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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第54話


あの後トルツカ君と大げんかをし、ガルムエルハルト様が戻ってくるまでずっと険悪な雰囲気のままとなってしまった。結局そのまま解散となり、役割は後日決めることとなった。他の十人には悪いことをしたな……

一つ驚いたのは、アナスタシアが全面的に俺の擁護に回ってくれたことだ。勇者候補として他の者と同様中立の立場に立つのかと思ったが、トルツカ君の態度が気に入らないといって俺と一緒に喧嘩をし始めたのだ。
結果的にアナスタシアも巻き込んでしまい申し訳ないが、少し嬉しさもあった。

「そんなに落ち込まないでください、話を聞く限りそのトルツカという男子生徒が悪いのですから」

「そうですよっ!   その村が全滅しただなんて話も聞いたことがありません!   帝国軍は北西から侵入してきたはずです。被害を受けた村は確かに存在しましたが、クロンの村は山脈麓の丁度真ん中辺りなのですよね?」

「……はい」

「私も同じ意見です。栄えある神皇国が、ましてや軍部がそのような嘘をつく必要はどこにもありませんから。それに第一神子殿下が帝国軍を追い払った、いえ、殲滅なされたのですから。バレてしまったらその功績に水を差すだけとなります。それは宮廷にとっても思わしくない事態となるはずです」

確かに、戦争には士気が大切だと習った。それを下げるような真似をする必要はどこにもないはずだ。国民に不要な心配を与えることにもなるし。
宮廷の貴族様達も自分の立場を傷つけるような真似はしないだろう。

やっぱり、トルツカ君は嘘をついたのだ。何が目的かはわからないが、同じ勇者候補として、敵に向かう仲間としてあの発言を許すわけにはいかない。真意を問い質さなければ!

「クロン、確かめようのないことに気を取られても仕方がありません。お気持ちは察するに余りありますが、勇者候補として、学園生として、まずは期末試験を切り抜けるための努力をしていただかなければ」

「…………」

「顔を逸らしても試験は無くなりませんよ。ほら、エレナも何か言ってください」

「え、ええっと……が、頑張ればご褒美あげちゃいます!」

「「ご褒美……?」」

「あ、その……で、デートとか!   戦争に行く前に少しでも気持ちを和らげることが出来れば……」

顔を赤くし、人差し指を合わせモジモジさせながらそう言う。
エレナさんとデート。もし叶えば二回目か……俺も男だ、こんな美人な女性を横に侍らせることができるのは嬉しい。

「エレナっ!」

フォーナさんがソファからバッと立ち上がる。

「な、なんですかフォーナ、そんな大きな声を出して?   もしかして、羨ましいかったりぃ〜?」

エレナさんはそんなフォーナさんを見上げてにやけ顔だ。

「別にそう言うわけでは……」

「じゃあ、ご褒美は私のものということで。クロン、頑張りましょう!   勉強は引き続き私が見てあげますから。なんだったら、座学のテストで平均八十点以上取ることができたら、デートに夜の部も加えてあげますよ?」

夜の部?

「な、ななななっ!?」

と、フォーナさんがその白い肌を真っ赤に染めた。

「あれれ〜?   さっきから、どうしたんですかぁ?   何を想像したんですかねぇ?」

エレナさんが煽る。

「想像っ……して、ません」

プイッと横を向いて決まった。

「じゃあ、夜の部は決定ということで。クロン、いいですか?」

「え?   はい、俺は何でも。ご褒美が貰えるならより一層やる気が出ます!」

「私もっ!」

ん?

「わわ、私もで、デートしてあげます、はいっ」

真っ赤な顔のまま、そう言い切った。

「フォーナさんもですか?   勿論嬉しいですが……」

「仕方ないですねえ」

エレナさんは全然仕方なさそうに、にやけ顔のまま首を横に振る。

「実技で、八十点以上です!   それ以下は……お仕置きです!」

フォーナさんはぎゅっと目を瞑る。

「えええっ!?」

お仕置きっ!?

