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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第38話


「おはようございます」

「おはようございます!」
「……おはよう、ございます」

いつもより遅めに起きた俺は、リビングで紅茶を飲んでいるエレナさんとフォーナさんに挨拶をし、ダイニングに向かい朝ごはんを食べようとする。
最初に挨拶を返したのはエレナさん。いつもほんわか元気な人だ。フォーナさんは、いつもよりも少し堅苦しい感じがする。

リビングと繋がる扉に手をかけた時、フォーナさんが声をかけてきた。

クロン・・・、私は先に向かいますので、遅れないようにしてくださいね」

「はい。わかっていますよ」

「んん?」

フォーナさんはソファから立ちあがる。

その服は、よく見ると白いフリフリのついた紺色のワンピースだった。いつも男装のような執事服を着ているので、とても新鮮だ。余程デートに気合を入れていると見える。

エレナさんはそんなフォーナさんを見て、眉をひそめる。

「フォーナも、遂にクロンのことを呼び捨てにするんですね!   でもその服装はなんですか?   それに化粧も、少し濃いような」

あれ、未だあっちからは様付けの筈だが。確かに今さらっと呼び捨てにされたような。エレナさんは既に俺のことを呼び捨てだ。

「え、ええ。クロンとはもう三ヶ月の付き合いになりますからね。私だけいつまでも謙る必要はないかと。その方が接しやすいでしょうし」

まあ、別に俺は構わないが。元々俺だってフォーナさんが貴族だから様付けしていただけであって、エレナさんはずっとエレナさんだし。

「服装は……気分転換、でしょうか。似合ってますか?」

フォーナさんはエレナさんに自分の服装を見せつける。

「ええ、もちろん。髪の色と見事にあっていますよ。フォーナは青関係の色がよく似合いますね!」

「ありがとうございます」

「でもでも、その格好で鍛錬に行くのですか?   いえ、別に女性らしい格好をしてはダメなわけではないと思いますが、流石にワンピースでは……それはもう八時ですよ?   今日は鍛錬をしないのかなと思っていましたが、もしするのなら今からお弁当作りましょうか?」

エレナさんも立ちあがり俺と一緒にダイニングへ行こうとする。

「い、いえっ、結構ですっ!」

フォーナさんはいつもの冷静な様子とは違い焦ったように声をあげる。

「え?   でも」

「だ、大丈夫ですから、ええ。お気になさらずに、ええ。」

彼女は髪を落ち着きなく触る。

「はあ……そう仰るのなら。わかりました、私は留守番をしていますね。クロンさん、フォーナ、頑張ってきてください!   あ、でもその前に折角ですのでクロンのパンを焼いてあげますね」

「はい、ありがとうございます。じゃ、お願いします」

「あらあら」

俺はエレナさんの背中を押してダイニングに連れて行く。フォーナさんに早く行け、と目配せをした。頷いて、部屋の扉からこそっと出て行く。

ふう、これでどうにかバレずに済んだようだ。

「ねえ、クロン」

「はい?」

ダイニングに入るや、エレナさんがこちらを振り向く。

「デート、楽しんできてねっ」

満面の笑みで、そう言った。バレていたようです……




「おお、結構人がいるな」

中庭の噴水広場に着くと、ベンチに恋人同士らしき男女や、友達同士話をしている姿が複数見受けられた。みな、一週間の休日というだけあって私服だ。

俺も私服を着ているが、服は購買で買ったものを着ることになっている。
購買はちょっとした商店街くらいの大きさがあり、服だけでなく食料や家具、武器まで売っている。お金は学園内だけで完結している”ポイント”と呼ばれる貨幣だけが使え、金銭感覚を養うためか、物の値段は外と変わらないくらいで付けられている。
学園が全てを負担するとはいえ、何もかもハイハイと要求を聞いてくれるわけではない。制限された中でいかにやりくりするかを求められているのだ。
それには勿論、使用人の頭の良さ、要領の良さがカギだ。楽をしようと使用人を何人も連れてこれば、そのぶん食費やら何やらがかかるし、一人も連れて来なければ、生徒が全てを管理しなければならない。

ではそのポイントをどうやって手に入れるのか?   まず、生徒全員に年の始めに十万ポイントが配られる。十万と聞くと多いように思われる(俺も最初聞いた時にびっくりした)が、皇都の物の値段を基準にしているためそもそもが地方よりも物価が高い皇都価格で色々なものを買おうとすると、意外とお金がかかるのだ。
では何故皇都では物の値段が高くなるのか。それは父さんから色々と聞いたが……長くなるのでやめておこう。

