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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第58話


「そこまで!」

ヨッスル先生の合図でアナスタシアの試験は終了した。大体三分か、結構長く感じたが、彼女が動かない時間があったからだろうか。

「……流石」

プッチーナが少し微笑んでそう呟く。

「ああ、そうだな」

最初は驚いたが、身体の各部位を狙って吹き飛ばし行動不能にする。そしてトドメを刺すのも忘れない。本来の使い方からすれば範囲攻撃にも関わらず、特定の箇所を狙って攻撃するとはなかなかの魔力操作だ。

それにドレインのスキルは吸収したものを放出・譲渡することができるけど、今回はゴーレムから魔力を吸い取るそぶりを見せていなかった。
なので自前の魔力をゴーレムに過剰に注ぎ込んだということになる。それには豊富な魔力量を有していないといけないし、一発ごとの魔力配分も考えなければならない。
この短い間に、初めて戦ったであろう相手に向かって、しかも機械に対しそれを成し遂げるとは。

学年一位の才を、勇者候補に選ばれた理由をこの目で改めて確かめることができた。

「流石アナスタシアさんだな!」
「ああ、それにあのシャツから透けて見える肌色……女子って良いなあ」
「これが天国か」

客席の前を陣取っている男子どもは相変わらず阿呆な会話をしている。
あ、ティナリア先生に叩かれた。

「次、出席番号二番のエナ……と言いたいところだが、エナには最後に回ってもらう」

え?   聖女様は最後なのか、ということは俺の後ということに。

「三番のドクメスキス!」

「はい!」

イクイーギ公爵家次男のドクメスキス君。
スキルを複数使え、主に速度を敵が見えない速さまで上げる<蛇行ステップ>と、手を魔力で硬化させ手刀として使う<ザン>が得意だ。
初めて見たときは驚いたが、武器が使えない状態であっても相手を倒すことができるというのは非常に有利だろう。

「では始める!」

「キドウシマス」




その後も試験は進められ、いよいよ俺とエナ様だけとなった。

「さて、出席番号四十番、クロン!」

「はい!」

先生に呼ばれ、客席から戦場部分へと向かう。準備体操も行ったし、昨日早く寝たため魔力残量もバッチリだ。

「……頑張って」

「ありがとう」

小さく拳を握るプッチーナに返事をする。

「がんばれよ〜!」

「おうよ!」

手を振るカッツに片手を上げ、階段から一階へ降りる。

「さあ、準備は良いか?」

「いつでもいけます!」

「よし、では始める!」

「キドウシマス」

ゴーレムの目が青く光る。
ううーん、こうして見上げるとやっぱり大きいなあ……鉄の塊だもんな、障壁があると言っても気をつけないと。死にはしないが怪我はするからな。

「開始!」

「ハイジョ、ハイジョ!」

「なっ!」

速っ!
ドシドシと低い音をたてながらこっちに向かい走ってくるゴーレム。だが俺はすぐさまスキルを放つ。

「<光あれビーム!>」

人差し指中指薬指と、左手の指を三本使った太い光が、ゴーレムの頭を打ち砕く。だがそれだけでは足りない。ゴーレムはコア、ようは心臓を破壊しない限り活動が止まらないのだ。

だが流石に目を破壊したおかげか、俺のことを認識できていないようだ。あちこちにむやみやたらに拳を振り回す。がそんなものが当たるわけがない。

「…………くっ」

無言で暴れるゴーレムだが、その分狙いがつけにくい。動きも全然予測できなくなってしまった。

「っ!   <ビーム!>」

だが地面に躓き一瞬動きが止まったその機会を俺は見逃さなかった。
もう一度光が伸びてゆき、今度はゴーレムの胸を貫く。
直撃を受け遂に行動が停止したギシギシと音を立て、崩れ落ちた。

「そこまで!」

「ふう……」

今はもう夏、南からくる雨雲も通り過ぎ晴れの日が続く季節となった。あまり動いていないがそれでも汗をかいてしまう。額を手の甲で軽く拭う。

戦場部分を出、客席へ上がる。最後は聖女様エナか。彼女の周りは不自然に空間でできており、皆どう接したらいいか困っている風だ。

「……お疲れ。上から見ててもゴーレムの動きはやはり俊敏。でも動じない姿勢、かっこよかった。」
「ええ、さすがはクロンさんですね!   これからも期待しています!」

プッチーナとアナスタシアが俺のことを褒め称える。そ、そんないうほどだったかなあ?

