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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第46話


「頑張れよー」
「おう!   お疲れさま!」

客席と戦場をつなぐ廊下でカッツと鉢合わせ挨拶を交わす。互いの拳をコツリと合わせ、戦場部分へ足を踏み入れた。

「最後の一人だからな!   頑張れよ、では始め!」

ん? って、俺だけじゃん!?   学園長にランガジーノ様に。それに生徒たちみんなの視線が一点に集まる。

き、緊張する……

「起動シマス」

ゴーレムの目が青く光り歩き出す。ええい、やってやらぁ!

「くらえ!   <光あれビーム!>」

まずは人差し指だけで光の筋を放つ。

「ギッ!」

光はゴーレムの左肩を貫いた。だがゴーレムは停止しない。やはりこの程度じゃ倒すことはできないか。

「まだまだ、<ビーム!>」

今度は指を三本使った、一番強力なやつだ。

「ガガッ!」

今度は頭を丸ごと吹き飛ばし、後方の壁にそのまま光が激突する。障壁と接触し激しく火花が散った。

「あぶなっ」

面積が半分に分けられている為、減衰せずにそのまま当たってしまったようだ。障壁があってよかった。

「ハ、ハイジョ……」

ゴーレムはそれでもまだ足を動かそうとする。今までの生徒たちの戦いを見ていて、このゴーレムは胸に肝心な部分があることがわかっている。

「最後にこれだっ!   <光よ描けスラッシュビーム!>」

とどめにとっておきの技だ。光が半円の弧を描きゴーレムの胸を切断する。

切断された上半身と下半身が真っ二つに崩れ落ちた。

「そこまで!」

……ふう。これくらいならまだまだ魔力も体力も有り余っているな。鍛錬の成果はきちんと現れているようだ。

俺は客席に向かって一度お辞儀をし、出入り口から廊下に戻り階段を使って上へ昇った。

「なかなかやるな、クロン!」

カッツが出迎えてくれる。

「ああ、毎日の成果が出たようで良かったよ」

「使用人と鍛錬してるんだっけ?   しかも美人な女性なんだろ?   羨ましいぜ!」

「そんなでもないけどな。普段は落ち着いているけど、指導するときは結構厳しい人だし」

「ふーん。厳しいのもまたアリだと思うけどなぁ」

カッツ、何の話をしているんだお前は。

「では皆、一度下に降りるように!   壁を戻すから少し待て!」

ホサリ先生に代わり、ヨッスル先生が箱を操作する。と、地面を別けていた白っぽい透明な壁が下へ下がり始めた。

「……よし!   お前らいいぞ!   御二方もお願いします」

「わかった」
「うむ」

先生と生徒、学園長とランガジーノ様が一緒になって下へ降りる。

するとプッチーナが横を向き話しかけてきた。

「ん、どうしたんだ?」

「……学園長が、昼休みに自分の部屋に来いと言っていた」

「学園長の部屋に?   何故だろう?」

「わからない。これだけ伝えろと」

「そうか、わかった。ありがとうな」

プッチーナはコクリと頷いて、再び前を向いた。

「では整列しろ!   最後に一言ずつ総評をもらう!」

俺たちは番号順に縦八人ずつ五列に並ぶ。

「ではまず学園長からお願いします」

ヨッスル先生が真ん中を空ける。学園長がトテトテと歩いてそこへ立った。

「うむ、やはり一組とだけあってなかなか見ごたえのある時間だった。ただ、今回はゴーレムという動く人形が相手であった。人間が相手になるとまた違った方法を考えなければ攻略できない場面も出てくるであろう。忘れてないな、お前たちの中からも、期末試験後に帝国軍討伐遠征隊が編成される可能性があるということを」

学園長がそう言うと、少し緩んでいた空気が一気に引き締まった。

「相手は敵国の軍人じゃ。お前たちが子供だろうが、女だろうが、容赦はしないじゃろう。歴史から見てもその争いは常に熾烈なものであった。幸い我が国は不思議と異能持ちスキルホルダーに恵まれている。だからこそこうして国を挙げてお前たちの育成に力を注いでいるのじゃ」

学園長は生徒たちを左から右へと見渡す。

「別に常に緊張しろと言っているわけではない、心の緩急はとても大切なことじゃ。だがそれと己の使命を忘れることとは同じではない。この学園を何故受験したのか、入って一体何を学びどのような生き方をしたいのか。もう一度、自分の心に問い直してみるといいじゃろう」

