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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第63話


「ここは……」

転移した先は、皇都の転移門と同じような、黒いアーチで守られた白い部屋だった。足元の魔法陣が淡く光っている。
恐らくここが、北方にある転移門なのだろう。周りには先程のようにたくさんの兵士の姿が確認できる。無事転移できたようだ。

「みんな大丈夫か?!」

ペクタール大将が声を出す。

「ううーん……」

目の前に立つアナスタシアはなんとか立てているようだが、何人か座りこんでいる者がいる。殆どが学園生だ。

「体調が悪いものは、至急申し出るように!   他のものは、上階へ移動する!」

『はっ!!!』
『はいっ!』

千二百人以上の人間がいるだけあって、転移は一瞬だったが、そこから移動するのには時間がかかる。
学園生達は列の後ろの方についたため、千人の後にようやっと部屋から出る。
暗い廊下を進み、少し長い階段を昇ると、これまた白い大きな部屋に出た。

部屋の両脇には宮殿の謁見の間で見たような縦に線が刻まれた柱が等間隔に並んでおり、床は窓から差し込む陽射しが反射し輝いている。
恐らくは白輝石で出来ているのであろう、繋ぎ目の見えないように造られているようだ。

その柱も床も部屋の壁同様全てが白く染められており、まるで雲の中にいるかのようだ。
華美で荘厳な謁見の間とは違い、余計な装飾はなく全てが統一されたある種の圧迫感を感じさせる。ただ一つ違うのは、天井に巨大な絵画が描かれているという点だ。その登場人物や構図からは不思議と神聖な雰囲気を感じる。

「ここはどこなんだ?」

「神殿だと思われます」

歩きつつも同じく部屋を見渡すアナスタシアが言う。
神殿?
ああ、そうか。主要都市には、教会をまとめる”神殿”が存在しているのだったな。推測するに、ここは北方の教会を束ねる神殿なのだろう。
神殿は聖なる場所、聖域として扱われる。暴力や嘘ごまかしが厭われる聖域において、まさかこんなにたくさんの兵がいるとは思わないだろう。
建物の大きさも、それ相応のものだろうし、先程使った転移門ほどの大きさの物ををつくる場所は限られているだろうからな。

「その通りです。ここは、北南西三つの都市に存在する神殿の一つ、シフェア神殿です」

「エナ様!   こんにちは」

「ええ、どうも」

聴き覚えのある声が聞こえできたので振り向くと、エナ様が近くに立っていた。後ろには相変わらずウーリエィル様が控えている。皇都の方では姿が見えなかったが、一緒に転移してきていたんだな。

シフェア神殿か……それも授業で習ったな。確か……北がここで、西がブルアフ、南がヴォシュナだったか。因みに東には海上都市アトラムーティカの大神殿があるので、ここのような中間管理的な神殿は存在しない。

「それにしても……珍しいですね」

「何がですか?」

首をかしげたエナ様に対してアナスタシアが問う。

「いえ、いつもならもっと信者がたくさんいるはずのですが……私達以外にはそれらしき者たちは一人もいませんね」

「そうなのですか?」

「ええ。しかも月の初めには特に多くの信徒が訪れるのです。というのも、神殿においては一ヶ月に一回の定期ミサが行われる為です。聖句や聖歌と共に神に祈りを捧げ、信仰心を養うのです」

へえ、そんなものがあるのか。そこまでは知らなかった。
でも、聖大会の神様って、皇帝陛下……じゃなかった、今上陛下だよな?      実際、信者の祈りが届くことなんてあるのだろうか。まあそんなことをいちいち考えていたら不敬だと怒られそうだな。

「そもそもここは、神殿の主要な部屋の一つ、玄関ホールです。なるほど、転移門はここに繋がっていたのですか。言葉通り、神殿の出入口となる部屋なのです。あの天井に描かれた宗教画や部屋の造りなどで宗教施設としての神聖さを保たせると同時に、聖大会の威光を示すという現実における役割も担っています。ですので、入ってきた者を一目で圧倒させるためにこのような大きな空間が取られているのです」

