俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第39話


「おはようお前ら!   今日から授業再開だ。まずは宿題を提出してもらう!   後ろから前の席に回していけ」

ティナリア先生の指示通り、カッツに宿題を渡す。これは座学の宿題ではなく、一応は実技の宿題になっている。

だが、その内容は自分の魔力量とスキル使用頻度の相関性について研究すること、だ。難しそうに聞こえるが、要は魔力量をいかに増やすか、そしていかに節約するかを問うものだ。今の俺にとって丁度課題になっている部分だったので、喜んで宿題を終えた。

宿題の紙には優しくも、代表的なスキルである”スラッシュ”一回を消費魔力十として、年齢別の平均的な魔力量を示した資料が付いていた。

入学後に測った俺の魔力量は、五百。思ったよりも多かったが、それは俺の”スラッシュビーム”の消費量がそもそも多いからで、魔力量自体は今年の一年生の平均より多かった。因みに平均は三百程度だ。個人の魔力量は機密として例え学園内で有ろうとも明かされることはないので、俺の魔力量が多いことと、切り札の消費量が多いことは他の生徒は知らない。

俺が四十位という順位に落ちてしまったのには、きちんと理由があった。スキルを二回使っただけで全ての人形を破壊してしまい、更に息切れしてしまったため、威力の判定は優だったが、スキル使用回数の判定は可だったのだ。

あのスキルの試験は、ド派手な技を見せつけるよりも、一体ずつ堅実に倒す方が評価が高かったらしい。たとえ凄いスキルを使ったとしても、その後俺のように疲れて動けなくなったしまったら、その時点であとはお荷物扱いとなる。
それに、実際の戦闘では一人で戦うことは少ない。仲間がいるところに、広範囲に影響があるスキルをそれを考慮せずに使ってしまうと巻き込んでしまう恐れがある。半年後の戦地遠征のことを念頭に評価すると、俺の順位は妥当なものなのだ。

後、座学の試験でちょっとしくじってしまっていた。それも影響したらしい。
ただ、スキルの評価自体は高かったため、なんとか一組に入れたというわけだ。

つまりは俺の課題は、スキルの、とりわけ”スラッシュビーム”の使用可能回数を増やすこと。そして大技を使った後にすぐに復帰できるよう、もっと基礎体力を増やすことだ。

ハエの魔物との戦闘を経た俺は、この学園の評価方法は真っ当なものだと思える。もしフォーナさんがスキルホルダーじゃなかったら、馬車の中はランガジーノ様のお陰で助かったとしても、外にいた俺とプッチーナはやられていた可能性が高い。
しかもスキルを魔物の列から少し外してしまったことでそのぶん使う回数も増えてしまった。真っ直ぐ突き進むが、射線の横にいる獲物を攻撃できることが出来ないビームのスキルは、一長一短がはっきりし過ぎているのだ。そこをどう補うかを、この一週間フォーナさんやエレナさんと頭を悩ませながら考え、紙に書いた。

まず、俺のスキルの使用可能回数についてだが、指を三本使うビームであれば五回までなら不都合なく使えることがわかった。それ以降は、一回使うごとに体の動きが約0.5割ほど落ちることがわかっている。指を一本だけ使うビームは約三十回まで普通に使える。

また、スラッシュビームは魔力の使用量が多いためか、三回使うだけで身体がフラフラとしてしまう。まあそれでも、最初は一回使うだけでそうなっていたのだから、この一ヶ月でだいぶ魔力がついたということだろう。

魔力を増やすには、とにかくスキルを使うか、身体を鍛えるかしかない。スキルは使えば使うほど、感覚が身につき消費量を節約できるようになっていくし、体力が増えれば自然と魔力量も増えるからだ。

三十歳位までは、歳を経るごとに魔力量は増大していく。その増大する量は上に述べた方法で飛躍的に伸ばすことができるのだ。実技の授業が厳しい基礎鍛錬から始まったのも、俺くらいの歳では特に身体を作ることで後々に活きてくるからだ。

基礎鍛錬はフォーナさんに手伝ってもらうとして、スキルの方は自分でも工夫をしていく。ビームを出す時間を短くしたり、連続で出したりと色々な事を考えている。それらをモノに出来れば、きっと俺のスキルはとても有用なものとなるだろう。

「よし。三十九部集まったな。これは座学と実技両方の評価に加えられる。適当な事を書いていると、後で痛い目を見るぞ?   じゃ、授業を始める。今日は前回と間が空いたから、おさらいから始めるぞ。教科書の--」