己の使命……そう、俺は勇者候補なのだ。それは忘れてはいけない立場だ。
初めは半ば拉致されたようなものではあったが、書類に署名をし、受験をし、今も毎日鍛錬をし続けている。その目的はなんなのか。
世界を救う為、俺のスキルが役に立つかもしれない、その為の努力は惜しんではならない筈だ。

「まあ、総評としては、良くやった、の一言じゃな!   昼からも授業があるじゃろうが、今の模擬戦は全員自信を持って良いぞ!   終わりじゃ」

学園長は元の位置に戻る。

「ありがとうございました、では続いてランガジーノ・ミサ・フォン・グリムグラス第三神子殿下の御言葉を賜る。みな、臣下の礼をとるように」

俺たちはみな地面に膝をつく。

「うん、みんなご苦労様!   学園生と雖も特別扱いはできなくてね、そんな格好をさせてすまない。だが、私でなくとも、軍に入ることになれば規律が求められる。階級によって明確に立場が分けられ、上官の言うことは絶対となる。それは今度の遠征も同じだ」

ランガジーノ様の表情が、笑顔から真剣なものへと変わる。

「期末試験の結果によって選ばれる、それは日々の努力によってのみ現れる結果だ。ここの試験は、付け焼き刃でどうにかなるような試験じゃないぞ?   座学・実技共に己の今持つ全ての力を発揮することが求められる。今日の授業は充分に納得のいくものであったか、客観的に自己評価をして欲しい」

再び、口角を上げる。

「が、今は素直に褒めようとしよう。素晴らしかった!   この国の将来がとても楽しみだ。これからも応援しているよ」

『はっ!』

皆一斉に声を揃えて返事をする。

「うん、いい返事だ。じゃ、僕の話はこれで」

ランガジーノ様は最後に俺に向かって片目を目をパチリと閉じて学園長の隣へ戻った。

「……ありがとうございました。全員起立!」

ザッ、と生徒たちが直立する。

「これにて午前の授業を終わる!」

『ありがとうございました!』








「クロン、昼はどうするんだ?」

更衣室で着替えていると、カッツが訊ねてきた。

「昼はちょっと用事があるんだ」

「用事?」

「ああ。どうしても外せないんだ、すまないな」

「いいや、いいぜ。わかった、俺は他のやつと食べてくるわ」

「ああ」

俺はさっさと着替えを済ませると、雑談している男子たちを尻目に一足早く更衣室を後にした。



「うわっ……なんか物々しいな……」

俺の部屋と同じく、学園の五階に学園長の部屋はある。展望台を除けば五階が最上階だ。

学園は全体を宮殿の城壁と同じ高さの大きな城壁で囲まれており、口の形をしている本棟と、その奥の方には田の形をしている別棟が。
本棟の左側には五つの訓練所、三つの模擬戦場、鍛錬場があり、右側には大講堂と教会、職員用の棟がある、

本棟などがある区画と小さめの城壁で遮られた右側には男子寮が、左側には女子寮がある。

学園長室は職員棟五階の一つだけある部屋がそれだ。

「よ、よし!」

--コンコン

「入れ」

中から少しこもった声が聞こえた。

「失礼します!」

俺は扉を開け部屋の中に入る。

と、目の前に大きな机があり、その向こう側の椅子にちょこんと学園長が座っているのが目に入った。

「うむ、よくきた。そこに座ると良い」

学園長が部屋の右端にあるソファを指差す。
ソファには、ランガジーノ様が既に座っていた。

「ランガジーノ様!」

「やあ、久しぶりだね」

俺はすぐさま跪く。

「ははは、今はいいよ。それより早く話をしよう。君も午後から授業があるだろう?」

「は、はい。では失礼します……」

俺はランガジーノ様とは反対側、机を挟んで扉側のソファに軽く腰を下ろした。

「それで、話とは?」

学園長に問いかける。

「話があるのはわしではない」

「僕が頼んだんだ。アバ先生にね」

先生?   アバ、は確か学園長の名前だったよな。

「ははっ、誰のことだ、と言う顔をしているね。アバ先生はその名の通り、そこに座っている学園長のことだよ。僕はこの学園の出ではないけど、家庭教師として当時宮廷魔法師長だった先生に教えを受けていたんだ」

