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勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~

草薙 刃

第2話 “神”との出会い

「アナタハー、カミヲー、シンジマスカー?」

「……はぁ?」

 いきなり記憶にない声で胡散臭いことを言われ、俺は意識を覚醒させられた。
 目を開けると視界はしばらくの間にじんでいたが、やがて焦点が合ったのかぼんやりとした視界は少しずつ明確になっていく。

 まともになった視力で見回してみるが、辺りには何も存在しない。
 どうも真っ白でだだっ広い空間にいるらしい。距離間隔がおかしくなりそうだ。

 ふわりふわりと時折揺れる視界により、自分が〝どこか〟に漂っていると理解する。それと同時に、この不思議な感覚に学生時代の水泳の授業を思い出す。

 あぁ、そうかと得心に至る。プールに浮かんでいるように感じられるのだ。
 一瞬、夢かと思ったが、それもおかしな話である。

 そう、よっぽどの幸運が重なっていなければ俺は死んだはずで、今さら夢など見られるわけもない。

 たしかに、21世紀も四半分が過ぎて医療技術の急激な進歩により、ちょっとした四肢の欠損であっても然るべき処置をすれば治療可能なSFじみた時代にはなった。
 だが、残念ながらそれには飛んできた砲弾の破片で挽き肉にされた腹部を治せるような万能さはない。
 いや、そもそも治療を受ける暇があるどころかいつ心停止するかわからない、文字通りの致命傷だったのだ。

 であれば、これは死後の世界か。
 あるいは死ぬ寸前の、走馬灯のごとき胡蝶の夢と同じ非現実的なものであろうか。

 何しろ意識を失う前に千切れかかっていた下半身の喪失感もなく、五体満足な状態での感覚が残っている。
 まぁ、どちらでもいい。どうせこの後本格的におっぬのだ。

「アナタはー、神をー、信じてますかー?」

 俺の返しを聞こえなかったものと判断したのか、ソイツは再び同じセリフを少しカタコトから滑らかなものへ変えて投げてきた。

「お生憎様だが、信じてるのは愛と勇気──じゃなくて火力と味方だけだ。それで、誰だアンタは」

 重力を無視して漂う俺の対面には、金髪碧眼きんぱつへきがんの美男子……というほどではないが、そこそこ整った顔をした男が同じくふわふわと浮かんでいる。
 年齢はぱっと見たら30~40歳にも見えるし、それ以上にも以下にも見えなくはない。

 男の容貌は、東洋人ではあり得ないほど鼻筋もすっと細く整い、顔の彫りも強く感じ過ぎない程度には深めで、比較的人の好さそうな顔をしている。
 外見どおりで中身を勘案しなければ――――だが。

 いや、なんていうか直感的に胡散臭く感じてしまうのだ。
 無意味に意識へと印象付けられることも含めて違和感の塊だ。

「……驚かないんだね。さすがは神様とか信じない人間が多い国の出身だ」

 なにやらそれっぽく言ってはいるものの、開口一発目の、おそらく本人にとっては温めるに温めた渾身のギャグであっただろうネタを華麗にスルーしたせいか、少しばかりつまらなそうな顔をしている。
 その仕草が、外見に反して妙に子どもっぽくも感じられたのはなぜだろうか。

 ちなみに、『神様』とか不穏当な単語が聞こえた気がするが、そこは無視するに限る。
 見た目が白人の男とネイティヴ同士かと思うくらい言葉が通じているのも同じく無視だ。