「ありがとう。だが、これで満足していては駄目だ」

時計を見る。かかった時間は……二分ちょっとか。

改良されたゴーレムは時思ったよりも初速があったが、ビームは一瞬で攻撃が終わるため当たればこっちのものだ。相手が遠くから弓で狙ってきたとしても、放つ前にこちらから反撃して仕舞えば攻撃を食らう前に返り討ちにできる。
魔力が一気に消費されるという欠点はあるものの、そのぶんすぐに放つことができ、攻撃も一瞬で当たるビームは使い勝手はなかなか良い。

だか一つ気をつけなければいけないことがある。今回は模擬戦場という狭い場所だったが、戦場ではそうはいかない。ビームを撃ち放つ時の照準の小さなズレが、遠くに行くにつれ大きくなってしまい、的から外してしまうことだってあり得るのだ。

しかも俺たちは最新兵器とやらの秘密を探りに行く任務が課されている。警備も厳重だろう。一撃で倒すことができなければ、相手に気づかれてしまう可能性が高い。敵がその兵器を使う前に情報を集め、破壊。出来れば奪取しろとまで言われているが、そこまでは流石に厳しそうだ。今のところは破壊を目標にしている。

十四日の集まりで、俺は破壊工作実務要員の役割を担った。
このゴーレムは素手であったのでまだ冷静に対処できたが、帝国兵は訓練を受けた強靭な肉体を持つ意思のある相手なのだ。経験したことを蓄積することしかできない人工頭脳とは違い、自分で考え思わぬ行動に出ることも充分ありえるのだ。
その時に、焦らずに狙い通りビームを発射することができるか。これはまだまだ改善していかなければならない課題だろう。
実際、あのハエの魔物ベルズの時は何回か外してしまったからな。

「さて、最後はエナだな!」

「はい」

凛とした声で、白髪銀目の女の子が返事をする。そう言えば、今日はあの覆いは付けていないんだな。

「折角なのでみんなにも見てもらおう!」

ヨッスル先生が障壁を消す。
ん、ここじゃないところでやるのか?   攻撃系のスキルじゃない生徒も皆戦場部分で動物相手にスキルを使っていたが、エナ様だけは何故かそうじゃないみたいだ。

皆で模擬戦場の外に出る。
と、そこには入れ替わりの時間で模擬戦場勤務の職員がせっせかと回収していた、たくさんのゴーレムの残骸が積み上げられていた。


「これは一体?」
「なぜ壊れたゴーレムを集めているのでしょうか?」
「……謎」
「何をしているんだ?」


皆の困惑をよそにエナ様が歩み出て、山のように積もったゴーレムの残骸の前で立ち止まった。

「さて、では頼むぞ!   始め!」

え、この状態で試験を?
皆が半円状にエナ様を取り巻き見守る。

エナ様はというと、両指を絡め祈るように胸の前に手を持ってき、何かをぶつぶつ呟いている。

と、残骸の下の地面が青白く光り始めた。あれは……魔法陣?   ということは、エナ様のスキルは魔術に似たものなのか?

「本当に何をして……これはっ!?」

複雑な文字で創られた魔法陣の光が強くなり、なんと残骸同士がくっつき、次々と元のゴーレムの形へ戻ったのだ。

「どうなっているのですか!?」

「あれが、聖女様の力なのだよ」

ティナリア先生が俺たちの横へ立つ。

「どういうことですか、先生?   聖女様のお力は、怪我を治すなどの”癒しの力”のはずでは?」

アナスタシアが訊ねる。

その通り。俺も治してもらったからわかるが、負傷や状態異常など、死んでいない人間ならばたとえ欠損していても傷を元通りに治す力があるのだ。
瘴気を浄化する力もあるが、それは聖なる力のお陰だ。
物を直す力まであるなんて聞いたことがない。

「聖女様のお力は実はそれだけではないのだ。最近わかったことなのだそうだが、聖なる力が働くのは魔力を帯びたもの全てに対ししてなのだ」

「……それはつまり、生き物だけではなく魔道具、魔導機械や魔素機器に対してもスキルを使えるということ?」

「その通りだプッチーナ。勿論、石畳や木造建築など、魔力を帯びていない物に対して使うことはできない」

なるほど、そういうことだったのか!   ゴーレムは正に魔力の塊。そんな力があれば、直すのも容易というわけか。

でも、魔力がないものに対しては使えないということは、魔力がからになった人間にも使えないということになる。


魔力が空になるとはつまり死ぬことだ。
魔力は俺たちの身体を維持するためにも使われている。魔素として存在するそれは、血とともに身体をめぐっている。
普通は限界に達すると、俺のように気絶して命を守ろうとする機能が働くのだが、それに無理やり抗うなどすると、その魔素まで魔力に変換して使うことができてしまう。
そうなると、気絶する前に魔力がゼロ=魔素が存在しない状態になってしまうことがあるのだ。
なのでそうなった死人を生き返らせるほどの力はない、ということか。


