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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第53話


「本当、あの二人には困ったものだね。いくら反ガイアナガラ派といっても、世界の危機なんだよ?   もっと協力的になってもらわないと。私達ハイエルフはラビュファト様から任された世界の管理者なんだから……政争に明け暮れている場合じゃないっ!」

「そうですね、なぜあんなに殿下に反発するのか……アナ様の御前というのに、本当に申し訳ありませんでした」

私達はまた、ガーラさんの部屋へ帰って来ていた。

結局、飛行船(そのまま空を飛ぶ船なのだそう。そう言われても、一体どんな乗り物なのか全く想像できない)による『愛の乙女作戦』は賛成多数により可決された。会議の勢力そのままに、八対四だ。
反対したのは、アーデースさんとゲハマさんの男性組、そしてそれに加えてルシファラさんとロチオマヤタの(エルフ基準で)若い女性二人。

「ごめんね、最後まで見苦しいところを見せてしまって」

セドゥナさんとガーラさんが頭を下げる。

「い、いえ。私の方こそまだ何もしないのにこうしておもてなしを受けさせてもらっていて……それだけで文句なんて言えません」

「こんなことを言うのもなんだけど、神の使者、として君がこの国に存在するだけでとても役に立っているんだよ。たった一日で国中に噂が伝わったし、初めて世界の危機を体験するわたしのような若者世代は特に君のことを支持しているみたいだよ。やはりそれだけ、不安が大きかったということだろう」

「ええ、その場にいらっしゃるだけで威光を放つ、まさにラビュファト様の遣わされた者だといえるでしょう」

そんなことになってるんだ。なんか騙しているみたいで、ちょっと悪い気もする。けど、役に立っていると言われると、気が軽くはなる。

「そうだね。アナちゃんには、これからも我々ハイエルフ、エルフと仲良くして欲しいな。これは人間だとか神の使者とか関係なく、単純に我らの友人としてね」

「お友達……はいっ!!」

村では家族を含め(クロン以外)誰も構ってくれなかったけど、ここでは違う。みんなが私のことを見てくれるし、良くもしてくれる。居場所があるんだ!

「アナちゃん、嬉しそうだね?」

「えへへ、昨日も言いましたけど、友達がほとんどいなかったから」

「「…………」」

と、ガーラさんとセドゥナさんが顔を見合わせた。

「あ、あの、でも、ここにはガーラさんがいるし、それに、皆さんが優しくしてくれるので、今は嬉しさで心がいっぱいです!」

ぎゅっ

「ガーラ、さん?」

「アナちゃん、辛いことがあったら、いつでも頼って良いからね?」

「は、はい」

あの良い匂いとともに、ガーラさんが私の身体を包み込む。

「頼り頼られる。それが、友達なんだよ?」

頼り頼られる……私も、もっとガーラさんのことを。

「あの……それじゃ、話を聞いてくれませんか?」

「いいよ、なんでも話してごらん!」




「と、とても好きなんだね!」

「大好きです。この世で一番」

「そうかい、あはは……」

「殿下、お顔が真っ赤ですよ」

「し、仕方ないじゃないかっ!   恋愛なんてしたこともないんだから。それにセドゥナも赤いじゃない!」

「うっ……殿下は王族ですから、普通の恋愛ができないのは当たり前です」

「ふ、ふん。パパとママは好き合って結婚したらしいし、私も出来ないわけじゃないもんっ」

”もんっ”て。
そうか、ガーラさんは恋愛したことがないのか。二百四十七歳なのに、エルフって時間の感じ方も人間と違ったりするのかな?

私は、今一番の心配ごとであるクロンのことについて思っていることをぶちまけた。すると話を進めるうちに二人の顔がどんどんと赤くなっていって面白かった。
エルフは男性が少ないらしい(約八対二)ので、そういう機会がそもそも少ないのだろう。

