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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第50話


「わたしは今、ここに宣言する。この御方こそが、神の使いであらせられると」

ガイアナガラさんが、堂々と宣言する。

「見よ、この印を!」

すぐ後ろに、大きな半透明の板が現れ、私の首筋が映し出された。

『おおおおお!!』

私が髪をかきあげると、集まった人々から、感嘆の声が漏れる。首筋のちょうど真ん中には、ラビュファト様が持っていた杖の先についていた飾りと同じ紋様が浮き出ている。

「これぞ、間違いなくラビュファト様の使者であると言う証だ!   慈愛の神、その紋章。よって、アナ様をエルフの国の国賓として迎え入れることに決めた!」

促され私が軽くお辞儀をすると、人々が拍手をする。恥ずかしい……




話は数時間前に遡る。

使者シシャ?」

「そう、間違いない。あなたこそ、我らが崇め讃える慈愛の神、ラビュファト様が遣わされた使いの者なのだよ!」

「はあ」

「むっ、信じてないね」

「そんな、いきなり言われても……」

ラビュファト様と会ったことは確かだが、別になにかお使いを頼まれた訳じゃない。

「ガイアナガラ様、その娘が神の使いであるという証拠は?」

女性が言う。

「これだよ、これ。こっちにおいで」

「畏まりました」

こちらで歩いて来、ガイアナガラさんがさす、私の首筋を覗き込む。

「!   こ、これは!!」

と、いきなり足を折りたたんで座り込み、両手と頭を地につけた。

「し、使者様!   ラビュファト様はまた・・我らを助けてくださるのですね!」

「また?   あ、あの、頭を上げてください!」

「しかし!」

「セドゥナ、頭を上げなさい」

「は、はい」

女性ことセドゥナさんは、感極まる顔をしている。

「えっ、あの、私何かしましたか?」

今、泣かすような何かがあっただろうか?

「いやいや、大丈夫だよ。セドゥナは前の時・・・から生きているからね。三百年ぶりにラビュファト様の慈悲に触れて喜んでいるんだよ」

ガイアナガラさんがセドゥナさんの肩を抱きながら言う。

「三百年ぶり……?   私は、まだ七歳ですけど」

「七歳!?   ほんとうかい!?」

「はい、間違いないはずです」

「うーん、人間の七歳にしては、難しい言葉を知っているし、妙に大人びてもいる気がするけど……」

そうかなあ?

「あの、そもそもその三百年ぶりだとか、前の時っていうのは、何のことなんですか?」

「ああ、そうだね。教えようじゃないか。我々エルフには、ある言い伝えがあるんだよ」

「へ?」

「<世界の危機が訪れる時、神の使者が現れ我らを導くだろう>と」

「世界の、危機?」

「そうだ。ん、知らないのかい?」

「はい、何のことかさっぱり……」

「むむ、そうなのか。人間の国ではまだ知られていないのかな?   このエルフの国では、既に対策が練られているんだけどね」

「それは一体どういうものなのですか?」

「うん、大体三百年に一度のことなんだけど、世界樹はその胎内に溜まった瘴気を吐き出すんだ。世界樹の根は文字通り世界中に張られている。わたし達が魔脈と呼んでいるそれは、生き物が持つ魔力の元となっているんだ」

「魔力の元?   私達人間が魔法を使えるのは、その世界樹があるからということですか?」

「そういうことになるね。人間は勘違いをしているみたいだけど、この世界は大陸が上から下に貫いているんじゃない。世界樹を中心として、端に向かって。円の中に八つの大陸が広がっているんだ」

「大陸は、八つもあるの!?」

知らなかった。一つしかないのだと思っていた……

「その通り。もう少し世界の仕組みについて詳しく話すと、生き物は皆食物連鎖の渦の中で日々を生き抜いているんだ。強い生き物は弱い生き物を殺し食べ、生きる糧とする」

「わかります」

「弱い生き物は、植物を食べる」

「はい、そうですね」

「では、植物は何を食べるの?」

「え?   ……土、とか?   あと、水も?」

そんなの、考えたこともなかった。
開拓村では、畑に色々なものを巻いていたけど、全部土に混ぜていたから、野菜は土を食べて育っているのだと思っていた。流石に水がないと育たないことくらいは知っているが。

「あはは、面白い発想だね。正解は、魔素マソ、だよ」

「マソ?」

「この魔素こそ、魔力の源なんだ。植物は世界中に張られた世界樹の根が垂れ流す魔素を、それが染み込んだ地中から吸い取るんだよ。魔素を食べながら育った植物は、その中にたくさんの魔素を溜め込むこととなる。では、それを食べる動物は?」

「同じように、魔素を溜め込むということですか?」

「そういうことだね。なので君たち人間は魔素を貯めた植物や動物を食べることで、自然と魔素を補給していることとなるんだ。では、それらの生き物から魔素が無くなると、どうなると思う?」