お金の単位は、銭貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨という五つが流通している。角切りの片手でギリギリ挟めるくらいの厚さパンの値段は皇都では銅貨一つ、ここでは百ポイントだ。

つまりはパンが千個買える。俺たちの消費量では(鍛錬で腹が減るため)パンは一つで一日ぶんあるため、三人で合計三つ食べると考える。と、一ヶ月は7日が4週間で28日あるため、12ヶ月で一年間継続的に消費すると8400ポイントとなる。これに野菜や肉などを加えると、今の俺たちの消費速度では食事だけで計四万ポイント以上はかかりそうだ。

俺の今来ている服は上下で五千ポイントもした。そんなに高いのはいらない、と言ったが、将来の勇者が云々と説き伏せられて買ってしまったものだ。
しかも女物の服、あのフォーナさんの来ていたワンピースなんて、一万ポイントもしたのだ。目が飛び出るかと思った。

そんな感じで買い物をして行くと、十万ポイントなんてすぐに尽きてしまうだろう。
しかし、支給されるのは何もこれだけではない。他にも順位に応じたポイントや、模擬戦での賭けに使うなどその入手方法は多岐にわたる。ここでは述べないが。



だって、目の前に、麗しき乙女が現れたのだから。





「フォーナさん!」

近づいて行くと、あっちもこちらに気づいたようで、控えめだが腰の辺りで手を振ってくれた。

「クロン、丁度ですね」

広場に設置されている時計を見ると、きっかり十時を指していた。

「はい、いい天気で良かったです。では早速……どこに行くのですか?」

よく考えたら、デートをしようという話だけ決めて他の事は全然打ち合わせをしていなかったな……

「ええ、ええ。わかっていますよ、クロンは女性経験・・・・がありませんからね」

その服装といい、今日のフォーナさんは妙に大人ぶるな。デートといっても、向こうからすれば所詮は子供との遊びみたいなものだと思うのだが。

「女性経験……ない事はないですが」

だって、村ではアナと遊んでいたしな。あいつとは今でもただの友達だと思っているし、当時も別にデートをするような関係じゃなかったが。アナだって、俺のことは男としてみていないはずだ。

「えっ、まさかその歳でもう経験したことがあるのですか!?」

「はい?   村に幼馴染がいましたから、そのことはよく遊んでいましたよ。まあ、こんな都会ではなく貧乏な村でしたので、川や森でですが」

「……な、なんだ。びっくりしたじゃないですかっ!」

「えっ、なんでそんなに怒っているのですか?」

女性と遊んだ経験があるか聞いて来たのはフォーナ様なのに。

「っ……お、おほん!   いえ、すみません。少し緊張しているようです」

「はあ……そんな、俺みたいな男とデートといっても、休日に散歩するだけですし。そんな緊張するような何かがあるとは思えませんが」

「いいえ、そんなことはありません!   クロンはいい男ですよ。その目つきの鋭さといい、身体も鍛えられていますし、歳の割に逞しさがあります。もっと自信を持ってください、ね?」

目つきで言えば、以前の冷たいフォーナ様なんか、心臓を貫かれるかと思ったこともあったな。身体は入学試験の鍛錬の成果もあるだろう。

だが、褒められて悪い気はしない。三ヶ月ここまでやって来て、ようやく認められ始めたということか。

「ありがとうございます」

「ええ。でないと十八年間男に全く縁がなかった……ごにょごにょ……」

「十八年間がどうかしたのですか?」

「いいえ、別にっ。さあ、いきますよ!」

そう言ってフォーナさんは手を差し出して来た。俺はそれを握り返す。また合わせ場所の噴水からおそらくは購買のある区画だろう方向に歩き出す。

こうして並んで歩くと、少しはデートをしている気分になるな。エレナさんの時とはまた違った感覚だ。

「いてっ」

「今、他の女のことを考えていましたね?」

「……そんなことはありません」

「本当ですか?」

「……本当です」

「まあ、そうなら別にかまいませんが。こうして並んで歩くと、なんだか姉弟みたいですね」

フォーナさんが笑いかけてくる。確かに、九歳と十八歳じゃそれくらいの年の差かな。流石に親子とまではいかない。

「そうですね。まさか、休日にフォーナさんと二人きりでデートをしているだなんて、数ヶ月前の俺が聞いても信じないでしょうね」

こんな冷静で無表情な貴族様が学園でのお世話係になるとランガジーノから言われた時は、当時は田舎者な俺は上手くやっていける自信が全くなかった。今も、都会っ子とは言えないが。