「夢か現実か知らんが、とりあえず人の話くらい聞いてくれないか」

 こちらをよそに、勝手に納得して持論を展開している金髪男に抗議を出すと、なぜか今度はケラケラと笑い出した。

「いやいや、すまない。そんなに雑談をする時間があるわけでもないんだった。先に言っておけばこれは夢じゃない。君にとっては、どっちがいいのかわからないけれど」

 いったい何を言っているんだコイツは。別に好んで死にたがるヤツはいないだろう。

 なぜだか自分の生み出した幻想と断定するには少しイラッとしたので、目下は夢じゃないことにしておく。

「名乗るのが遅れたが、僕の名前は『創造神』」

「そうぞう、しん?」

 騒々そうぞうしいの間違いじゃないのか。

「と言っても、君のいた世界の神じゃない。君たちが住む地球――――太陽系は現在ひとつの『世界』と区分されていて、僕は別の『世界』を管理している存在なんだ。まぁ、同じ宇宙のどっかとでも思ってくれたらいいよ。時々『世界』間で人間の遣り取りがされているしね。ほら、たまに不自然な状況下で人がいなくなるって聞いたことがあるだろう?」

 こっちの反応などお構いなしに喋りまくっている『創造神』だったが、俺はその告げられた内容へのショックで、まるで考えが追い付いていなかった。
『神』という上位存在が実在するのにも驚いたが、それ以上に驚いたのは『世界』を跨ぐ人間の移動があることだった。おそらく、たまにニュースなどで話題になる行方不明者のことを言っているのだろう。
 たしかに、日本だけでも年間で何万人も出ると聞く。
 ほとんどはどっかで野垂れ死んだり世捨て人となるのだろうが、その中で何人かは他の『世界』に飛ばされているとでもいうのか。

「となると、俺もその幾重不明者と同じように何処かの『世界』へ送り込まれるのか?」

「うん、理解が速くて助かる。君らの水準で言えば、文明は中世レベルで魔法のある世界だね。エルフとかドワーフもそうだけど、ドラゴンとかもいるよ」

 おいおい、マジかよ。

「それでここからが本題。僕の世界には、対をなす神がいてね。『破壊神』と呼ばれているんだ」

「まさかとは思うが、ソイツを倒してこいでも言うんじゃないだろうな。言っておくがこっちはただの特別国家公務員だぞ?」

 俺のセリフに金髪男──もとい創造神と名乗ったヤツは、一瞬「ただの?」と目を点にしやがった。なんかムカつく反応だ。
 まぁ、その『神』相手にタメ口をやめない俺もどうかと思うが、あまりに胡散臭くて敬語を使う気になれないのだ。普段クソ厳しい階級社会にいる反動……ではないと思う。

「いやー、それは無理。僕同様、精神体だから普通には滅ぼせない。ていうか、二柱ちゅうで世界が維持されてるから片方でも滅んだら世界がヤバいし」

 近所のおばちゃんみたいな感じで笑って答える創造神。ノリが軽過ぎる。やはり胡散臭い。

「じゃあ、俺にいったい何をしろと?」

「んー、ざっくり言うと、世界を動かして欲しい。実は今、破壊神の勢力が伸びていてね。きっと『魔王』が好き勝手し始めようとしてるからだね」

 おいおい、この男とうとう『魔王』とか言い始めたぞ。

 あ、待てよ? 隊内で布教してるヤツから借りたラノベとかで読んだことあるわ、コレ。たしか『異世界召喚』ってヤツだ。

 ということは、この後俺は飛ばされた先でNOという選択肢がないのに、国家権力を盾に「魔王倒して来てくれ」とかあくまでもお願い風に脅されるのか。
 やべぇな、オラァなんだかワクワクしてきたぞ!

「ただ、君の肉体は既に滅んでいる。肉体を元通り修復して異世界に送りこむことはできない」

 そこからも創造神は長々と続けたが、他の『世界』に移動させるには、『世界』に対して即座に影響を与えないようにしなくてはいけないらしい。

 例えば、先進国大統領などの重要人物が忽然と消えてしまった場合、世界は本来起こり得る以外の原因で大きく動いてしまう。
 最悪、合わなくなったつじつまを合わせようと世界そのものが滅びかねないほどに。
 SF的解釈で言えば、〝バタフライエフェクト〟に近いものなのだろう。
 創造神は言葉にこそしなかったが、いなくなっても即座に世の中に影響がない人間は肉体ごと移動可能とも解釈できる。

