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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第62話


「まあ取り敢えず、紅茶でも」

「はい、ありがとうございます」

アエオンおじさんからカップを受け取る。

クロンがいた当時は木のコップに薄い紅茶が普通だったが、身売り・・・後は縁に装飾が施された陶器のティーカップが村のあちこちで見られるようになった。クロンが国立学園へ行ったことにより、村の財政が良くなったという点について、私としては複雑な気持ちだ。

これに限らず、私もその恩恵を受けているのだから。

「そちらのお二方も」

「ありがとう!」
「どうも」

が、待ったをかけセドゥナさんが先に紅茶を口に含む。

「……大丈夫です。毒は入っていません。どうぞ、殿下」

「ありがとう」

「あはは……」

おじさんは苦笑いだ。
だが、仕方のないことだろう。ガーラは王女様、更に言えばハイエルフの次期女王なのだ。私はこの村の出身だし、アエオンおじさんのことは信頼と信用をしているのでガブガブ飲んでも不安はないが、そもそも人間嫌いなハイエルフの中であってガーラが特殊なだけで、セドゥナさんの行動は非難されるいわれはない。

「……ふん、人間の飲み物も捨てたもんじゃないですね」

改めて紅茶を飲んだセドゥナさんがポツリと呟く。

「なんだい、珍しいじゃないか。セドゥナが人間のことを褒めるだなんて」

「この香ばしい匂い……舌に触れた瞬間、苦味と甘さが広がる……喉越しも引っかかるものはなく、悪くありません。強いて言えば、少し苦味が強いかもしれませんね」

「あはは、エルフ?   様にお褒めに預かり光栄だよ。その紅茶は皇都で流行りのものでね。高貴な貴族も御用達の代物だとか」

へえ、そんな大それたものなのか、これ。

「セドゥナは飲み物にうるさいからね。その彼女に不満点はあるとはいえ『悪くない』と言わせるとは、なかなかのものなのだろう。わたしはそんなの全然わからないから、美味しかったらなんでもいいけどね!」

ガーラは無邪気な笑顔でそう言う。

「殿下、そのような適当なことを仰ってはなりません。女王たるもの、審美眼がなければ他国の高官に笑われてしまいますよ」

「わ、わかっているよ……」

今度は苦い顔をしながら、紅茶を再び口に含む。

「あはは……ところで」

おじさんが、急に真顔になった。

「お二人は、どちら様で?」






「こ、これは大変失礼致しました!   ま、まさか王女様だとはつゆほども知らず!   この通り、どうかご容赦をっ!」

おじさんは地面に両手足をつき、まさに平伏する。

「や、やめてよ。頭を上げてください」

「ですが!」

「殿下が頭を上げろと仰っているのです。命令を聞きなさい」

「は、はあ……」

セドゥナさんの言葉に、ゆっくりと頭をあげ正座で二人のことを見上げるおじさん。

「でも、アナちゃんも、そんなすごい人になっていたんだね。まさか神様の使いなんて」

「たまたまですけどね。私もなんで選ばれたのか、わかりません……」

そこは本当にわからないのだ。ラビュファト様も教えてくれないし。

「そういえば、前に一度不思議な声が聞こえたと言っていたね」

「ええ、そうですね。思えば、あれも何かの兆し・・だったのかもしれません」

あの狼の魔物が襲ってきたときに、クロンのことを助けようと願ったらラビュファト様の声が聞こえた。
その後、愛の力によって無事助けられたのだ。クロンはその時のことは殆ど覚えていないみたいだったけど。

「世界の危機……そういえば、村長が言っていたが、神子殿下もそんなことを仰っていたとか」

「村長……お父さんが?」

「うん。クロンくんを皇都に連れていくための、何かの方便だと思っていたんだけど。でも、あの狼といい、兵隊たちといい、何か良くないことが起こっていることは感じているよ」

「それで、お父さんはどこなんですか?   そもそも、アエオンおじさんはどうして生きていられたの?   やっぱりこの銀行のおかげで?」

「ああ、その通りだよ」

おじさんはよっこいしょ、と声を出し対面するソファに座る。

「敵兵は大きな筒……おそらく大砲だろうが、沢山のそれを使って村を攻撃してきたんだ。家や畑が吹き飛ばされ、村人も同じく……私は村長の家にいて、ドンドンと大きな音が聞こえ地面が揺れたから、見てきてくれと言われて外に出た。

そしたらこの銀行だけ無事なのが確認できたから、生き残っている村人を引き連れて急いで避難したんだ。おかげでこうして紅茶を飲めているわけだね」

「それで、お父さんは!?」

「それは……残念だが……」

おじさんは言葉尻をすぼめ顔を横に逸らし俯く。

「そ、そんな……」

「アナちゃん……」

「アナ様……」

嘘、だよね?

「遺体はバラバラになっていて……他の遺体も集めて焼いてしまったんだ。瘴気がたまるといけないからね。一応、お墓は作っておいてある。本当に、小さくて粗末なものだが」

「いや……」

「もしよかったら、手を合わせるだけでも」

「いやっ!   やめて!」

「あ、アナちゃん?」

私は部屋の扉を勢いよく開け、飛びだした。













「ふふふ、これが古代の秘宝、エンシェントアーティファクトの持つ力か!」

デスベルシンクは神輿の中で高笑いをする。

「父上が貸してくださった秘宝は三つ……どれも素晴らしいものだな!」

右手の人差し指に嵌めるは、<灰の指輪>と呼ばれる代物。

左腕の手首に着けるは、<服従の腕輪>。

首から下げるは、<護りの首飾り>。

それぞれ一つとってもまさに国宝と呼ばれるものだ。国を買えるほどの金を積んでも買えないと言われている、ミナスティリアス帝国が十三所有する秘宝。
そのうちの三つを貸し出すということは、帝国が、皇帝が、今回の侵攻に期待していることの表れであろう。