さすがは聖女さまだ、勉強になるな。

「そう考えると、やはり人一人いないのは明らかにおかしいな」

「ええ、しかも今日は夏の二月一日、各地方の学校は国立学園と同じく夏休みに入っているはずです。子供連れの信徒もよく参加するはずなのですが……」



「----それは少し考えればわかることですよ、聖女エナ」



いきなり、背後からゆったりとした大人の女性の声が聞こえた。

「え……あ、あなた様は!!」

話しかけられた等のエナ様は、咄嗟に振り向くとその姿勢で驚いた表情をし固まった。横に立つ使徒ウーリエィル様も同じくだ。
俺たちも後ろを向く。

と、そこには金銀で刺繍が施された白の貫頭衣を着、頭に籠手のような形をした、縦長の変な帽子を被った女の人が立っていた。帽子の前面には……あれは確か、聖大会の紋章、だよな?   地から生えた十字架の少し上に、太陽にかざした片手が描かれている。その左右には、Sを左右対称にしたように、紋様が重なるようにいくつも描かれている。帽子の縁も貫頭衣と同じく刺繍で装飾が為されている。

「このようなところに……恐れ入ります、教皇猊下!」

ウーリエィル様がそう言い、片膝をつき両手を胸の前で組み合わせる。信者が良くする祈りのポーズだ。エナ様も同じく二人は横並びになり、この女性に対して祈りを捧げる。

教皇猊下……え、教皇猊下!?    教皇って、聖大会のナンバーツー、実質トップっていうあの?   っていうか、女性だったの!?

玄関ホールに上がってきていた兵士や国立学園関係者も、一斉に祈り始める。俺たちも慌ててそれに習った。

教皇猊下を中心に、片膝をつく人の輪が広がる。今その場は、完全に祈りの場と化していた。いや、神殿なんだから当たり前だけどさ。

「皆様、ありがとうございます。神のご加護のあらんことを……」

教皇猊下も立ったままではあるが、胸の前で指を組み祈る。

「……さて、まずは皆様にお願いがございます。本日、この神殿は閉鎖させていただいております。というのも、今上陛下直々のお願いに寄りまして、特別なミサを開くことをなったからです。ここにいらっしゃる皆様だけではなく、今回の討伐遠征に参加させる全ての方を対象としたものです。どうぞ、敷地内の大会堂へお越しください」

猊下ただ一人の声だけが、ホールに響く。普通の大人の女性の声に聞こえるが、聞いていて全く不快にならない、頭にスッと入ってくる不思議な声色だ。

なるほど、だから誰も居なかったんだな。俺たちだけのために、教皇猊下がミサを開いてくれるのか、なんか勿体無い気もするが、皇帝陛下のお願いとあらば、断るわけにもいかないのだろう。なにせ、教皇と雖も神から命令されたに等しいのだから、嫌ですとは言えないはずだ。

「それと、聖女エナ、ミサの前に私と一緒に来てください」

「は、はいっ!   畏まりました」

エナ様は珍しく焦った様子だ。

「それでは皆様、また後ほど……」

教皇猊下はそう言うと、神殿の奥へと消えていった。


「それにしても、凄いな」

「ええ、流石は大陸一、二を争う国家の主要な宗教施設だけはありますね。我が国の祭壇もここまでのものはありません。流石に、大祭壇は勝っていると思いますが……って、比べるものではありませんでしたね、うふふ」

アナスタシアは口元に手を当て、頬を和らげる。



今、この大会堂には、総勢六万人もの兵士が着席している。勿論、それほどの者が入る分の時間はかかったが、流石は国軍、元々集団行動の訓練を受けていることからかいうほどはかからず、それでもまだ夕方だ。
部屋の左右には宗教画をかたどったものだろうか、カラフルなステンドグラスが柱と柱の間から姿を見せるように何枚もはめ込まれており、軽くではあるがまだ陽射しが差し込んでいる。赤青黄色緑と様々な色が床に浮き出ており綺麗だ。

視線の正面、大会堂の一番奥は長椅子が置かれる床よりも一段高くなっており、中央には聖大会の紋章が描かれた布がかけられた机が置かれている。あそこに司祭様などが立って信者に向けて説教をしたりするのだろう。