「きゅ、宮廷魔法師長?」

すごい偉そうな名前の役職だ。

「そう。宮廷、は何かわかるよね?」

「はい。宮殿で働く人たちが、職場、つまりは宮殿内部を指してそう呼ぶんですよね?」

「その通りだ。もっと正確に言うと、宮殿の部署で働く人たちが使う言葉だね。例えば、エレナのような侍女たちは奉仕部という部署に就いているんだよ」

「へえ」

「謁見の時にいた大老や老中は最高指導部、横にずらりと並んできた貴族たちも色々な部署に勤めている偉い人たちだったんだよ」

「お、俺はそんな人たちの中で謁見を……」

「ああ、あの時はかなり特殊な状況だったからね。陛下の意図は未だにわからないが、少なくとも顔は覚えられたかもしれない」

「えぇ……」

「ははは!   そんな心配しなくても、すぐにどうこうなるわけじゃないか。もしやっかみがあっても、この学園にいる間は絶対に安全だし、卒業してもそうならないように僕が責任を持つよ。結果的に、君を勇者候補に仕立てたのは僕なんだから。あの時は誘拐のような真似をして悪かったね」

ランガジーノ様が頭を下げる。

「そんな!   今は世の中の色々なことを知ることができてとても満足しています。大変なことも多いけど、そのぶん充実した毎日を過ごせていますし、あの村で一生を開拓して過ごすよりは良かったと思っています」

「そう言ってもらえると助かるよ」

ランガジーノ様は頭を上げ、はにかむ笑顔を見せた。

「アバ先生は宮廷魔法師長を退任された後、この国立学園の学園長に就かれたんだ」

「そうだったんですか」

「かかか、敬え敬え!」

学園長はない胸を張る。なーんか尊敬できないんだよなあ。どう見てもアナと同じくらいの幼女だもの。ほら、ランガジーノ様も珍しく苦笑いだし。

……ふと、アナは元気だろうかと思った。ま、今更会うこともできないし、俺が頑張って生きていればそのうち会うこともできるだろう。
ただ、帝国軍がまたいつ開拓地域へ侵攻してくるか心配なのだが。

「それで肝心の話とは?」

「ああ、この前のエセスナ・イシュマエールの件についてなんだ」

「エセスナ先生の……」

あの怪物化した事件のことだろう。その後も含めて本当に大変な目にあった。ああいう大変さは全く求めていないのだが。

「彼の粉々になった死体は、我が栄えある神皇国の暗部が回収したんだ」

「暗部?」

「詳しくは言えないのだが……警備の部署の一つとでも思っておいてくれたらいい。その暗部の解析によると、彼の体内で魔力が暴走した形跡が見つかったんだ」

「魔力が暴走?」

「更に詳しく分析している最中なのだが、恐らくはなんらかの薬を飲んでいたのだと思われる。魔力を増強させる薬辺りが怪しい。勿論禁制品、つまりは作るのも買うのも禁止されている薬品というわけだ」

そんな薬品を……

「でも、そんな薬があるとすれば、先生はどこで手に入れたのでしょう?」

「それが問題なんだよ。もし薬のせいだとすれば、魔力が暴走してしまった場合、エセスナと同じように怪物になってしまう人が出てくるかもしれない。もしベルズの件のように、街中で突然それが起こってしまったら、今度も大パニックになってしまうだろう」

「あのハエの時のように!」

蝿が襲ってきた時も、皇都中が恐怖に包まれた。多くの被害が出てしまったし、俺ももう少しで死んでしまうところだった。
その怖さは今でも残っている。

「ああ、しかも目に見えない、誰が飲んでいるかもわからない恐怖に常に怯えることとなる。帝国の間者、つまりは敵国の人間が意図的に暴走を起こす可能性も考えられる。だからこの件は早急に解決しなければならない事件なんだ」

「……そういうことでしたか。でもそれを俺に教えてどうしろと?」

「嫌、勿論君に何かをやれと言っている訳じゃない、ただ当事者の一人として、知っておいて欲しかったんだ。僕は君のことを信頼しているし信用している。無闇に言いふらさない人間であると理解している。このことは今は、君の頭の隅に留めておいてくれるくらいでいい」

「わかりました。そう仰るのであれば、誰にも言いませんよ」

「ああ、お願いする」

ランガジーノ様は軽く頭を下げた。

「これが、ランガジーノ様が伝えたかった要件ですか?」

「いいや、もう一つあるんだ」

ランガジーノ様が片手をあげる。と、学園長がスッと部屋から出て行った。

「今の話は前座だ。これから言うことが本題だよ」

ランガジーノ様の目つきが変わる。



「君には、帝国軍討伐遠征に加わってもらうことが決定した」


          

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