「ふふ、そうですね。あの出会った頃は、私も貴族として頑張らないとと気を張り詰めすぎていましたから。色々と厳しいことを押し付けてしまったかもしれません」

家臣の死という出来事困難を乗り越え、少しは気が楽になったのだろう。彼女は本当はこんな柔らかな人だったのかと知ることができて嬉しい。

「いえ、まさか。フォーナさんが鍛錬を手伝ってくださったお陰で一組に入れたのですから。それにお世話をしてくださって、とても助かっています。入学してから、こんなに学業に時間を取られるとは予想していませんでしたから」

様々な科目の勉強に基礎体力や剣、スキルの鍛錬。それに加えて日々の生活。フォーナさんとエレナさんという二人がいなかったら、俺一人では暮らしていけなかっただろう。
そう言えば、プッチーナは使用人がいないみたいだが、よくやっていけているな、あいつ。

「国立学園ですからね。生徒にはそれは徹底的に教育を施すでしょう。私は、成り行きで子爵になったので、学校は殆ど通っていませんでしたが、こうして学園の中にいると、自分も子供の頃に戻ったような感覚があります」

フォーナさんは遊歩道の街路樹を見上げる。入学試験の時はまだ裸だったが、葉がだいぶ青くなってきたな。

「フォーナさんの子供の時の姿……さぞ可愛いんでしょうね」

「か、可愛いだなんて、そんな……」

「いえ、今も美しいじゃありませんか。これ、本音ですよ?」

当初は冷たい目だったが、それでも出会った時から美しい人だなと思っていた。そこらへんの自称美女なんて道端の石ころみたいなもんだ。

よく考えたら、俺の周りには結構な美人美少女が多い気がするな……恵まれているんだな、俺。ま、今は女性関係にうつつを抜かす余裕もないから気にしていなかったが。

「く、クロン……さ、さあ着きましたよ!   今日はポイントを沢山使って貰いますからね!   女の買い物は長いですから、覚悟してくださいよ」

「えっ、今から買い物ですか?」

「ええ。デートといえば、あちこちを見てキャッキャウフフするものだとエレナが言っていました」

エレナさん……あの人とのデートも朝に待ち合わせをして屋台を見て回っただけなのにいつの間にか夕方になっていたな……展望台に登った時なんて星が見えていたくらいだし。

「お、お手柔らかにお願いします」

「却下です」

そんないい笑顔を今このタイミングで見せられなくても……




「本当に、綺麗ですね」

「ええ、そうですね」

俺はまた、あの展望台に来ていた。星が綺麗だ。

「ですがこの景色も、エレナに聞かなければ案内できなかったわけですから。まだまだ女として磨きをかけなければ……!   また、付き合ってくれますか、クロン?」

「勿論です。俺も、なんだかんだ楽しかったですし!」

結局買い物で一日が終わってしまったが、昼や夕は学園内にあるレストランで食べたし、買い物自体も購買の種類が元々豊富ということもあって、思ったよりは飽きることもなかった。序でにエレナさんへのお土産も買えたしな。

「それは良かったです。良い休日を提供できたでしょうか?」

「ええ。ありがとうございました、フォーナさん」

俺たちは、椅子に座り自然と腕を組んでいた。身長は俺の方が低いので、フォーナさんが俺に身体を寄せる感じだ。

「いいえ、まだ終わりでは有りません。仕上げ・・・が残っていますよ?」

仕上げ?



--ちゅっ



「!?」

いきなり、頬にキスをされた。

「っ!   こ、ここここれは、その、付き合ってくださったお礼です!   それと、私のことを色々と気にしてくれているようなので、そのぶんも……べ、別に他意はありませんから」

「そ、そうですか……」

そう言い切られたら、俺もそう思うしかない。うん、他意はないんだ。別に男女の何かがあるわけではない、うん。

「……月が、綺麗ですね」

「……そうですね」

俺たちは恥ずかしさを紛らわすように、暗闇に浮かぶ星と月を眺め続けた。

だが俺は、身体の火照りが暫く治らなかった。これ以降しばらく、月を見るたびに顔を赤くしてベッドで転がりながら唸ることになるのだが、それはまた違う話。


          

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