そしてその壇上の奥から伸びている階段を上がった先の中二階バルコニーには、一脚の椅子が置かれている。
宮殿の謁見の間で、皇帝陛下が座っていた椅子に似ているな。

一つ驚いたのは、これだけ大きな建物なのに、支えとなる柱や壁がないことだ。
椅子と椅子の間は人二人くらいが並んで倒れる通路となっているのだが、そこに柱が立っているわけでもないし、壁で仕切られているわけでもない。一番後ろの席からでも、視線を遮られることなく一番奥の壇上を眺めることができるのだ。

勇者候補俺たちは一塊に座らされている。詰めれば二十人ほどが横に座れる長椅子に狭苦しく腰掛けていて、視線の先がミサを行う司祭が立つ壇上になる。普通に座れば十五人ほどが限界だろう椅子に無理やり座らされている感じなので、横に座るものと結構密着している。
長椅子は単純計算で三千脚あることになるな。横に三十列、縦に百行といったところか。

そしてその席順はというと、右から俺、アナスタシア、モアちゃん、フィエちゃん……と比較的仲がいいもの同士で並んで座っている。勇者候補間もまだ完全に打ち解けた訳ではないのだ。
特にトルツカ君なんて、アナスタシアから用事の時は義務的な話し方で、それ以外の雑談は芽すら合わせようとされない有様だしな。一応謝りはしたみたいだが、アナスタシアの方に口では大丈夫と言っていても食堂の一件で苦手意識が植えつけられてしまっているみたいなのだ。

他の者たちも席順は結構自由で、国軍の兵士たちも今は部隊は同じなようだが、その席順はおもいおもいに座っている。皆、流石に大柄な武器は携帯していないようだが、誰もが腰から短剣をぶら下げている。
俺たち学園生はまだ武器を支給されていないので手ぶらだ。

因みに、ミサの時には本来であれば信者用のローブを着なければならないらしいが、多くの信徒が訪れる神殿といえどもさすがに六万人のそれを用意することは不可能だったようで、転移して来たときのまま、鎧や制服を着て座っている。
後ろの方の長椅子なんて、臨時に持ってこられた感が滲み出ているただの木の椅子だしな。幸い、俺たちは元から置いてあった装飾の施された豪華な椅子に座れたが。



「あの、アナスタシア。こんなことを言うのもなんだが……」

「なんですか?」

「少し、近すぎないか?」

いくら密着状態とはいえ、先ほどから肩や尻をアナスタシア側からぐいぐいと押し付けてくるのだ。しかもいつの間にか自然と俺の左腕をとって自分の右腕と組んでいるし。

「うふふ、そうですか?   自然なことだと思いますが。これだけ近いのですから、少しくらい我慢してくださいな。それとも、私とひっつくのは嫌だとおっしゃるのですか?」

アナスタシアはその細く整った眉を下げ、悲しそうな顔をする。

「どうしたの、クロンくん?   スタシアちゃん?」

「い、嫌ってわけじゃないが……腕まで組まなくてもいいいいのでは?   ああ、モアさん。アナスタシアが俺にベタベタしてくるから、ちょっと苦言を……そもそもアナスタシアは王女様なんだから、いくら学園では生徒の立場は平等とはいえ、こんなことをしているとばれたら怒られるんじゃ」

卒業した後のことを考えると、やはり過度に仲良くなるのは気後れする。
同じ勇者候補なのだし、仕事仲間で恋愛に発展すると、もし別れた時に気まずくなると聞いたことがある。

べ、べつにアナスタシアと付き合いたいわけじゃないが……あまりベタベタと接せられると、そういう誤解が生まれるかもしれないのだ。特にトルツカ君なんか反発してくるだろうし。
勇者候補間でギスギスした空気になるのは避けたいものだ。俺とトルツカ君の喧嘩の時もだいぶ迷惑かけたしな。