「えっと……もしかして、死ぬ?」

「その通りだ。魔素は体内の様々な機能を保つために少しずつ消費される。それが出来なくなると、体調が悪くなっていき、最終的には……つまり世界の危機とは、魔素がなくなり生き物が全滅することなんだよ」

「そんな!」

ぜ、全滅だなんて……

「世界樹は大体三百年周期で瘴気を発する、と言ったね。瘴気はわかる?」

「はい。魔物が生まれる原因だとか」

「その通り」

「しかも、私の村はついこの間、狼の魔物に襲われたんです!」

あの時は死ぬかと思った。私の未来の夫が助けてくれたけど。

「な、なんだって!   その村は、どこにあるんだい?」

ガイアナガラさんだけでなく、セドゥナさんも驚いた顔をする。

「えと、グリムグラス神皇国の北、開拓村で育ちました」

「あそこか……ということは、帝国との国境だね?」

「はい」

お父さんからそんなことを聞いたことがあるな。

「もうそんなにコト・・が進んでいるだなんて……これは大変なことになりそうだね」

「ええ、そうですね……至急対策会議を開くべきかと」

会議?

「そうしよう。では、さっそく御触れを出して来てくれ」

「御意」

セドゥナさんは入って来たときにした格好をもう一度し、部屋から出て行った。

「ふう。話を戻そう。で、その、瘴気は通常ならば、魔素の放出と引き換えに根っこが吸い取ってくれるんだ。それが、逆になる。この約三百年に一度の瘴気の放出は、世界樹の中に溜まった不要な物の排泄と考えられているんだ。私達生き物がするようにね」

そう考えると、なんか汚い……

「瘴気の排泄は数年単位で続く。同時に、段々と世界樹の根への魔素の供給が止まって行くんだ。世界樹の根の中の、我々でいう血管は、上下に分かれて繋がっていて、更に管が左右中の三つに仕切られているんだ。通常は上の管から下に向けての流れがある。世界樹の幹から始まるその流れは世界の中心から端へ向けられていて、管の左からは魔素を放出し、右からは瘴気を吸い取る。そして世界の端っこで下のくだへぐるりと回り、再び世界の中心、世界樹へ戻る間に、世界中で吸い取った瘴気を浄化するんだよ」

「へえ」

そんな複雑な仕組みなんだ。

「でも、その、吸い取った瘴気は完全に浄化できるわけじゃない。その浄化出来なかった瘴気が溜まる限度が三百年なんだ。そして今度は下の管から上の管へ流れが変わる。通常使われない、仕切られた真ん中の管を伝ってね。下の管は放出する機能はないから、世界の端に行き上の管へ瘴気が流れ込んだ瞬間、放出が始まるんだ」

「じゃあ、瘴気は端から真ん中へ向かって溢れて行くということですか?」

「よくわかったね、その通りだよ」

じゃあ、私の村まで瘴気の影響が現れているとしたら、その下にある土地はもう……

「瘴気の影響はすぐに現れるわけじゃない。言った通り、何年もかけて少しずつ放出されるんだ。勿論、端の土地の方が濃くなるのは早いけど。でも、君の住んでいた神皇国の北にある村が魔物に襲われたからと言って、その南にある首都や、その更に南にあるロンデル王国が滅亡する、というわけではない。勿論、既になんらかの影響が現れていたとしても不思議じゃないけどね」

じゃ、じゃあ、クロンは無事ってことかな?

「兎に角、君の話から推測するに思ったよりも展開が早い。至急話し合いをして新たな対策を取らなければ」

--コンコン

「どうぞ」

「失礼致します」

扉が開かれると、またセドゥナさんが部屋に入ってあの格好をした。

「殿下、準備が整いました」

「わかった、向かおう。よし、君もおいで!」

「え?」






先程ガイアナガラさんから教えて貰った通りに行動をし、一先ずわたしの紹介は終わった。

「では続いて、会議に移ります。殿下、アナ様、どうぞこちらへ」

「はい」

円柱型の部屋には同じような丸い机が真ん中に置かれており、十二脚の椅子が配置されている。部屋の一番奥には、それらより一回り大きい装飾の施された椅子が二つ置かれており、私はそこの右側に座らされた。左側には、ガイアナガラさんだ。

「まずは、世界樹のエネルギー状況を報告致します」

「うん」

ガイアナガラさんが頷く。

ガイアナガラは本当にお姫様だった。この”ハイエルフ”の国『ユグドラス』の第一王女で、次の女王様だという。
ハイエルフというのは、エルフの上位種族で、耳が長く尖っており、魔力に長けているという特徴がある。
普通のエルフはというと、耳が尖っているのは同じだが、人間とそう変わらない長さらしい。なので耳を見ればすぐに見分けがつくという。
だが人間は、耳が尖っているものを全てエルフと一括りにするため、ハイエルフとしては一緒くたにされたくないのだとか。


ユグドラスは代々女性が王となる珍しい国で、現在ガイアナガラさんはその勉強の一環として「『世界の危機』対策会議」の議長を務めているのだという。他にも、武器の取り扱いや知識、経済の勉強もしているという賢く強い女性なのだ。
カッコいいなあ。

「現在、数値はマイナス五十付近を行ったり来たりしています」

机の一番反対側にいる女性が、さっき空中に現れた半透明の板を使って、図を出して説明する。これは、樹?   世界樹ってこんなに大きいんだ。見たことがない文字だから、なんて書いてあるのかはわからないけど、矢印が書いてあるのはわかる。

それに数値?   マイナスって?