「疲れた……」

「カッツ、途中から頭がフラフラとしていたぞ。眠いんだったらタイミングを見計らって後ろから突いてやろうか?」

俺は笑いながら冗談を言う。

「おい、やめてくれよ。タダでさえおでこが痛いのに、今度は背中かよ」

カッツは寝そうになるたびに、ティナリア先生からマナペンを飛ばされていた。いつか俺も巻き込まれそうだから、いい加減真面目に授業を受けて欲しいものだ。本当によく一組に入れたな、こいつ。しかも出席番号から考えて、俺よりも成績が上だってことだしな……

雑談をしながら、食堂へと向かう。食堂は広いため混みはするが座る場所がなくなると言うことはない。ただ、人気の料理はすぐになくなってしまうが。俺たちはそこまでこだわっていないのでいつも適当に選んでいる。なのでこうして話をしながらゆっくりと向かっているのだ。

午前の授業は九時から始まって十二時に終わる。昼休みは一時間あり、その後夕方の四時まで午後の授業だ。



「おっ、一組の落ちこぼれじゃないか」


廊下を歩いていると、前から歩いてきた集団の先頭に立つ少年が声をかけてきた。

「なんだ、お前?   いきなり悪口を言ってくるなんて、どこのどいつだ、おい?」

カッツが返事をする。

「何?   僕のことを知らないのかい?」

少年は薄茶色の長髪を片手で搔き上げ払う。歩き方といい、動作が一々嫌味ったらしいな。

「信じられない!」
「ドン様のことを知らないなんて」
「落ちこぼれは必要な情報が入ってこないのよ、かわいそう」

取り巻きはみんな女の子だ。皆言いたい放題に俺たちの悪口を言う。

「まあまあ、ベイビー達。そう言わないでやってくれたまえ。この子達は見たところ平民じゃないか、劣等人種に崇高な存在を認識しろだなんて土台無理話なのだよ、はははっ」

「おい「なにっ!?   お前、今なんて言った!」……カッツ?」

『きゃあ!』

俺が反論しようとすると、カッツが前に出てドン様とやらの服の胸元を掴み上げた。

「おやおや、平民はすぐに手が出てしまうんだね。全く野蛮だ」

「お、おまっ……!」
「カッツ、やめておけよ!」

「ドン様!」
「手を離しなさい!」
「平民風情が!」

取り巻き達の罵倒を無視し、俺はカッツの腕を掴み話すように諭す。が、払い除けられてしまった。
ドンは胸元を捻り上げられているにも関わらず、笑顔を崩さない。

「大丈夫だよ、ハニー達。茶髪よりも黒髪の方が冷静なみたいだね。茶色の髪なんて捨てるほどいるから、犬みたいにきゃんきゃん吠えないと目立たないだろうから、仕方ない。はっはっは!」

『うふふふふ』

「も、もう我慢ならん!   お前、今すぐボコボコにしてやる!」

カッツの顔が、横からでもわかるほど真っ赤になる。

「おやおや、なんだい、決闘でもするのか?」

ドンが嫌味ったらしい笑顔を深くする。



「そ、そうだ、決闘だ!」










「それで決闘に、ですか……」

夜、食事をしながら今日の出来事を について互いに話をし、俺はカッツとあのロン毛のやり合いについて状況を説明していた。

「その男の子、酷い子ですね!   平民と貴族の身分差なんて、この学園では全て関係がないはずなのに!」

エレナさんがプリプリと怒る。

「その通りです。宮殿で働いているエレナも知っていると思いますが、貴族の中には平民のことを平気で見下みくだす者がごまんといます。本人が貴族ではない親族もそれは同じです。その少年も貴族の息子なのでしょう」

かく言うフォーナさんも貴族だ。だがフォーナさんは俺たちのことを決して見下しはしない。家臣が死んだら自分の責任として気を背負ってしまうほど仲間想いの人でもあるし。

「それでクロン、そのカッツという友達は決闘を正式に申し込んだのですか?」

「はい。今週末、休みの日に訓練所でするそうです」

「訓練所……ということは、剣を使った決闘ですね」

決闘は学園に申し込むことで正式なものとなる。場所は訓練所、模擬戦場、鍛錬場から選ぶことが出来、訓練所は剣か格闘。模擬戦場はスキル、鍛錬場では体力勝負となる。

カッツは今回は剣で戦うことを選んだ。自信があるのだろうか?