「ま、献血みたいなものだよ。ちょっと抜いただけなら、放っておいても血は増えてまた元に戻る。誤差の範囲だよね。骨や内臓摘出するわけじゃないし」

 だが、そこで俺は疑問を覚える。

「それだと、本当に必要な人間は転移できなくないか?」

「ご明察。血液にたとえたけど、元の世界で消えたってどうでもいい人間って、実は僕の世界にとっても特別な能力を与えない限りはどうでもいい人間なんだよね。だから、僕は待ちに待った君の魂を僕の『世界』に転生させる。死んでしまう予定の人間の魂を移動させるなら、世界には何の影響もないからね」

 創造神が言うには、ある意味最高の素材に近いのが魂であり、それだけを狙って動かせるような『世界』に固定されていない人間は物凄く珍しいようだ。戦争が起きてこの方、ずーっと誰かいないか網を張っていたらしい。

 まぁ、このまま死ぬのが良いかと訊かれれば、それは当然NOと答える。
 さすがに、四半世紀生きたくらいで死んでしまうのではあまりにも人生が短すぎる。
 世に名を遺しているロックンローラーたちだって、短いけれど27歳までは頑張っているのだ。

 しかし、振り返ればぶっ飛んだ人生だった。
 大学卒業までに中二病が治らなかったことも相まって、食うに困らないようにと、現実世界でどうにか実現できそうな職業として幹部候補生目指して頑張って軍隊に入ったら、まさかの戦争が勃発しやがったのだ。
 危険手当て目当てに各種特殊作戦向けの資格を取っていた俺は、非合法任務で最前線を越えての超危険越境作戦に駆り出され、運悪く砲撃の至近弾で腹をハンバーグにされて死亡。
 ……文字にするとちょっと笑えない。

「あ、そろそろ時間だ! これから君は、人類圏でも比較的有力な国の貴族家に生まれる。身動きがとりやすいように次男でね。転移だと何の後ろ盾もないだろう? 国をある程度の方向に動かしたいなんて場合、よそ者の言うことなんて誰も聞かないからね、普通」

「道理ではあるな。だから、そっちの世界の人間の身体を乗っ取れってのか? 正直、あまり気は進まないなぁ……」

「いや、死産になる予定の子どもだよ。もう魂は存在していない。だから、君が気に病むようなことはない」

 そう聞いて少しだけ気が楽になった。
 俺の罪悪感を払拭(ふっしょくするための方便かもしれず、創造神が言っていること鵜呑みにするわけにはいかない。
 しかし、このまま死にたいわけでもない俺としては、とりあえず現状では黙って受け入れることに決めた。
 いつまでもこうしていたところで、新たな判断材料を得ることはできないと思ったのもあるが。

「そうそう。言い忘れていたけど、切り札の『勇者』たちは遅くても20年以内には送り込むつもりだから」

「ん? 切り札?」

 なにやら不穏当な単語が聞こえた気がするぞ。

「まぁ、それまでにいろいろと頑張ってよ。僕が与えた“能力”と地球の知識を使って、少しでも向こうを引っ掻き回してくれたまえ」

「能力?」

 引っ掻き回せとかずいぶんと物騒な物言いだが、それよりも“能力”とやらが気になってしまう。

「魔力に応じてと制限はつくけど、『地球から自分の好きなものを取り寄せできる』能力だよ」

「なにそれこわい」

「ちなみに、『勇者』じゃない君が、向こうの世界でどこまでできるかは僕にもわからないけどね! それじゃがんばれ!」

 ……おい。
 最後の非常に不安になるセリフはなんだ。
 ていうか、突っ込むのが遅れたけど、本命は俺じゃなくて他から来る『勇者』ってことかよ!

「テメェ! 俺は端役ってことか! ふざけ───」

 ふざけんじゃねぇと抗議しようと思ったが、残念ながらその時点で創造神の声が場面転調よろしくフェードアウトし始めたことに気付く。
 それに伴って遠のいていく意識の中、俺は小さな溜息と共に目を瞑り、静かに次の覚醒を待つことにしたのだった。

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