「ああ、その前に。アナちゃんにもう少し詳しく説明しないとね」

ガイアナガラさんが横を向き、私のことを笑顔でみる。

「殿下、ラビュファト様の使者様に向かってその態度は!」

椅子に座る白髪を伸ばした年寄りの男性が立ち上がり叫ぶ。

「い、いいです!   好きなように呼んでください!」

「ほらね?」

ガイアナガラさんがどやっと男性を見る。

「くっ」

男性は、ガイアナガラさんを睨みつけた後、大人しく椅子に座った。

「ごめんね、アーデースは反ガイアナガラ派なんだ」

ガイアナガラさんが小声で話しかけてくる。あのおじいさんはアーデースというのか。

「反ガイアナガラ派?」

ガイアナガラさんを嫌う人たちがいるってことだよね?    なんでだろう。

「また、教えるよ」

「で、数値というのは、世界樹が通常流す魔素の量を表したものなんだ。一万から始まり、マイナスに行くと今度は瘴気を流していることを表す。今は瘴気が五十程度流れ出しているようだね」

ガイアナガラさんは声の大きさを元に戻し、説明を始める。

「それは、具体的にはどのくらいの量なんですか?」

「魔素が一万あれば、世界中の土に魔素が行き渡る。逆に瘴気は千あれば世界中に溢れてしまうんだ」

「じゃあ、百あるうちの五ということですか?」

「そうなるね」

それって結構溢れてしまっているってことなんじゃ?

「ありがとうございます」

「ううん、わからないことがあったら、なんでも聞いてね。じゃ、続けて」

「はい」

女性は、棒を使って図を指し示しながら話を続ける。

「監視ネットワークによりますと、瘴気はこの辺りで溢れ始めていると推測されます」

図に書かれた青に浮かぶ八枚の緑色のうち一つを拡大し、その一番端、世界の端の手前の土地を指す。
世界って本当に円盤みたいになっているんだ。それに端っこは滝になってる!

「これは……獣人の大陸かい」

「その通りでございます」

「ということは、一番南にある国はニャンツー猫国か……」

ビョウコク?

「猫の国のことだよ」

「猫?   猫って、あの絵本で見たことがある耳が三角の、大きな目をした可愛い動物のことですよね?」

「本物は、見たことはないのかい?」

「はい、鶏や兎は見たことがありますけど……貧乏な村だったので、食料にならない動物の面倒を見る余裕はなかったんです」

「そうなのか。では獣人については?」

「知りません」

「お主、先程からわからないことだらけではないか!   本当にラビュファト様の使者なのか!?」

出席者の一人、つるつる頭のおじさんが机を叩いて立ち上がり叫び始めた。

「そもそも、その紋章にしても、偽物ではないのか?   まさか、人間の国からのスパイのでは!」

瞬間、空気が変わる。皆の視線が私に集まる。

「え、その……スパイ?」

「ちょっとみんな、待ってよ!   なんでそういう話になるのさ」

ガイアナガラさんも立ち上がり、私の前に立ち塞がる。

「アナちゃんはまだ七歳なんだよ?   人間の七歳と言っても、まだまだ子供なんだ。それに田舎暮らしで猫も見たことがないくらい。知らないことが沢山あるのも当たり前でしょう!」

「しかし、人間は卑怯な存在。魔法を使って化けているやもしれません!」

「そんなことを言い出したら!   ゲハマ、君こそ人間が化けているかも知れないじゃないか」

「そ、それは!」

ゲハマと呼ばれたそのおじさんが、言葉につまり苦々しげな顔をする。

「紋章は、偽造することは不可能。それは過去に証明されているはずだ。あの人間がどうなったか、忘れたわけではあるまい」

あの人間?   昔に、この紋章の偽物を描いた人がいたってことかな?

「…………ぐっ」

「わかったら、黙って座るんだ、いいね?」

「……ちっ」

「ふん」

視界の端でニヤニヤしていたアーデースさんが舌打ちをする。うん?   なんか怪しいなあ。

「ごめんね、アナちゃん」

椅子に座り直したガイアナガラさんが頭を下げ謝ってくる。

「い、いえ、私は大丈夫ですから」

「そうかい?   本当、頭の悪い奴ら……」

ガイアナガラさんが机に座る面々を睨みつける。特にアーデースさんとゲハマさんには念入りに。

「すまない、続けてくれ」

「はい」

会議は続く--





          

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