「そうですね。相手も了承しています」

当たり前の話だが、決闘は相手が承諾することで初めて執り行われる。拒否されたらその相手には三ヶ月間、季節が変わるまで申し込むことが出来ない。
あのロン毛が何を思って決闘を受けたのかはわからないが、そもそもあっちから煽ってきたのだ。ここで逃げたら盛大に言いふらしてやるところだった。

あの生徒は二組の生徒だった。ドンダルマ・ニバジョという名の、ニバジョ男爵家の次男だ。
担任のエセスナ先生もちょっと傲慢な感じがするし、言われてみればああ、と納得する。
もしかして、二組全体が平民よりも貴族の方が上みたいな考えを持っているんじゃなかろうな?

「そのカッツという子は、剣は得意なんでしょうか?」

エレナさんが訊ねてくる。

「実のところ、それはわからないんです。入学試験の成績では百点中八十点くらいだったようですが、試験の点数だけでは対人戦でどれだけ戦えるかはわかりませんから」

入学試験では、基本動作と呼ばれる剣の持ち方や振り下ろし方、身体の使い方など基礎的な部分の評価と、動く的となった人形を使った威力の審査の評価があった。公平を期すためか、剣でもスキルでも対人の試験はなかったのだ。
ちなみに俺の点数は八十五点だった。村にいた頃は素早く動く鳥や兎を追いかけていたためそれがうまく活かせたのだ。勿論、フォーナさんの教え方が上手かったのもあるが。

「そうですか……もしこれで負けてしまったら、カッツ君は夏休み明けには二組に行くことになるかもしれませんね」

フォーナさんがいう。

「それは、どういうことですか?」

カッツが二組に落ちる?   何故そんなことになるかもしれないんだ?

「実は、殿下に頼んでこの学園の生徒の組と出席番号、使用できるスキル。それと入学試験の成績を手に入れたんです。学園では順位が入れ替わることがあるのは知っていますよね?」

「はい、それは勿論」

年末に行われる座学・実技の最終試験の結果によって、入学試験のように順位が付けられ、次の学年に上がったときの組が変わるのだ。また、カッツが行う”決闘”の結果によっては、勝敗が決した時点で順位が入れ替わることがあるのだ。
通常は最終試験の結果で入れ替わる順位が、半年で入れ替わってしまうのは大きいことだ。しかも入れ替わったら半年間を過ごした組とは違う組で残りの半年を過ごすことになる。決闘での勝敗は最終的な成績に含まれるため、次の学年、そして卒業後にも影響する。

また、この順位は学園内での貨幣であるポイントの入手できる量に関わってくるため、決闘をするということは負ければ学園生活が苦しくなる覚悟も必要なのだ。

それだけではない。卒業するときの組によってどんな仕事に就くかも変わってくるし、いい仕事についたり、出世をしたいのなら当然上の組に入ることが求められる。
貴族であれば、下の組のまま卒業してしまったらそのまま勘当(家を追い出されること。通常二度と戻ることはできないらしい。また当然その家の者であることを名乗ることも許されないし、接触すら禁じられる場合もあるという)されることもあるらしい。

つまりカッツは、自分から剣での決闘を申し込んだのだから、余程勝つ自信があるということになる。
入学してまだ一ヶ月しか経っていないのに、自分の将来を決めてしまうかもしれない賭けに出るとは……だから、俺は止めようとしたのだが。

「クロンがもし今回のようなことに巻き込まれ、決闘をすることになってしまった場合、相手の順位というものが重要になってきます。予めどんなスキルホルダーがいるのかを把握しておくことは大事なことだと思いましたので、頼み込んで用意してもらいました」

フォーナさんが紙を取り出す。

「ありがとうございます!」

だいぶ貴重な情報だと思うが、ランガジーノ様もよく承諾してくれたものだ。

「ほわあ、そんな凄いものを!   フォーナってやっぱ偉いさんなんですねえ。いや、そもそも貴族様で神子殿下の秘書なのだから当たり前しょうけど、えへへ」

「そんな。私が秘書に選ばれたもの偶々ですし、そのコネ・・で手に入れられただけですよ。私よりも殿下に感謝しなければ。取り敢えず、確認してみましょう。ドンダルマ……」

フォーナさんが広げた紙を覗き込むと、そこにはこう書いてあった。



【一年二組一番   ドンダルマ・ニバジョ   座学八十点、剣技九十五点、スキル七十五点   スキル名<剣の舞ブレイドダンス>】



          

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