「私にここまで恥ずかしい思いをさせたのです。これで不甲斐ない成績だったら……」

「嫌々、今のはフォーナさんが「何ですか?」

「え?」

「な、ん、で、す、か?」

フォーナさんの目が完全に据わっている。

「イエ、ガンバリマス」

「必ずですよ!   八十点以上ですからね!   出ないと、折角の機会がゴニョゴニョ……」

後半はよく聞こえなかったが、好成績を収めないといけない事態となったのはわかった。
いや、どうしてこうなった?   試験を頑張るのが嫌だというわけではないが、いつの間にか追い込まれた状況にいる気がするのだが……

「フォーナは実は結構照れ屋さんなんですよ、クロン」

部屋の隅に座り込み、頭を抱えぶつぶつとフォーナさんが何事かを呟いている横で、エレナさんが小声で話しかけてくる。

「まあ、見たらわかりますが。フォーナさんも弟みたいな俺とデートするくらいでそんな顔を赤くする必要はないのに」

「でも、キスされたんですよね?」

「ど、どうしてそれを!?」

デートのことはエレナさんには内緒だったはず!
しかも展望台でのことも知っているとは!

「それはもう、前のデートについては根掘り葉掘り聞かせていただきましたとも、ええ。大変楽しい一日だったとか。更に私との思い出の場所である、この学園の展望台に登ったそうですね?」

エレナさんはいつもよりも笑顔なのに、なぜか迫力を感じる。

「は、はい、おっしゃる通りで……」

「私とクロンのデートについて、フォーナがこういう話題にしては珍しくえらく迫ってくるなと思っていたんです。それにあの日の夜は二人とも顔を赤くして帰ってきますし、フォーナはベッドでゴロゴロ転がりまくっていましたし……」

フォーナさん、わかりやすすぎます……

「展望台についても、どんな眺めだったとか、どう座ったのかとか細かく聞いてきたので、なんか怪しいなぁと思ったんですよ。それが!   私に内緒でデートをしていたそうで……クロンも、楽しかったのでしょうか?」

エレナさんの顔が近い。目が笑っていない……

「は、はい……」

「へえ……わかりました」

エレナさんは顔を離し、一度下を向く。そして耳元は口を近づけてきた。



「忘れられない夜に、しますからね?   試験、頑張って♡」




瞬間、身体をゾクゾクと得体の知れない快感が走り抜けた。

エレナさんはそのままフォーナさんのもとへ駆け寄り、何事かを述べた後、俺に向かって片目を瞑ってから使用人室へ戻っていた。
フォーナさんが叫び声をあげエレナさんの後を追いかける。

「……試験勉強、頑張ろう……」








春の三月二十八日、勇者候補達が再び一堂に介することとなった。

その前日二十七日放課後、俺はあの学園長室に呼び出されていた。

漆黒のドアを軽く叩く。

「どうぞ」

「失礼します」

奥から返事が帰ってき、俺は部屋へ足を踏み入れた。

「久しぶりじゃな、元気にしておるか?   今日はランガジーノではなくこいつから話があるそうじゃぞ」

アバ学園長が指差す傍にあるソファを見ると、ガルムエルハルト様が座っていた。

「よう、クロンくん」

「ガルムエルハルト様!   お久しぶりです!」

すぐさま臣下の礼をとる。

「うむ。取り敢えず、かけたまえ」

「はい、失礼します」

ソファに軽く腰掛け対面する。

「先日は大変申し訳ございませんでした」

頭を下げ、二週間前の喧嘩について謝る。

「いや、トルツカ君も配慮の足りなかったようだ、君は悪くない。それでわざわざここへ来てもらったのは、その村が全滅したという話について説明するためだ」

「説明?   ですか?」

「ああ。まず言わせて欲しい……本当にすまなかった!!」

ガルムエルハルト様が、そう言いながらいきなり大きく頭を下げた。

「えっ!?   あ、頭を上げてください!   一体何について謝られているのですか!?」

俺が謝る道理はあれども、ガルムエルハルト様が俺に頭を下げるようなことをされた覚えは全くない。

「俺は数ヶ月前、君に重大な嘘をついた」

頭をゆっくりと上げ、苦い木の実の汁を飲んだようなしかめっ顔でガルムエルハルト様は真正面、俺の顔を見据える

「嘘、ですか?」

数ヶ月前、といえば、第八騎士団分舎で戦争に行け!   と言われた時だったか。それと後は……

「開拓村……俺の住んでいた村についてですか?」

嫌な予感がする。当たらないでくれ。

「そうだ。その時は、村に被害はないと言ったな」

「は、はい」

耳を塞ぎたくなる。だが緊張で身体が震える。



「実は……山脈に沿って作られていた、開拓村達は全て破壊されたのだ」



「嘘だっ!」

拳を握り、感情的に机を叩いてしまう。

「嘘ではない。だが、君を騙したわけではないと信じて欲しい!」

「でも、あの時ガルムエルハルト様はっ!」

「ああ、確かに君のご両親は、村は無事だと伝えた。あの時は本当にその情報が入って来ていたのだ」

「じゃあ、なぜ今になってそんなデタラメなことを!」

「適当なことを言っているつもりはない。今回は確かな情報だ。既に記録も取られており現在詳細な被害状況を確認している。今伝えたのは、時間がないからだ。遠征までもう後一ヶ月しかないゆえ、喧嘩の原因を取り除くのは当たり前だろう、クロン君」

部屋が静寂に包まれる。

なんだそれは……

「……ガルム、例え事実だろうが、モノは伝えようで相手の受け取り方も違ってくるのじゃ。そんな突きつけるような言い方はいかんぞ」

すると、学園長が口を挟んで来た。学園長まで事実と言い張るつもりなのか?