残骸の山はゴロゴロと崩れ続け、空中で部品同士がくっつきゴーレムとなる。山を起点として円状に再生されたゴーレムが広がっていく。

そして遂に最後の一体が元通りとなり、あれだけたくさんあった残骸は見事に無くなってしまった。

「……どうでしょうか?」

鈴の音のような清らかな声が聴こえる。
エナ様は既に手を解き顔を上げて、先生の方を向いていた。

「うむ、そこまで!   流石は聖女様だな、がっはっは!」

「やめてくださいまし、わたくしはここではただの一生徒なのですから」

「そうか、わかったぞ。皆、これで本日の試験は終了だ!   整列っ!!」

『はいっ!』

呆気にとられていた皆だが、ヨッスル先生の号令で、四十人が八人五列へ並ぶ。

「ティナリア先生、ホサリ先生もありがとうございました。ティナリア先生は、後でそれぞれの生徒たちがどうだったか聞かせてやってくださるといいかもしれませんな!   じゃあ、解散!」

『ありがとうございました!』

一組生徒たち皆が、声を揃えて挨拶する。

……やっと期末試験が終わった。あとは明日の終業式と、そしてその後、夏の二月からはいよいよ討伐遠征だな!

解散するや否や、生徒たちが次々とエナ様に群がる。当たり前か、聖女様であり、さらにあんな力を見せられたのだから聞きたいことはたくさんあるだろう。

「凄い人気ですねえ!」

「ああ、そうだな」

「……クロンは行かないの?」

アナスタシアとプッチーナ、三人で集う。

「俺か?   俺は別に……この前お礼も言ったし、種もさっきティナリア先生から聞いたからな。聞きに行っても、同じような説明をされるだろうさ」

「……それもそう、かも」

「おい、クロン、アナスタシア!」

「「はい?」」

と、またティナリア先生だ。

「学園長がお呼びだ。すまんが、昼食の前に寄ってくれるか?」

「はい、わかりました」
「学園長がですか」

なんだろう。また誰か来たのか、それとも俺たち二人に何か個人的な用事があるのか?

「……私は、先に帰る。スタシア、行こう」

「あ、うん、そうだね。じゃあクロンさん、また」

「ああ」

二人は更衣室に向かう。俺もさっさと着替えないと。カッツは……ああ、案の定エナ様を取り巻く輪に加わっているな……

ん、あれは?
輪を押しのけ、エナ様を連れ出す人影。確か、ウーリエィル様だったか。聖大会の使徒様だとかいう。
まあ、俺には関係ない。行こう。




扉を叩く。

「どうぞ」

「失礼します!」

返事が聞こえたので、扉を開け、学園長室へと足を踏み入れる。

「またあったのお」

アバ学園長は相変わらず、大きな机の奥の豪華な椅子にちょこんと座っていた。

「今日は一体どんな用事で?」

「嫌、用事があるのはわしじゃない。おぬしの方が先に来てしまったようじゃな」

「はあ、そうですか。ん?」

横を見る。と、そこには勇者候補の面々が揃っていた。

「やあ」

片手を上げるローソ君。

「ご機嫌麗しゅう」

両手をお腹のあたりで揃えるマリアネットさん。

「こんにちは」

静かに佇むテーズラさん。

「二週間ぶりなのである」

さっさっと手を動かすギャザラク君。

「えへへ、ひさしぶりぃ!」

元気よく手を振るパフルさん。

「こ、こんにちは」

少しうつむき挨拶するガルーチョ君。

「ごきげんよう」

短いスカートをつまみカーテシーをするヴェナテリスさん。

「こんにちはっ!」

にこりと笑うモアさん。

「どうも」

ぺこりと頭をさげるフィエさん。

「や、やあ」

そして少し気まずそうに挨拶するは、トルツカ君。

まさに勢揃いだ。

「みなさん、こんにちは。皆さんも呼ばれたんで?」

「ああ、そうなんだよ。誰が呼んだのかはわからないけどね」

「ええ、テストが終わってすぐに参りましたのに、いたのは勇者候補の方々だけでしたのよ」

「早くして欲しいのである」

「ぼ、ぼくは別に……」

「あーん、お腹減ったぁ!」

学年関係なく、テストが終わったということで疲れと解放感に満たされているようだ。

--コンコン

と扉が叩かれる音が聞こえた。

「どうぞ」

ガチャリ。

「失礼します」

入ってきたのは、アナスタシアだった。

「学園長、用事とは……あ、クロンさん。もういらしてたんですね!」

「ああ。待ち人よりも早く来てしまったようだ」

「じゃあ、他の誰かが私たちに用事があって?」

「みたいだな。一体誰なんです?」

「時期にわかる。まあ、そこのソファに座っていなされ」

「はあ、じゃ、お言葉に甘えて。あ、こんにちは」

他の十人にも挨拶をするアナスタシア。

二人してソファに腰掛けようと歩き出そうとしたその時、また扉が叩かれた。

「ん、ついに来たようじゃな。どうぞじゃ!」

お。
座っていた者達もソファから立ち上がる。



「こんにちは」

え、聖女様!?


          

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