「クロンくんねえ。一度会って見たいな、アナちゃんをそんなにメロメロにさせた少年にさ」

「メロメロじゃなくて、デロデロです。デロンデロンのトロトロです。心もあそこもぐじゅぐじゅです」

「そ、そうかい。ん、あそこって?」

「ここです」

私は自分の下半身を指差す。
と、ガーラさんの顔が更に赤くなった。

「殿下はウブなのですね」

「仕方ないじゃないか!」

「またそれですか……」

「セドゥナこそどうなんだよ」

ガーラさんがセドゥナさんを睨みつける。するとセドゥナさんはゆっくりと顔を横に晒した。

「そらみろ、人のことを言えないじゃないか」

「わ、私は殿下の使用人ですから。時間がないだけですっ」

「じゃあ、時間をあげるから」

「…………相手もいませんが」

「あはは、強がりなんだからさ」

「くっ……」

「……アナちゃんは流石にないよね?」

「何がですか?」

「その……えっちなこと」

「殿下、子供に訊ねる話ではありませんよ!」

「ありません」

「だ、だよね。あはは」

「当たり前です!   まだ七歳なのですよ!   我々でいう七十歳なのです」

エルフの時間感覚って、やっぱり変だ。じゃあガーラさんは私達人間でいう二十四、五歳くらいってことかな?   こんなに美人なのに、人間だったら求婚の嵐だろう。

「でも、ひとりではしますよ」

「「えっ!?」」

「その、お父さんがえっちな本を隠し持ってて……自分で弄ったらそれからハマっちゃって。胸も少しずつ大きくなって……」

勿論、字だけの本は高級品なので無かったが、、家には教育用の絵本が何冊かあった。その中に、そういう絵本が混じっていたのだ。

勿論スるときに妄想するのはクロンだ。

「ひゃあーっ!」
「ま、まだ子供ですよね?   失礼ですが、歳を偽ったりされてはいませんよね!?」

「はい」

冷静な様子のセドゥナさんもついに我慢できなくなったようだ。
ガーラさんが、顔を両手で覆ってしまった。

「……こ、この話はここまでに致しましょう!   そろそろお昼の時間ですからっ!」

セドゥナさんが強制的に話を切り上げてしまう。えー、もっとクロンのかっこよさを伝えたかったのになぁ……駄目だ、考えただけですぐ疼いてしまう。でもそれがとても気持ちいい。
クロンのことを考えている時が、頭も身体も一番幸せな時間だ。でも直接出逢えた時はもっと……

お昼もまたあの美味しい木の実や野菜を食べ、昼からは飛行船の見学に行くこととなった。





「これが飛行船だよ」

な、なにこれ。大っきい……

「あはは、そんなに見上げたら、首が痛くなるよ?」

「で、でも……こんな乗り物見たことがなくて」

飛行船は紡錘形ボースイケーという形だ。全体的に丸まっており両端が尖っている。船の横の真ん中らへんが飛び出している。
更に、真っ白なのだ。建物の中は茶色っぽいためとても目立っている。まるで宝石のようだ。

「アナちゃんは、普通の船は見たことがあるのかい?」

「いいえ、村の近くに川が流れているくらいで湖も、勿論海もありませんでした。海には大きな船があると聞いたことはありましたが」

「なるほど。一応説明しておくと、この飛行船は、高さは帆船の胴の部分二隻ぶん、長さは三隻ぶんあるんだよ」

と言われても、やはりよくわからない。けど、ガーラさんのいう通り縦も横も圧倒される大きさだ。

「これは我らハイエルフの技術をもってしてもなかなか成し得なかったものなんだ。これだけ巨大なものを宙に浮かべるだけではなく、長距離の航行をするわけだからね。強度や速度等の基本スペックは勿論、居住性を良くすることも大変だったんだ」

等々、ガーラさんはこの飛行船の開発秘話を述べ始めた。

「へ、へえ」

「あっ、ごめんね、難しかったかな?」

「いえ、なんとなくはわかります。でもガーラさんって、職人さんみたいですね。村にいた道具作りのおじさんも、鍬の一つ一つにまでとても思い入れがあって、そのぶん話が長いとクロンが言っていましたから」

「あはは……そのおじさん、私と気が合うかもね」

ガーラさんが照れ笑いをする。

「まあ、死んじゃいましたが」

『…………』

ガーラさんだけでなく、後ろに付き添うセドゥナさんとアエズロカさんもが一斉になんと言ったらいいか困ったという風な微妙な顔になる。

「そ、そんなつもりじゃ!」

慌てて場を取り繕うとする。

「嫌、ごめんね。アナちゃん」

「あぅあぅ」

抱きつかれ頭をよしよしと撫でられる。私も軽く抱きつき返す。



私はこの時に気がついた。私の気持ちは勘違いされているのだと。
村を破壊され、そこに住まう人たちも皆殺しにされた。それは確かに憤りを感じて止まないことだ。ラビュファト様の慈悲の心に触れたとは言え、復讐の心が完全になくなったわけではない。
だが、私が一番怒りを覚えるのはそのことに対してではない。