それに、世界を救った後は、アナスタシアに相応の相手が出てくるだろう。美人だし賢いし、今のままいけば、文句なしの女性に成長するに決まっている。
その時に、俺みたいな田舎の目つきが悪い男とつるんでいると知られたら、気まずいとかそういう話ではなくなるのは容易に想像できる。

このアナスタシア(本来はアーナジュタズィーエだ)呼びも、そもそも相手が王族な時点で絶対にダメなはずだ。学園生として来ている以上、在籍中の六年間はそこらへんをごちゃごちゃ言われることはないだろうが、反面卒業した後は気軽に名前を呼ぶことすらできなくなるということだ。

俺だって、この娘と仲良くしたくない、というわけじゃない。六年間は余計なことを考えずに普通の友達として接していきたい。
でも、そのあとはきっぱりと諦めるしかないこともわかっているのだ。なので、線引きをしておかないと、俺の方が変な勘違いを起こしそうになってしまいそうだ……

「……あの、クロンさん、クロンさんが何を考えていらっしゃるのかはだいたいわかります。ですが、私はもっとクロンさんと仲良くなりたいのです!   敬語とさん付けはやめて貰えましたが、まだ”スタシア”呼びまでは行っていませんよね?」

アナスタシアは笑顔から一転、真面目な顔になりそう言う。

「それはさすがに……」

スタシア呼びをする(というかできる)のは本当に仲のいい子だけらしい。モアちゃんはアナスタシアと気が合うみたいですぐに呼び方がそうなっていったが、男の俺まで気易くそのように名前を呼ぶのはいくら学園では友達でいたいと言っても気後れする。
呼び捨てにするのだって、この間まで結構恥ずかしかったのだ。ようやく慣れたところなのに、これ以上ハードルを上げないでもらいたいものだ。

と、モアさんがニヤニヤと笑っているのに気がついた。いつも少しおどおどしていて、笑うときも控えめな彼女にしては珍しく感情を前面に出した表情だ。

「ん?   どうしたんですか?」

「えへへ、二人は本当に仲がいいな、って思って。私、嬉しいです!」

「俺と、アナスタシアが仲良くすることが、なんでモアさんを喜ばせることになるんですか?」

「だって、友達がその友達と仲良くしていると、嬉しくないですか?   私、昔、というか学園に来る前は、地方の男爵の一人娘として育ったんです。周りの土地を統治する貴族の娘さんたちと、定期的に茶会を開いていたのですが、そこにはたまに同じく貴族の跡取り息子が参加することがあって……

その男の子は、子爵家の長男だったので、そこにめとられることが出来れば、しがない男爵から一気に人生を花開くことが出来るということで、階級も同じ貴族のお友達なのに、常に牽制し合うというかにらみ合うというか……要は他人が抜け駆けしないように、ドロドロとした雰囲気を隠そうともしなかったんです

男の子は少し抜けている子だったので、私たちの戦いには気がつかず、いつもヘラヘラ笑っているような子でしたが、やはりそれでも気付かれる時は来るもので……ある日一人の女の子のことを好きになっちゃったんです。そしたら抜け駆けだ、私は悪くないと言い争い始まって、好きな人とそれを非難する女の子との野獣のような喧嘩に幻滅した男の子は、ついに見限ってしまいそのままお茶会も解散ということに----」

「あーあー!   ご、ごめん、聞いた俺が悪かった!   そんなことがあったんだなー!!」

話を進めるうちに、モアさんの目から光がなくなっていったので、わざとらしく慌てて話を遮った。

「----ということなので、男女が恋愛関係ではなく普通に仲良くお友達をしているところを見ると、どこか安心するのです。心を癒されるというか、ああ、こんな汚くない美しい世界もあるんだなあと」

「な、なるほど、確かに私とクロンは、今はただのお友達ですよね!」

アナスタシアも焦ったように、俺の腕を離して乾いた笑顔で応対する。

「でも、さっきはスタシアちゃんが、やたらとクロンさんにベタベタしていたような……?   それに、スタシアちゃん今は・・ってどういう」

あ、ダメだ。やっぱり光が……

と話をしていると、ローブを着た一人の女性が脇から壇上に出てきた。

よ、よかった。ようやくミサが始まるようだ。


          

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