帝国と神皇国は、何百年にもわたって睨み合い続けており、時には戦争に発展してしまうこともあった。
特に直近に行われた、五十年前から二十年にわたって繰り広げられた戦争は、実質帝国の敗北という形で停戦となった。

しかも神皇国はあろうことか、中立地であるザザンガ=ザンガ山脈沿いに開拓地を拓き始め、帝国に対する牽制を強めるとともに実効支配地域を拡大し、帝国領の目と鼻の先に将来は軍事拠点となりうるであろう街を作ろうとしている。

これ以上舐められてたまるものか、と第五皇子及び南方方面軍第一軍団を派遣したものの、まさかの兵は全滅、皇子の行方も知れず。
いよいよ痺れを切らした皇帝は、跡取りである第一皇子を旗頭に立て、秘宝であるエンシェントアーティファクトを貸し与えるとともに、前回よりも多い二十万もの兵を出したのだ。



その兵達が今、何かに急かされるように狭く険しい山道を登っていた。
横二列の武装した人間が延々と続く。単純計算で約十万行にもなる。
山道は山脈の山々をぐるりと緩やかに回るように作られているため、溢れることはないが、上から見ると異様な光景に見えることは間違いないだろう。

「おい、今どのくらいだ!」

デスベルシンクは、天幕を開け神輿の横に立つ護衛へ話しかける。

「ははっ、あと半日もあれば、目的地に着くかと」

「そうか」

天幕を元に戻し、椅子の背もたれに背中を預け直す。

「出発して五日。後少しで、憎き神皇国のカスどもを滅ぼせるのか!   くくく、今に見ていろ……!」

「あら、随分やる気があるのね?」

「なんだチュリ、何かおかしいか?」

見目麗しい巨乳の女が口元に指を当て色っぽい笑い声を出す。

「んーん、強い男は好きよ?」

「そうか。なに、もし戦利品に宝石でもあれば、一つ二つくれてやるさ」

デスベルシンクは、隣に座る女の首から後ろ、奥の肩に腕を回し髪をもう一方の手ですく。

「それは楽しみだわ」

三つの秘宝と大軍を授かった皇子は、チュリの酌を受けつつ、自信満々に余裕の笑みを浮かべるのであった。



「ここか……」

山肌に沿って作られていた道は、一つの大きな岩山に塞がれていた。
その手前は、小さな広場のようになっている。

「殿下」

「わかっている、降ろせ」

神輿を担ぐ兵士の一人が声を掛けてきた。デスベルシンクの合図で、留め具が立てられ神輿が置かれる。

「ふんっ」

そしてマントを翻しながら、勢いよく地に足をつけた。

彼の目の前に鎮座する岩山には、こんな山道の行き止まりには明らかに不自然な、分厚い鉄製の黒光りする扉が嵌められてある。その大きさは、大の大人が縦三人並んだほどはあろうかという巨大なものだ。
横も、兵士が五人並んで入れるほどはあり、ここまで歩いてきた険しく狭い自然の厳しさを感じさせる山道とは違い、人工物であるということをこれでもかと主張していた。

そして扉の全面に、大きな魔法陣が描かれていた。

「さて、詠唱を……<パイパイ・マタマタ・ビクビク・イックゥ・ポンチッチオ・ファーギーナ・ミナスティ!>」

デスベルシンクは指の先をナイフで少し切り、漏れ出てきた血を魔法陣に沿って扉に擦り付けながら、何やら詠唱をする。

それほど長くない詠唱はすぐに終わり、唱え終えた彼は数歩扉から下がり、様子を伺う。



----ゴゴゴゴゴ!



「おおっ?」

数秒後、扉の魔法陣が淡く光、その分厚い扉は鈍い音を立てながら、押し扉のように自動的に奥へと開いてゆく。

「なにこれ、すごい……」

チュリも口元を手を当て、驚いた様子でその光景を眺める。
他の兵士たちも同じくだ。

「はははっ!   父上の話は確かだったな!   さあお前ら、行くぞ!」

『はっ!』

山脈の行軍で疲れているであろう兵たちも、目の前の不思議な光景に元気を取り戻したのか、声を大にして返礼する。

「ふむ、中は思ったより明るいな」

扉の先は、その縦横幅と同じ大きさの空間が広がっていた。正方形を楕円にしたようなその部屋は、二百人ほどは余裕で入れる大きさがあった。
デスベルシンクの周りには、一等臣民からなる精鋭部隊が護衛についており、四方に目を凝らしている。

部屋は、不思議なことに、ランプなどではなくその壁自体が光っていた。
横の壁から天井から、全方面から発せられる青白い光は部屋を満たすに充分であり、隣に立つチュリの顔も確認することができる位だ。

部屋の奥、魔法陣の扉の反対側には、今度はだいぶ小さめの、山道と同じほどの幅の扉があった。

「うむ、次はあれか。ここを進んだら、目的地だ!   もう少しだぞ!」

デスベルシンクは奥の扉へ近づく。

「また血を捧げなければ……だがこれが、防衛機能なのだから仕方ない。古代の皇族もなかなか考えるじゃないか」

再び指先から血を出し、扉の魔法陣にこすりつけながら詠唱をする。

「……っと、よし」

扉が淡く輝く。そして軽い音を立てながら、両開きの扉が開いた。

「ねえねえ、早く進みましょうよ」

指を手当てしながら、チュリがシナを作ってそう言う。

「わかっているさ。行くぞ、お前ら!」



          

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