クロンとの思い出を、生活の場を破壊されたからなのだ。

私の心は、前にも増してクロンで一杯なのだ。
あの告白・・された時、一生をこの人に捧げると誓ったのだ。だが、その愛しの相手は今は遠方におり会うことができない。そのもどかしさと、帝国軍の蹂躙が重なり、この行き場のない感情を持て余しているだけなのだ。

もし、今すぐにクロンに会うことが出来たならば、私は復讐の心も神の使者という立場も捨て二人の愛の巣作りに全てを注ぎ込むだろう。

私は村では外に出ない子供と思われていたようだが、少し違う。出ない、のではなく出られない、が正しい。三年前、盗賊が村を襲った時に、森へお母さんのためのお花を取りに行っていたところ先日同様暴力されかけたのだ。
その時に助けてくれたのが、クロンだった。
それ以来、外に出ようとすると身体が震えてしまい、扉から先に足を踏み出せなかった。だがある時、クロンが私の手を引っ張って外の世界へ連れ出してくれたのだ。

それからというもの、外出する機会は少ないままではあったが、週に一回ほどはクロンに会いに自ら外へ出られるようになった。クロンに会えると思うと、怖さが吹き飛ぶのだ。彼は、私の心も体も救ってくれた王子様なのだ。

クロンは私の中で絶対の存在であり、はっきり言ってラビュファト様よりも上の存在だ。神よりも大切で、そして愛しい人。それが、彼なのだ。

その彼との思い出の場所であるあの村を破壊された、そのことは許せることではない。けれど、私には力がない。未だにラビュファト様からの預言もないし、剣を振るう技術も魔法の素養もない。本当にただの女の子なのだ。
だから私は、今はこのエルフ達にお世話になることに決めた。いつかきっとクロンに出会えると信じて。



「どうしたんだい」

「え?   いえ……ガーラさんっ」

彼女の胸めがけて再び抱きつく。

「おわっ!   はいはい、いつでも抱きついていいからね〜」

「仲のよろしいことで」
「ええ」

セドゥナさんとアエズロカさんが、ガーラさんの後ろで微笑むのが見える。



クロン、待っててね、私から会いに行くから!






「では、出発!」

ガーラの合図で船渠と呼ばれる船の組み立て工場の天井が左右に別れていく。光が差し込み、白い船体を照らす。

夏の一月一日、ついにこの『ユグドラス』を発つ日がやってきた。
この約三ヶ月、色々なことを勉強しながら、”ラビュファト様の使者様”として、ハイエルフ達に愛想を振りまき立場を確立させていった。
今では時期女王たる第一王女であるガーラよりも人気が出てしまって少し嫉妬されたくらいだ。

「ガーラ、私はここから手を振ればいいんだね?」

「うん、ぜひ頼むよ。わたし達に希望を託したもの達に、勇気と期待を与えるために!」

顔の前にある伝達管から返事が聞こえた。

飛行船の左右から突き出した展望室と呼ばれる全面透過壁の部屋から、地上に向けて手を振る。船渠はそれほど広くないとはいえ、所狭しとたくさんのハイエルフ達が並び、私のことを、船を見上げている。

「いってきます!」

声は聞こえないだろうが、そう叫び大きく手を振る。すると、ハイエルフ達も一斉に手を振ったり敬服のポーズ(手足頭を地につける格好)をしたりと返してくれた。

>間も無く前進を始めます、ご注意ください!<

今度は天井にある伝達管から声が聞こえる。私は目の前にある手すりをしっかり握った。

一瞬ぐらりと船が揺れ、体に抵抗を感じた後、景色がゆっくりと後方に流れ始めた。
目的地はグリムグラス神皇国が首都、ソラプイワード。約一ヶ月の旅路となる。

さあ、旅の始まりだ!   世界を救うため、そして、クロンに会うための----


          

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