「しかし、今ここで理解してもらわないと、今後の活動に影響が出ます。ただでさえ、勇者候補が喧嘩をしている状況なのです。これ以上夏の遠征に支障が出る自体は指揮官として避けなければなりません」

「それはそうかもしれんが……」

「ガルムエルハルト様は、俺たちが喧嘩しているから事実を述べたと、そう仰るのですか?   俺がどう感じようが知ったものではないと!?」

学園長のことは無視をし、話を続ける。今は俺とガルムエルハルト様が話をしているのだ。どれだけ事実だと言われようと、決して見て止められない、嫌、認めたくない。

「い、いや、そういう訳ではないのだが……」

「じゃあどうして、明日トルツカ君達と顔を合わせるという時にそのような確かめようのないことを突きつけたのですか!?   トルツカ君が開拓村のことでしゃしゃり出て来なかったら、その村が全滅した、というガルムエルハルト様が得ている情報は、俺に知らされることはなかったと?」

俺たちが喧嘩をしているから、それを収めるためにこの受け入れがたい話を持って来たとしか捉えることができない。

「そんなことはない。いつか必ずと伝えるつもりだった。それが早まっただけなのだ」

「いつかって……俺はそもそも、勇者候補として世界を救おうと決めたのは、大切なものを守るためなんです!   父さん母さんを、アナを、あの村を守るために勇者候補になることをうけいれたんです!   それが全部なくなってしまっただなんて……俺はどうしたらいいんですか!!」

例え世界を救ったって、大切なものがない世界であるならば、俺にとってなんの意味もないのだ。俺にとっての世界は、未だにあの村なのだから。

「……だが君は書類に署名をし、勇者候補として世界を救うと決めたはずだ!   勇者候補は一人でも欠けることは許されない!!」

ガルムエルハルト様の大声で、身体がビリビリと痺れる。

「二人とも、一度落ち着くのじゃ!」

「「!!」」

学園長も叫ぶ。と、空気が再び静まり返った。

「ガルムも明らかに言いすぎじゃ。クロン君はそもそもこの学園の生徒なのじゃぞ?   その生徒を物のように扱う発言は撤回してもらおう!   それにクロンもじゃ、勇者候補云々は別にして、学友との不要ないがみ合いはしては駄目じゃ。今のお主は、認めたくないものを頑なに拒否しようと躍起になっておるのじゃ。両者とも、まずは頭を冷やせ」

冷やせと言われても……いきなり君の家族は全員死にました、と言われて冷静でいられるわけがない。

「クロン君、すまなかった」

ガルムエルハルト様が軽く頭を下げる。

「いえ、こちらこそ」

俺も、渋々謝り返した。

「ですが」

「ん、なんだ」

「開拓村のことに関しては、やはり受け入れられません。今はもうこの話は辞めてもらえますか?   トルツカ君にも、謝っておきますので」

「……そうか、わかった。俺も、証拠を提示出来ていない以上、いくら口で説明しても理解が得られないことがわかった。この話は一旦保留にしておく」

出来ればなどと話題に出さないで欲しいものだが。

「じゃあ、明日の朝九時、今度は模擬戦場だ。遅れないように!」

ガルムエルハルト様が立ち上がる。

「はい」

俺もソファから立ち上がり、臣下の礼をした。扉から出ていくのを見届け立ち上がる。

「クロン、ガルムは昔から譲らない時はとことん譲らない男なのじゃ。許してやってはくれまいか?」

学園長は、眉をひそめそう言う。

「許すもなにも……あの話は信じていませんから。俺の中ではなかったことにします」

「そうか……その判断が間違っていないといいのじゃがな」

「言われなくても、大丈夫ですよ。では、俺もこれで」

村に帰れば、父さん母さんが出迎えてくれて、アナがあの笑顔で一緒に遊ぼうと言ってくれるはずだ。世界を救い、日常を取り戻す。それが俺の使命なのだ----


          

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