を入れておいたのだ。
「これは『銃』という私の世界に存在する武器の一種です。現段階では弓矢を大幅に進化させたものだと思っていただければ結構です」
「そんなものが弓矢の代わりになるのか? それにしては随分小さいし、矢も見当たらないようだが」
ヘルムントの疑問はもっともだ。
見た目だけであれば子ども用のおもちゃの弓矢よりもコンパクトにまとまっている。
まぁ、くどくどと説明するよりも後は見た方が早いと、念のために抜き取っておいた弾倉を装填し、コッキングして初弾を薬室に送り込む。
今回は距離もあるため精度が要求される。
そのため、昨日は取り外しておいた折り畳みの銃床を取り付けると、弾倉をフォアグリップ代わりに握り、しっかりと構えた上で照準を合わせる。
狙いは、ヘルムントに頼んで用意した、地面に刺した棒に引っ掛けたボロ布同然の服。
人に見立てているのだ。
距離は30メートルほど。
まずはセミオートに合わせ、息を吐き出しながら引き金を絞る。
「!!」
破裂音にも似た音が響き渡り、驚いた2人が身をすくめ、すぐに反射的に身構えた。
剣を持って来ていないヘルムントはともかく、ブリュンヒルトに至っては腰の剣に手が伸びており、咳払いと共に元の姿勢に戻るのが見えた。驚いてしまったのが恥ずかしかったのだろう。
バレバレの誤魔化しではあったが、ここは見なかったことにするのが礼儀というものだ。
「このように引き金を引くと鉛の物体が飛び出します。細かい原理はまた後日にしますが、わかりやすく言えば爆発の魔力があらかじめ込められているといった認識で今は構いません。そして、発射と同時にその反動を使い、再び発射するために次の弾を発射可能状態にしています。この仕組みを利用し断続的な射撃と、1回1回止めたりしない絶え間ない射撃が可能です」
ちゃんと1発1発がボロ服に命中していることを確認しながら、俺は次へ移る。
再び構えると、今度は親指でセレクターをフルオートに合わせ、さっき以上に強めに保持して構え引き金を絞る。
今度の狙いはやや下から発射の反動を利用して、舐めるように弾を撃ち込む射撃術だ。オスヴィンの足を破壊する際に使った手法でもある。
パララララララ、と非常に短いスパンで連続したため重なって聞こえる発砲音。
今度は大きな音がすることを知った上で身構えていたためか、先ほどのように動揺で姿勢を崩すほどのものでもない。
だが、その表情は先ほどのものよりもずっと驚愕と緊張に満ちている。
貴族として戦いに出たこともある2人は、『銃器』が世界にもたらす破壊力と戦術における有用性が理解できたためだ。
「このような使い方ができます」
「凄まじいな……」
「兄上、そんな言葉では済まされません。革新的と言っていいものですよ。私のような単体の特殊な戦力ではなく、普通の兵士ひとり当たりの攻撃力を大幅に上げることができます。これでは戦争の形が変わってしまいます」
驚きのあまり口数が少なくなっているヘルムントとは対照的に、戦いに接する機会の多いブリュンヒルトは銃の持つ威力を正確に理解したのか、興奮した面持ちで口数も多くなっている。
いくら教会の人間とはいえ、軍人ともいうべき騎士ならわかると思っての実演だが、予想以上の食いつきであった。
「弓と同じように遠距離攻撃が可能となりますが、必要とする習熟度と一定時間内の火力が弓矢とは反対方向に段違いです」
「狙いの正確性は言うまでもなさそうですね」
「ええ、この世界の単位でいうなら50ヤルドくらいは簡単且つ正確に狙えます。まぁ、これでも威力と精度の低いモノを使用しているのですがね」
「それはどうして?」
これでも大したことがない? という何度目になるかわからない驚きを言外に含んだブリュンヒルトの言葉に、俺はそこには敢(あ)えて触れないようにしながら返答をする。
「私の肉体年齢が6歳であるため、これ以上の性能を持った銃の反動を受け止められないからです。反動が強ければ2発目の弾の狙いがズレて命中しなくなりますので。おふたり──つまり成人であれば、私の使った銃よりもずっと高威力のものを使ってもきちんとした成果を得られるでしょうね。300ヤルドくらいは射程に収めることでしょう」
「「…………」」
もはや言葉すら返ってくることはなく、どうやらふたりの処理能力は限界を超えてしまったらしい。
結局、その後で俺は、以前夢の世界で創造神に話した内容と同じ説明をふたりにすることになった。
見せた銃は俺が持つ固有能力で出せるものの、軍に行き渡らせることは到底不可能であることと、整備がこの世界の技術的に無理であることを言い含めないといけなかった。
一度は俺の現実を突きつけるような言葉に落胆の色合いを見せたふたりであったが、俺が火縄銃を取り出し実演し、これなら作れるのではないかと構造を教えるとすぐに元気になった。
まぁ、この世界で魔法すら凌駕しかねない戦いの手法に触れることができたのだ。無理もないことである。
とりあえず、俺は火縄銃を渡して、これと同じものを作れる者を擁して侯爵領軍の新組織として工廠を作るべきだと進言した。
硝石などの課題はあるが、領内の山からそれらしきものが取れるという情報は得ている。
こうして、俺がどのような存在であるかを打ち明ける場は無事に幕を下ろしたのだった。
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